「BRAHMANって、こわいバンド♡」
彼らは孤高の存在だ。所謂AIR JAM世代でありながらも、何がしかに属せなくて、属さない人達。でも、時代沿って変化してきたバンドでもあるのだ。
この『尽未来際』という1995年~2015年までの20年間の楽曲を収めた二枚組ベスト・アルバムでそれがよくわかる。
CD1の THE EARLY 10YEARSは、デビューの1995年から10年間位の曲が並ぶ。AIR JAM世代の代名詞とも言える、メロディック・ハードコアを主体とした楽曲や、そこに、スカや耳馴染みのある海外の民族音楽などを取り入れた、ミクスチャー・ロックなどで構成されている。全体的にポップでコミュニケーションし易い曲が多いが、そこには、パンクとしての過激さがしっかりとベースにある。
CD2のTHE LAST 10YEARは、その後から2015年までの楽曲で構成される。
先の10年と比べて、変化しているのは、楽曲的にポスト・ハードコアやヘヴィーなアプローチをしているものが多くなり、簡単に足を踏み入れ難い、音楽的佇まいになったとも言える。ただ、歌詞は母国語で紡がれることが多くなっている。そこからは、Vocal TOSHI-LOWの伝わるように伝えたいという優しさと、言うのが辛いことであっても必ず言葉にするという厳しさの両側面が見えてくる。
こと、メロコア・バンドならば、一貫した同じ構成で曲を作る方が多いと思う。リスナーもそのバンドが作るお馴染みのメロディが好きになるし、それが、ライブで盛り上がることは必至だ。多分、BRAHMANはそれが出来なかったし、寧ろ安易な楽しいムードでの繋がりを拒否したかったのだろう。だから孤高の道を選んだのだ。
BRAHMANのこの変化について、僕は宮崎駿映画の変化に似ていると思う。「となりのトトロ」などを筆頭にジブリの作品は老若男女誰でも、アクセスしやすく、ファンタジーの中にある物語を通して、各人が色々な方向に思いを馳せる事が出来る作品が多い。その宮崎駿の作品も変化してきた。90年代以降、彼は、自分達の作った映画が今の日本の現実に追いついていないのではないか?と危惧していた。その後、彼の映画は日本の世相を直視し、コアの部分を突きつけるような作品へと変貌していった。結果それは、日本の現実の先を予兆するものになっていったのだ。
BRAHMANの音楽も、同じように変わっていった。伝えなければいけないことを伝えることが出来る音楽の形態へと変化することを選んだのだ。
変化といえば、この二枚組のほぼ中間位の時期に、TOSHI-LOWのパーソナルな点での変化がある。それは、結婚と父親になったこと。これも、バンドが変化する要因の一つと言っていいだろう。同時期に始まった別バンドOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDの活動では、オーガニックな形態で音楽を伝えてくれているが、これがBRAHMANの孤高さを再び浮き彫りにさせたと言える。
そして、言うまでもないが3.11を経ての変化。それ以降TOSHI-LOWは、今まで避けていた、ライブでのMCをおこなった。雄弁に語る彼は、伝えると言う使命を担い始めたのだ。
彼らは自身で変化を選んだ。しかし、それは、僕達がBRAHMANに望んだ事でもある。「バンドは水物」と言っていたバンドがいる。正にそうだ、バンドは水の様に変幻自在だ。僕達の求める答えに、BRAHMANは変化を経て答えを提示してきた。
素晴らしいアーティストの作品は、時に予言へと変化する。BRAHMANの思想の元に作られた音楽がどうだったのか、僕にはわからない。
余談になるが、昔の仮面ライダーで、悪のボスが殺られる前にこの様な事を言った。「お前達人間がこの地球を壊し続ける限り、俺たちはまた現れる」それがテレビで放映されていたのは、90年代初頭。それから日本はどう変わっただろうか。彼らがこのボスキャラと同じとは言わない、ただそれに近しいものを感じてしまうのだ。
これからも、血肉沸き肉踊るコミニケーションを続けていくだろうBRAHMAN。
それでもなお、彼らは孤高のバンドとして戦い続けるのだ。
それは、僕たちが彼らに求めた、佇まいでもあり、”みんなのこころ”に映し出された、理想像でもある。
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