桃が好き。
甘くて、みずみずしくて、染みるあの味が好き。缶詰も好き。桃の乗ったケーキも好き。
でも、1番好きなのは、お風呂場でかじりつく桃である。
小さい頃よく祖父母の家に泊まっていた。祖父母は優しくて、真面目な人達だった。祖父は書道がとても上手で、よく書き初めの課題を見てもらっては、泣かされていた。祖母は料理が上手で、特に卵料理が上手だった。親子丼、ホットケーキ、オムライス、それからこだわりの卵かけご飯。どれも美味しくて、未だに舌はその味を求めてる。
そんな祖父母の家に泊まると必ずデザートが出る。季節特有のデザートが。ぶどうも、りんごも、オレンジも、みかんも、キウイも。1人分ちゃんと、綺麗に盛り付けられた器で。
でも、桃だけは違った。私と妹が服を脱ぎ、お風呂場にバスマットのようなものを敷き待っていると、祖母が桃を1人1個持ってきてくれる。
そして、蛇口から出る冷たい水でよく洗い、その場で剥いてかぶりつく。すると甘くてみずみずしいあの味が口いっぱいに広がるのだ。食べ終わる頃には膝も手もベトベトだった。しかしそれでも、夏の一大イベントで、全身で桃を味わえるから好きだったのだ。
私は桃が大好きになった。それから泊まることが減ってからお風呂場で食べることはなくなったが、ももが出回ってる期間に祖父母の家に行くと必ずデザートで桃を出してくれる。私が好きだからと。季節外れの時期でも桃のケーキを買ってきてくれたりする。
私は、桃が1番大好きだ。どんな食べ物よりも。永遠に。