こちらの作品は私のオリジナル作品です。
他サイトで投稿しているものをこちらで載せています。
盗作では有りません。
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「女将さん…………
もうええんです。顔上げてくんし。
お世話になっとる旦那や女将さんの役に立てるなら本望ですわ
それに、澄舞の姐さんとと約束したんよ」

「約束?」

「あい。姐さんが亡くなったあの日…………


姐さんの代わりを立派に勤めるゆう約束です


これは、もう取り消せん約束


途中で逃げ出すような野暮なことはしとうありまへん
それに…………」


夕蘭は、一呼吸置くと……………


「澄舞の妹分はあちきです
そのあちきが、姐さんの身代わり引き受けるんは当たり前のこと
他の女朗らに、代わりなんぞできはしません
これだけは、譲れない地位でありんす」



力強い声で、そう言い放つ



女将さんは、その言葉を聞いて、何度も何度も礼を口にしていたが……………



私は内心、ショックを受けていた


離縁すると、夕蘭の口から出なかったことは、少なからずホッとした


だが………………


『姐さんの代わりを立派に勤めるゆう約束』

『これは、もう取り消せん約束』

『澄舞の妹分はあちきです
姐さんの身代わり引き受けるんは当たり前のこと』


夕蘭の言葉が、何度も何度も頭の中で繰り返し流れる







夕蘭は、『約束』と言う枷を身につけて、姐女朗の代わりで来ただけで…………………




一切私を、







今後も1人の大切な人とは思ってはくれないんだと……………






悟ってしまったから……………




あの日から、何となく、夕蘭の言葉が真実ではないと信じたくて、飲めない酒を煽っては、夕蘭に甘える素振りを試してみた



けれど…………


『奥様でしたら、既に寝屋に入りましたが…………』

『奥様からの言伝で、あまり余所様にご迷惑のかからない程度にお飲みになり、ご帰宅下さいとのことで』



どれも、聞きたくない内容ばかり


ならば、具合の悪い振りでもすれば、さすがに心配してくれるかと…………食事を初めて夕蘭の前で残してみたが……………



『若旦那様、今日はあまり食べとらんようで………』

『若旦那とて、完璧な神と違いますやろ?残す時もありんす
欲のないときに何言うても効果ありまへんし、少し様子みておくんし』





抑揚のない声でそう説明するのが何度もあり……………





何をしても、夕蘭には私はただの『夫』という名前でしか目の前に存在していないんだと……………


分かってしまった……………



だから、




『……………若旦那?
ようけ食わんですな?
何処かそぐわないなら、どうぞお医者様へかかってくんし』


3日後に、味噌汁をすすりながら夕蘭がそう言うが、傍にいた女中が頭を抱えるのを見て



夕蘭が考えた言葉ではないと、思った


夜遅くに酒を飲んで帰っても、薄く蝋を照らし、先に布団に入りながら、足音で気付くと、気怠そうに…………………


『あんまり深酒は危ないぇ?程々にしんしゃい』


そう言い放つが、その言葉も、多分にして女中達が考えた台詞を、伝えただけだろうと考える




義務で嫁いできた夕蘭にとって、私は、どうでもいい存在なのだ



そう考えてしまうと、幾ら私が夕蘭を好いて、寄り添おうと試みた所で……………


なんの結果にもならないのだろうと……………思い始めてしまった


こんなことなら、夕蘭の覚悟など、聞かなければよかった




あのまま、何も知らぬままで、夕蘭に心開いて貰おうと躍起になっていたほうが、まだよかった………………