小倉唯/Strawberry JAM-彼女が彼女であるために僕は僕としてここにいる | MUSIC TREE

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邦ロックを中心に批評していく
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声優として活躍する小倉唯さんの1stアルバム。満を持してのリリースとなる。試聴段階では甘くて可愛らしいピンクな楽曲が多すぎて、アルバムバランスが不安定になることも予想されたが、なんとか踏みとどまった印象。



はぁ・・・おぐらゆいちゃん・・・・
なんていい声をしてるんだろうこの子は・・・・だ、だめだよゆいちゃん・・僕の下半身がグワー


まずはそれを言いたい。このハスキーでキュートなボーカルワークがやっぱり僕は大好きだ。最大の特徴であるし、無限の可能性を感じる。欲を言えばキャラソンの時みたいに、もっと色んな曲も歌って欲しいが、それは二枚目三枚目のアルバムからでも遅くないだろう。夢心地なボーカルとかわいいという概念を12曲通して堪能できるだけで、ひとまず僕は幸せ者になれる。

1stアルバムという代物はどんな歌手にとっても一回きりの大事な作品である。その多くがアーティストしてのアイデンティティ、自己紹介のようなものになる。つまり「僕、私は~な人で、・・・なことを考えてるよ。」といった具合に。それは彼女にとっても例外ではない。
しかし、本作は単なる名刺代わりの1枚にとどまらず、小倉唯というアイデンティティと僕らのアイデンティティを繋ぐ1枚になったと僕は考える。

自分の声がコンプレックスだった彼女を受け入れてくれた声優という世界、そんな彼女の存在を生きる希望にしてきた僕らの願いは、いつのまにか彼女が彼女であるためのアイデンティティを作り上げ、それを支えられる存在にもなった。これは傲慢ではないと僕は思っている。
ファンひとりひとりを大事に思う彼女の気持ちと、彼女を思う僕らの気持ちが三年という月日をめぐり、今確かに繋がったように感じる。そんな彼女の大事にしたい色んな気持ち、今だからこそ表現したい、すべき小倉唯をたっぷり詰め込んだのが本作である。
だから僕は特典のブルーレイディスク(そりゃあもう死ぬ程可愛いのは1秒で理解できるけど)を何度も見直すよりも、本作を何度も何度も再生するほうがずっと、彼女を感じることができると考えている。
小倉唯の全てはここにある。

本作が持つ幸福感、高揚感は僕ら=ファンの物だけにしておくのは勿体無いほどの奇跡である。よりもっと多くの人を幸せにするために小倉唯という音楽はこのアルバムから始まる。

さて、それでは収録楽曲を一つ一つ追っていこう。


1.FUN FUN MERRY JAM
多幸感に満ち溢れたファンファレーが鳴り響く。「ようこそ!ここは非現実世界・小倉唯」と言った感じだろうか。小倉唯がいる場所に集う僕らと彼女の物語の幕があがる。
彼女の個性とファンひとりひとりが持つ個性がJAM(=情熱がぎゅっと詰め込まれ、混ざり合う)する瞬間の興奮を歌ったこの曲からライブが始まるとすれば、僕はおそらく、会場で初っ端から泣き崩れるだろう。ボーカルラインを追いかけるようなCメロのギターがおもしろい。ファンひとりひとりとの距離、関係性を大事にしてきたからこそ成せる-僕らと彼女のアイデンティティを繋ぐ為に、すべてを始める為にぴったりの1曲目である。

2.Charming Do!
2ndシングル。キラキラシンセに重なるキュートなボーカルがメロディの上を飛び跳ねる。まさに超絶アイドルポップスの真骨頂といえるキラーチューン。かの松浦亜弥が『桃色片想い』の後にリリースした『ね~え?』と印象が重なる。小倉唯=スーパーアイドルを証明するクソぶりっこ(褒め言葉)曲である。






3.いつだってCall Me!
クソぶりっこ路線をさらに拡大、80年代アイドル王道ソングというコンセプトのもと制作された春らしい一曲。好きな人に名前を呼んでほしい・・・その一心のみが歌われるキュートな楽曲である。サビに繋がる前のさりげないコーラスワークが美しい。「好きよ好きよ」のサビワンフレーズで僕の心を打ち抜く彼女のそれは圧倒的かつ儚く、興奮と涙を誘う。

