こちらの作品は私のオリジナル作品です。
他サイトで投稿しているものをこちらで載せています。
盗作では有りません。
ポケクリとこちら以外で見かけた方は御一報下さい。


「おっ!若旦那でないか!
体調はよろしいんでっか?」

取り引き相手の旦那に問われ、つい苦笑してしまう


「はい、大変ご迷惑をおかけいたしました。なんとか、戻りましたんで、数日前から商いを続行させて貰ってます

製鉄さんには、これからも、どうぞよろしく頼んますわ」


「ええきに、ええきに!
こちらとて、永年のお付き合い、よろしゅう頼んますわ」



お互いに頭を下げて、言い合った

蘭がパニックを起こしたあの日から、流石にこのままではいけないと、遅れた分の情報徴収と、体力を戻すことに専念しはじめて数日、ようやっと商いができるまで回復


今まで通り、取り引きさきやら贔屓にしている客の相手をしている


「そういや、若女将はんはいらっしゃらないのですか?
今日はみていないですが…………」

「ああ、妻は、只今番頭の榊原と一緒に南方さんのところに使いに行っております」


私は、ニッコリ笑いながら伝える




あの日………………



『………離縁、しようか?』


私は、腕の中におさまる蘭の肩に額を当てながら呟く

『……………え?』


蘭は、ビクッと体を硬直させ、戸惑いに似た態度をとった


『ここにいて、落ち着けないなら、赤潮に戻って………過ごした方がいいと思ってな?

仮身請けの伊里早の旦那にも、再び身請けしてもらえるよう手配はとる』


『…………っ、せやけどっ!
あちきがここを離れたら赤潮に金が……、


蘭は、反動を付けてこちらを見る
今にも泣きそうな顔をしていた

ここに来てから、こんな顔しかさせてないな

苦笑しながら、再び蘭の頭を撫でる

『何も急にと言うわけじゃない

蘭が、やっぱりここじゃなくて、赤潮や伊里早の旦那のところにいた方が落ち着くというなら、私は……………納得して、離縁しても構わないと思うんだ』


『…………若旦那』


『もちろん、赤潮への寄付金は絶えず送り続けよう
これは、絶対守ると誓う。
存続ができないのは、同じ商い者としてつらいからな』


『……………』


蘭は、私の言葉に、無言となり、私を凝視する


『………蘭、あくまでも、君優先だ

このまま、こちらに残ると決めているなら、それに従うし、あちらに戻りたいというのなら、それに従う


散々君を困らせた亭主の、償いだと思ってくれていい』

私は、ニッコリ微笑みながら言い放つ


『今まで、沢山我慢して、頑張ってくれた


そんな蘭への、ご褒美でもいいな?

うん、そっちのほうがしっくりくるか…………』


蘭へそう問い掛けるが、なんの反応も反さない


私は、今度は正面から蘭の身体を抱きしめた


『蘭、蘭?

これは、ご褒美なんだ

深く考えなくていい


君の行きたいところへ…………飛び立てばいいだけなんだ…………
私は、君の伴侶になれたこと、後悔はないよ?逆に感謝している』

『…………若旦那………』


私の胸の中で、蘭は呟きながら、啜り泣く


どういった気持ちから啜り泣いているのか、検討つかないが
今はなんでも構わない


腕の中にいる最愛のひと



このひとが幸せと感じる道ならば、どんな結果でも受け入れよう


それは、私にとっても幸せなことだから









「……………旦那?」

「…………っ、はい?」

「大丈夫でっか?なんぞ具合でも?」


受け取り金額を確かめながら、相手が問いかけてくる

「いやいや、今ごろどの辺りに差し掛かっているかと思いましてね」

「南方さんところは遠いですからなぁ…………今年で70を迎える偉い頑固なじいさんで、息子夫婦が誘っても頑なに今いる山頂から降りようとはしない

今までどことも契約は採らずに、旦那の金物屋一本にしぼって………なんぞ恩でもあるんかな?」

「さぁ…………親父の代では既に取り引き相手やったみたいですから、なんとも………」

私は、腕を組ながら言い放つ


「そうでっしゃろけど、なんか聞いてへんかな思うてな?」


相手は、笑いながら言い放つ