いつもの朝
午前6時。
いつも通りに目覚ましが鳴り、
いつも通りに朝食を。
日課になった、コーヒーの香りを感じながら読む新聞。
今日もあまり良いことは書いていない。
自然災害、テロ事件…
なんだかそんな見出しにもう慣れてしまっているかのように読み飛ばす自分。
そんな自分がたまに怖いときもある。
「もうこんな時間か。」
出勤時間が近づき、慌てて家を出る。
満員電車を乗り継ぎ、行き着く先はあるIT企業。
最近話題の虚業だなんて言われてた分野だ。
大学を卒業してIT企業に入社して、システムエンジニアになった。
ITといっても自分がやっているのは、所詮テレアポだったりして、
システムエンジニアという言葉の巧みさを実感する今日この頃。
でも、やりがいのある仕事なので、時間を忘れるほど熱心なときも
入社したばかりの頃は、会社は小さく、
一発狙いのベンチャー企業そのものだった。
友人の知り合いが社長をやっていて、アルバイトがてら
手伝っていたら、いつの間にか大学を卒業を機に正社員になっていた。
(今思うと”勢いって怖い”…)
ちょうどITバブルと重り、会社は急成長。
すると、給料がどんどんUP。
多分、同級生の中でも給料の面では勝っているだろう
(残業半端じゃないけどね)
でも、子供の頃の夢とは全然違う業界。
ん?
そもそも、どんな”夢”だった???
スポーツ選手?
パイロット?
芸能人?
学者?
(なんとなく)ヒーロー?
のどれかとか?
忘れちゃった.…
夢見ることを忘れた自分
歳を取るにつれ、色々なモノが見えた
子供の頃は見えなかったモノを
見えなくてもいいモノを
自分に都合の良い理由を付け、夢を諦めたのはいつだろう?
「小田切さん?」
その声に、はっとした。
「どうしたんです?なんだかココロここにあらず、みたいな表情でしたよ」
美紀ちゃんが心配そうな顔をしている。
二年後輩の彼女は席が隣であることもあり、
仕事の話にかかわらず話すことが多い。
そのためか会社の中では仲が良い方。
「なんでもないよ。ちょっと考え事を。」
そして思いついたように、
「突然だけど、美紀ちゃんの夢って何?」
と聞いてみると、
「アタシの夢ですか?んー。今は特にないかな。
小学校のときは保母さんでしたねー」
そう言う彼女は、微笑んでいた。
「小学校の夢を持ち続けて、保母さんの免許まで取ったんですけど…」
一呼吸置いた後、
「ちょっと訳あって、今に至ります」
「へえ」
そんな軽い相鎚で夢についての会話は途切れてしまった。
”夢に近づいたのになんで”という疑問の泉の蓋がされたまま、
「今日も一日がんばろ~」
なんて言うと、彼女は笑いながら
「そうですね」
と言った。
時計は午前12時を指していた。
ある日の夜
ずっと信じてた
いつか叶うって
だから、ボクは…
「何してるの?早く帰ろうよー」
と加奈ちゃんが言う。
「うん。もうちょっとだけ待って」
今日もまた、見ることができない。
「なんでかなぁ…」
独りつぶやいていると、加奈ちゃんはボクに
「先に帰るね。じゃ、おやすみー」
社会人になってもう5年。あっという間に27歳になっていた。
大学時代はよかった、なんて思うこともちらほら。
毎日、残業残業。こんなこと、学生の頃は思いもしなかった。
それに、最近になってよく考える。
何時になったら”大人”になるんだろう?
いつもそんなことを考える。
そんな俺もう、27。
会社ではもう一人前として扱われている。
けれど、実家に帰れば未だに子供扱い。
「人に会ったら、あいさつしなきゃだめよ!」
「まったくあんたはいつも…」
周りの人はもう結婚、子持ちなんていう感じで、
もう、それだけで「大人だ」なんて勘違い。
大人ってそういうことじゃないと個人的に思ったり。
ただ、両親から認めてもらえるようになるのはずっと先なんだろうな…
テーブルに置いたビールに手にしてベランダへ出ると、満点の星空。
「キレイ、だな」
素直にそう感じた
