ガチャリ。
ある一室のドアが開いた。
《七式・ホームズ》
「ふぅ・・」
ホームズはいつものロングコートにハットを深めに被りステッキを脇に抱えリビングに入ってきた。
いつもよりも眉間にしわをよせ険しい顔つきでリビングの中をうろつきながら何やらブツクサ独り言を言っている。
一時間以上も前から、この部屋で大好物のアップルパイを堪能しながら、くつろいでいた先客のワトソンはホームズがこの部屋に入って来た時からの彼のこの一連の行動をみてあることを察した。
(おっ!このホームズの行動パターンは
こりゃ久しぶりの事件だな!しかもかなりの事件とみた。
前のようなウォーター事件や成りきり事件なんかではなく、こう・・なんていうのか、とにかく複雑な問題であり事件の匂いがするゾ!!)
こんな時は決まってワトソンは
ホームズが話しかけてくるまでは
知らん顔をしている。
もちろんホームズ自信もこの同じ空間に
ワトソンがいることは知っていた。
険しい表情を浮かべながら、うつむき加減で、しばらくは檻の中に閉じ込められたライオンのように同じところをウロウロとさまよっていたホームズが突然その忙しない足取りを止めワトソンのほうに振り向く。
ホームズはワトソンの顔をまじまじと見つめたまま、そのままステッキを暖炉の脇に放り投げハットをテーブルの上に投げ捨てたが、勢いあまって、ハットはそのまま床に落ちた。
ワトソンはやれやれといった表情を浮かべて
床に落ちたホームズ専用ハットを拾い上げようとしたその瞬間ホームズが口を開いた。
「ぼくと君は・・その・・。
何て言うのか・・つまりは・・友達かい?」
あまりに突然の、そして、あまりの突飛なこの言動にワトソン自身の脳みそがついていけない。
困惑するワトソン。
《ワトソン》
「・・!?すまないホームズ・・君がなにを言いたいのかわからないんだが?
ハハハ・・それとも何かの悪い冗談かい?」
ホームズはどっかりとその場のソファーに
腰をおろすやいなや
「いやっ…冗談なんかではないよワトソンくん。これは極めて真剣な問いだ。」
ホームズのひときは鋭く光った眼光は
対面しているワトソンの瞳をまっすぐ
捉えている。
困惑するワトソンを尻目に
ホームズはそのまま話を続けた。
「僕と君が友達ってことはだ。
つまりそれは僕らは
アメンバーってことなんだ。」
聞き慣れないフレーズを耳にした
<ワトソン>
「ホームズ、君がなにを言っているのか、はたまた何を言いたいのか、私にはさっぱり解らんよ。正直、狐にでもつままれたような気分だ・・。
だいたいなんだい?そのアメンボってのは?」
ホームズはワトソンから視線を外すと
そのままツカツカと窓際に向かい
左手でカーテンを開け窓の外を見ようとしたが
予想外の外の日差しの眩しさにホームズは咄嗟に日光を遮るようにして右手で顔を隠した。
右手で顔をガードしながらも視線は
外の景色を写している。
《七式・ホームズ》
「いや・・実は僕もなんだワトソン。
最近ブログ主が、ブログ主のことなんだが・」
(((゜д゜;)))!!?
ホームズが話終わる前にワトソンが口を挟む。
「!?・・なんだって!?
またブログ主が
なにかやらかしたのかい?」
ワトソンはどこか愛嬌のあるまん丸な顔を赤らめ細い目を見開きホームズの顔を覗き込むようにしてホームズの放ったブログ主というフレーズに過剰に反応した。
ワトソンの過剰な反応を見たホームズは
《七式・ホームズ》
「待ってくれワトソン君。
このような時はあまり早合点しないことだよ。
それは癖のなかでも悪い癖の類いだ。
その・・つまりアメンバーってのは早い話
友達ってことさ!外国語の友達って意味さ」
(たぶん・・)<ワトソン>
「君とぼくは昔からそのつもりだったんだが・・ただ僕が言いたいのはそこじゃない。」
ワトソンが何を言わんとしているのか
「前から君とぼくは
アメンバーだったってことだよ。
しかし君が言いたいのはそこではない。
そうだねワトソン?」
そういうとホームズはその場にあった
<ワトソン>
「そうだ・・その通りだよホームズ。
僕らがアメンバーだったという事実よりも
彼だよ、彼のことなんだ。
彼の話が出てくる度に僕はなぜか生きた心地がしないんだ・・。
そのアメンバーってやつとブログ主と
いったいなんの関係があるというんだね?」
ワトソンの言葉を聞いたホームズが
一瞬暗い表情を示したことをワトソンは見逃さなかった。
ホームズは黙ったまま、ゆっくりとソファーから立ち上がると再び窓際のほうへと歩を進める。
窓際まで来ると、ホームズは静かに窓を開け
胸ポケからおもむろにタバコケースを取り出し
一本のタバコに火を着けた。
たしか3日前から禁煙を始めたんじゃなかったのかい?」
3日前に禁煙宣言をしたホームズの
《七式・ホームズ》
「あ~そんなこともあったね?
禁煙はダメさ、無理な禁煙はかえって害悪でありストレスだ。身体のためにも良くないっていうような風潮があるが、タバコはダメでアルコールがオッケーだという明確な説明がなされていない。
アルコールは個人的には製造販売はできない。
つまり個人的に取り扱っていいという保証のないものなんだ。
過去の歴史の中においてもアルコールを巡る法律改正もあった。
個人的な問題ではなく副流煙が問題だって話もあるが、お酒の席での無礼講というやつはどう違うというのかい?外部に何らかの悪影響があるということに関して言えばタバコに限ったことではないよ。」
<ワトソン>
「相変わらず自分を正当化させる術はたけているね」
「正当化なんかではないよワトソン君。
少なくともタバコの依存症は認めているし、
害も少なからずあるだろうってことも理解してはいるつもりさ。
ただ、それはタバコだけに限ったことではないと言いたいだけだよ。
車だってそうさ。
免許がなければ交通ルール違法の違反であり犯罪だ。つまり車を乗っていることとタバコを吸うことと何がどう違うのかってことを一度真剣に考えてみるといい。
車でスピードを出す危険性とタバコを隣で吸うことの危険性はどちらが危険性があると言うんだろうね?
タバコの副流煙が危険であるなら車を運転している我々も同様にその事実についてもっと自覚して然るべきではないのかな?」
ワトソンはやれやれといった感じで首をすくめふてくされたように下唇を突き出したままテーブルの椅子から立ち上がると、なぜかそのまま向かいのソファーに腰を下ろした。
突然ホームズたちのいる一室に
ドンドンドン!
ドンドンドンどん!!
ドドドッドドンどーん!!!
どうやら何者かが激しく部屋の扉を
ノックしているようだ
ワトソンは怪訝な表情を浮かべたが
「どうやら時間のようだ・・」
と呟いた。
突然部屋に響き渡る轟音にワトソンは
「なぁホームズ。いい加減注意した方がいいんじゃないのかい?」
ワトソンのこの言葉にニヤリと笑うホームズ。
「ノックの回数のことかい?
そいつは無理な相談だね。
ぼくはねワトソン
彼女に秘密を握られているのさ・
急ごう!時間だ!!」
あわてて暖炉脇に立て掛けたステッキとテーブルの上のハットを拾ったホームズは扉のほうに向かってさっそうと歩きだした。
「おい!待てホームズ!!
秘密ってなんのことだい!?
ぼくにも言えないことなのか?
おい!ホームズ!!
僕らはアメンボじゃなかったのかね?」
つづく。
ありがとうございました。