現在の俺は飲食店を経営しているが、以前は郵便局に勤務していた。郵便局員と言う者は天候が悪かろうが、テロが起ころうがなんのその。毎度の如く赤バイクを動かしている。俺の場合、配達ではなく
郵貯のセールスマンだったが、やはり真冬にバイクを走らせると辛いもの。こう言う時には家帰って、風呂入って、唯一の楽しみであるテレビゲームをするに限る!
俺は嫁(彩絵:さえと言う)が、人生のパートナーとして選んだ夫である。その割には、彩絵は
「綾ちゃん(俺の名前。綾と書いてリョウと読む)、あたしの事が好きなんでしょ?じゃな、何で結婚してくれって言わないの?今言わないと、二度度返事しないからね!」と脅しをかけてきやがった上で、俺は22歳で結婚した。その俺が没頭していた「ときめきメモリアルシリーズ」と言うギャルゲー。嫁であるならば、夫の趣味に理解を示し、日々の労働を癒す意味でも多少の個人プレーは目をつぶってやるのが嫁の条件ではないか?と俺は思うのだ。
考えてもみてほしい。世の中には酒に溺れ、お酌してくれる豊満なお店のギャルに魅了され酒代で何万円も消えていく夫もいるではないか?また俺の兄貴分:ジャンショーグン(現:愛の戦士@ハルト英通)のように麻雀や馬に金を託し、一発当てるつもりが、無惨にもカイバ代&ヤキトリ代に変わってしまう夫もいるではないか?
そのような夫連中に比べれば、俺などは優良シールを貼られてもよい夫である。趣味は相撲観戦と野球観戦。テレビゲーム位なものである。彩絵の目の届く場所でプレステ2を触る事と、朝青龍にヤジを飛ばす事以外に、これといった趣味を持っていない。
しかし、だ。彩絵は結婚してから、日々俺がテレビゲームの素晴らしさを説いているのに、少しも理解を示そうとはしない。それどころか全く好きになる気配もないし、逆にテレビゲームへの憎悪は日々深まるばかりだ。ジャンショーグンから穂多琉チャン攻略を聞き出して、愛機:プレステ2を立ち上げ、真っ先に
(和泉)穂多琉チャン攻略の時の事だ。
彩絵
「さっき風呂入る言うてから何分たっとるんや!いつまでテレビの前にへばりついとるんや!種火はタダ違うのわかっとるんか!ボケ!」三重県出身の彩絵は、当然ながら関西弁。一方の俺は(俺から遡る事)4代前から、渋谷に住み着いている
江戸っ子である。だから関西弁でドスを効かされると、
非常に怖いのだ。もし仮に俺が
如月未緒チャンのような病弱でデリケートな人間だったら、
天国逝きの故人タクシーのお迎えは間違いなしである。
俺
「そう怒るなよ。穂多琉チャン登場させたら、すぐ入るよ」彩絵
「ドテチン(嫁が俺を呼ぶ時の言葉)が、そんなしょーもないなゲームしてる間にも、種火でガスメーターはクルクル回っとるんやぞ!無駄なお金がこの瞬間にも落ちていっきょるんや!マイホームが遠のいていくのが分からへんのか?」俺は嫁にビビッて、シブシブ服を脱ぎ始める。
(相沢)ちぃちゃんと会話中なのが気になって仕方がない。
ちぃちゃん、許してくれ!と言う断腸の思いだ。
彩絵に言われるまま、俺が脱衣場に向かったその瞬間。
彩絵
「なにプレステつけたまま風呂に向かっとるんや?その間にも電気メーターはクルクル回っとるんやぞ!こんな、しょーも無い事でムダ金が落ちていっきょるんやど!」俺はあまりの大声に圧倒され、後頭部を強打して、コブができてしまった。なのに彩絵は
「自業自得や、反省せぇ!」と、傷口に塩を塗りこむような事を平気で言いやがるのだ。
俺
「ちゃんとセーブするから、その大声はやめてくれ。心臓に悪い」風呂は長い間種火がつきっぱなしであったため、湯の温度はかなり上がってしまっていた。とりあえず恐る恐る足を入れてみると熱い!風呂場全体に湯気が立ちこめている上に、これは、とても肩までつかれる温度ではない。俺は
江戸っ子らしくも無い「ぬるま湯派」なので迷わず水道の蛇口を勢い良くひねった。
彩絵
「ドテチン!何水で埋めとるんや!!後で、お風呂入るウチの事も少しは考えんかい!!」このような生活を続けていれば、いつか俺は命を落とすかもしれない。
俺
「さ、彩絵ちゃん、風呂場で何叫んでるんだよ!びっくりするだろ?」彩絵
