こちらの作品は私のオリジナル作品です。
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けれど、伊里早の旦那は、そんな私を疎ましく思うこともなく、地道に関わりを築いていってくれた
今では感謝している
本当の娘のように扱ってくれて………守ってくれて………


けれど、その旦那の言葉でさえ、姐さんが亡くなった今は嘘のような感じがしてならん





私に話してくれんかったんは………やはり私が、そこまで姐さんには気を許して貰っていなかったのだろうか…………



そんな考えがいつも頭の中を占領していて、それと同時にここを強く憎み、自分を呪いたい気持ちにかられ、泣きそうになったことが何度もあった


でも、ここの若旦那やお公美さんの前で、そんな所は見せたくない、弱った姿は見られたくなくて…………顔を出来るだけ見られないようにしていた


「………日中、明るく周りに接しているけど、それは長くは続かない
時間が立つにつれて、だんだんと悲しい気持ちが占領してくる

私といるとき、あまり向き合わないのは、泣いてしまいそうな顔を隠すため
言葉を交わさないのは、声が震えてしまうため
素っ気ないのは、他人に甘えないため……………違うか?」


更に確信を得た言葉が発せられ、私はその状態で固まるしかなかった


暴かないで


それ以上踏み込まないで…………


なんでこの人は………いつも気が利かない人なのに………


こんな時だけ勘が鋭いんだろう…………



何も言えない私を見て、旦那はゆっくりほくそ笑む


「…………べつに、そんなんやあらしまへん…
…若旦那の思い過ごしでしゃろ…………」

私は、ばつが悪くなり、覇気のない声で言い放つと、これ以上暴かれたくなくて、後ろをむく

そんなことをしたって、どうにもならない事はわかっているけど、今は若旦那の顔を見るのが怖かった

見てしまったら、感情が抑えきれなくなって………泣いてしまいそうだったから…………

それでなくとも、今日は散々泣いたばかりで、涙腺が緩いのだ…………


しかし、背後から身体を抱き締められ、私はびっくりして身体を跳ね尽かせた

「………!何しはりますのっ!」

急いで腕を振りほどこうとするが、背後から抱き込まれているため上手く解く事が出来ない

そればかりか、段々抱き込む腕の力が強くなる


「…………蘭、無理しないでくれ………」


「………!」


旦那の、ゆっくりとした静かなその声に、ぴたりと動きを止める


「…………こうすれば、見えないだろう?泣き顔なんて…………


我慢せずに、泣きたい時は泣いてくれ…………受けとめるから………わがままを沢山言った償いに、蘭の悲しみを全部受けとめるから……………気を張るな………頼むから…………」



そういうと、ギュッ一層強く、私の身体を自分の身体に引き寄せた

「…………恨み事があるなら…………全部聞いてやるから………吐き出せばいい……………

なぁ、蘭…………

全部吐いて、すっきりしないか?」


優しく、問い掛けるかのように言い放つ旦那の声は、不思議と気持ちが良く感じてしまった



姐さんを死に追いやった、憎むべきはずの男なのに………あれだけ強く、許さへんと思った相手なのに……………


力強い腕に抱かれて、力強い心の音を背中に聞いて…………安心してしまう自分が…………いた