こちらの作品は私のオリジナル作品です。
他サイトで投稿しているものをこちらで載せています。
盗作では有りません。
ポケクリとこちら以外で見かけた方は御一報下さい。



「大丈夫でございますか?若女将様」

「………お公美はん………」


ゆっくり首を回して、首の筋を解していると、女中頭のお公美さんが、香り良いお茶を運んで来た


「ありがとございます

お公美はんのはいつもええ香りですわ…………」


お茶を受け取りながら、そう呟くと、お公美さんは、軽く溜め息をつく


「…………どないしたん?」


不思議に思い、首を傾げながら問い掛けた



「……………若女将は、あたしらの前だと、そうやってお笑いになるんですね」


「はい?」


意味がわからず、顔を顰める


「…………どうして、若旦那の前ではお笑いになったり、お話をしたりなさらないのですか?」


「………………」

そう問われ、私は無言になってしまう


数日前に榊原が言った言葉と同じだった

というか、楽しくないのに、笑い合えるわけがない
話なんて、合うものがないんだから、話さないのは当たり前だとおもうが……………

そんなことを思いながら、お茶をすすると、お公美さんは気にせずに口を開く
「………若旦那は、お小さい頃から、賑やかな環境でお育ちになりました

共にお過ごしになられて、お分かりになるとは思いますが……………


この屋敷は、いつも笑いが絶えず、
いつまでも尽きない、他愛ない話で盛り上がる所でした


それこそ、他人様が見たら、気でも違ったかと疑いたくなる程に………」


「……………それは…………すごいですなぁ………」



私は、苦笑いしながらそう返す

流石にそこまでになると、私でさえ引きたくなる



お公美さんは、私のつぶやきに、ふっと笑う


「そうなんです
すごい所なんですよここは…………

ですが、奥様となられたあなた様と、若旦那様が、共に笑い合うお姿を…………私は全く見たことがありません」


「………………」

笑っていた顔が、途端に無表情になる

「幾数日が経つというのに、

若女将様と若旦那が、仲睦まじく笑い合うお姿を…………みたことがないというのは、私らにとって耐え難いこと………」


「…………なぜですか?」


「……………笑い声が絶えないこの屋敷に、一ヶ所だけ無音の世界が広がっていて……………

誰も踏み込む事が出来ないからです」


お公美さんは、俯きながら言い放つ


無音の世界……………


よく例えたと思う


確かに、私らの間には、無音に近い状態が続いている

お互い話さなくなった今では、それこそ空気のように…………



「…………お声をかけたくとも、お二人の世界が無音では…………

私ら使いの者は、端のほうで見守るしかない


幾らか話が飛びかうなら、私らはそれを上手く使って、話の流れをよくする事ができるのに…………」



悲しい表情で、お公美さんは私を見ながら言い放つ


「…………最近、若旦那が、お酒を飲んだり、食事を摂らなくなったのは、


そういった、若女将との団らんを求めてなのではと…………思うのですが…………どう思いますか?」