「何が彩絵ちゃんやねん!種火を長い事付けとった思うたら、今度はせっかく温もったお風呂を水で埋めるんか?水道代まで無駄遣いするんか。三重と違って、東京の水道代高いん知らんのか?都民のクセに!ドテチンは、水道メーターまで無駄にクルクル回す気か?そのまま無駄なく入らんか、自業自得やろ!」どうやら彩絵は、水道代までケチろうとしているようである。「酒も煙草もやらない人間が多いと言う三重県人は、名古屋人ほどでもないが貯金が大好きだ」と言う兄貴分・ジャンショーグンの言葉が身に沁みる。俺は仕方なく水道の蛇口を締める。彩絵を恨めしそうに見つめながら風呂に足をつける。そしたら彩絵は
「何、メンチきっとるんじゃ!」と言うのだからたまらない。今の俺の格好は恐ろしく無防備(なんせ、フルチンだもん)で情けないものがある。足を湯船につけた瞬間、針で刺したような痛みが足全体を包み込む。このような熱湯風呂を、気持ち良く長時間楽しむ彩絵の神経が理解できない。
俺は両手で股間をしっかりとガードする。俺の「セガレ」はとてもデリケートなので熱さに敏感なのだ。
そのくせ嫁は
「あんたより、大ちゃん(ジャンショーグン)の方がよっぽど上手ね」と、彩絵とのベッドでの三番稽古を終えた後の俺に、躊躇無く言いやがる。ちなみに、俺の嫁である彩絵は、元々は兄貴分のジャンショーグンの元カノであり、ジャンショーグンといる時は清楚で可憐で上品な可愛い女なのに、俺に対してはこの態度である。一体、
あんなゴリラのどこがいいんだ!と俺は、常々思う。何かにつけて彩絵は、ジャンショーグンと俺を比べるのだ。
話は戻って、身をくねらせながらも少しづつ湯船に身体を沈めていく俺。こんなもの苦行と言うより、イヤがらせ以外の何物でもない。一日の疲れを癒すハズの入浴であるはずなのに、何故、釜ゆでを味あわねばならぬのか?ハッキリ言って、とてもリラックスして入っていられる温度ではない。取りあえず風呂から出て頭から先に洗おう。イスに腰掛けると、彩絵に監視されていた緊張が一気にほぐれたのか、急激な尿意が俺の股間を襲ってきた。
俺
「風呂場でやっちゃっても後でお湯でキレイに流せば全然問題ないよな」口を大きく開け、至高と恍惚の表情を浮かべる俺。排水口にジョボジョボと小便が流れていく。
その音を聞き取ったのか、地獄耳の彩絵が風呂場のドアを叩き空けるなり
「なにガキみたいな事やっとるんやーっ!!!」いきなりの大声とともに風呂の戸を開けられてしまったので、私の股間は余計に驚き、小便が止まらなくなってしまった。
俺
「さっきから彩絵ちゃんは、あ~だこ~だと口うるさいんだよ。俺の貴重な、入浴時における貴重なプライバシーの侵害だ」後ろめたさを感じながらも、ビビリながら精一杯に言い放つ俺。
彩絵
「何が貴重や?何がプライバシーやねん!父親のドテチンがそない情けない事してどないするんや。沙希と敬司(俺の娘と息子)に示しがつくんか?あぁ?」このように、我が武藤家には民主主義は存在しない。典型的な絶対嫁政が布かれているのである。
風呂から出て、脱衣場にしばらく立っていると、今度は寒さで身体が震えだしてきた。
俺
「お~ぃ!風呂から上がったのに、タオルが出てないぞ」彩絵
「ドテチンのタオルは、その壁にちゃんと掛かってるやん?」その壁に掛かっているのは、嫁と子供と挙句に飼い犬が身体を拭きまくった
使用済みタオルだった。
俺
「新しいバスタオルはないの?なんで、こんな絞れば水が出そうなタオルを、俺が使わないといけねぇんだよ?」彩絵
「贅沢言うな、ボケ!洗うもんの身になった事あるんか?愛する妻に、バスタオル洗う手間を省かしてやろうとは少しは思わへんか?それで充分やろ?」半泣きになりながらタオルをソッと身体にあててみると、ビショビショのタオルは外気に触れてかなり冷たい。冷凍タオルだ。一応拭いてみたが、それはもう風邪を引きそうな冷たさだ。船の沈没で、次々と凍死していくような乗客状態に状況は一変した。そう思うと、俺は涙が出てきた。それを知らずに、彩絵の鋭い視線に射すくめられ、俺は引きだしから新しいタオルを取り出す事が、どうしてもできなかった。
俺
「な、なんで武藤家の主が、こんな冷たいタオルで、それも犬を拭いた後のタオルで、身体を拭かないといけねぇんだよ!な、なんでこんな....。あんまりだぁ~!!!!」