4.A Lovely Tea Break
アジアンテイストな楽曲は昨今の色んなJPOPで見かけるようになったが、これも中華風のアレンジがおもしろい。作曲を担当したのはシングルTinkling Smileのカップリング曲thx!の作曲も担当したCHI-MEY。今回も小倉唯の特徴であるハスキーウィスパーボイスを最大限に活用した楽曲を完成させた。カップに注がれたグリーンティの回る廻る渦の風景から始まって、気ままに回るこの世界の奇跡を歌うミクロからマクロ視点のポップチューン。

5.PON de Fighting!
デビューシングルRaiseのカップリング曲。ぶりっこしてないくせに音が可愛いのがいい。単なるキュートなエレポップチューンとして捉えることもできるが、この曲に隠されたメッセージは意外と奥深い。リリースされた2012年当時の小倉唯は声優としての仕事も増え、それと同時進行でふたつのユニットを掛け持ちするという、まさに多忙を極めた生活を送っていた。決して弱音や疲れた表情を見せない彼女ではあるが、学業と両立しながらのそれらの活動は弱冠16歳の彼女には荷が重かったと思われる。そんな彼女の本音を偶然か必然か引き出せたのがこの5曲目である。

ダンシャリの暇もない
-どうでもいいわ なんて でもね 言いたくないの
Stray Stray 迷う日も希望 きっと心にあるし…
-作り微笑(わら)いは 全然うまくなれそうにないの
Straight Straight 素直でいると 時々泣いちゃうけど…
-私頼みされたら助けたい 強くなれFighting!


すり減るメンタルの中でも僕らの助けになりたいと願う小倉唯さん。そんな彼女の弱さを知ることで、その強さを理解することもできるだろう。個人的に小倉唯ソロで1番好きな曲である。

6.Get over
どちらかと言えば石原夏織ソロに見られるような傾向の楽曲。前曲で提示された弱さを乗り越えた結果の力強いバンド風アレンジと挑戦的なメッセージが透明感のある声と交錯しながら、真っ直ぐなピュアネスを描く。16歳の声から、19歳の声にしっかり進化しているのが素晴らしい。バンド”風”の打ちこみであるからして、それにリアルなバンドサウンドを期待するのは無駄だが、それでもこの迫力はアルバム中でも貴重な存在感を放っている。

7.Raise(album ver.)
デビューシングル。僕の第一印象が最悪だった1曲。というのもこの曲は小倉唯のパブリックイメージとは真逆の曲調、キャラクターを押し出したものだったからだ。しかし、それは彼女なりの挑戦だったように今は思える。インタビューでも「Raiseあっての小倉唯だなって思います(笑)これを乗り越えたので後は何も怖くない」と彼女は話している。自らの可愛さを自覚しているが故にその対照的なイメージをまずは乗り越える。それにより、ピンクにまみれた小倉唯はより一層、強固なイメージとして浮かび上がるのだ。口で言うのは簡単だが、これを実行する当時16歳の女の子・・・本当に強い。
苦手意識が強かった上に、アルバムでは浮いてしまうのではないか?という不安もあったが意外にもしっくりハマった。通し聞きして、二周目で化けた。力強いメッセージを携えた前曲から、すっと繋がる構成に助けられている気がする。新録された歌い方はオリジナル版とは異なる、伸びやかで艷やかな仕上がりで聴きやすくなっているのも◎。PON de Fighting!、Get over、Raise-この三曲こそが小倉唯の三年間の進化、本作のピークを描いているように僕には聴こえる。


8.シュガーハートエイク
繊細なイントロと調和する囁くような歌声から始まる。まるで朝起きたら、唯ちゃんが横にいるみたいな息遣い、距離を感じる。想いが成就した後の幸せな風景の中でふと訪れる不安、永遠に続かない関係と確かな今を対比させるミディアムチューン(小倉曰くバラード?)。普遍的な可愛さ、永遠性を振りまく小倉唯ソロ史上でも珍しいメッセージ性の楽曲であろう。甘いひとときと相反して存在する胸を突き刺すような痛み、永遠に僕らはそこから抜け出せないだろう。だとしても、だからこそ今ってやつを取りこぼしてはいけない。だから僕は今すぐゆいちゃんに会いたい。会いに行く。

9.Tinkling Smile
4thシングル。ここからは最強ポップチューン三連発コーナー。彼女のパブリックイメージがピンクだとすれば、この曲は緑、人との和を歌ったものに相当する。声優、アイドルでもなく、ただの一般人としての小倉唯の何気ない優しさを垣間見ることができる楽曲だ。軽やかなメロディがどこまでも広がり、新生活、新しい季節にエールを与えてくれる。




10.Happy Strawberry
PVも制作された本作のリード曲。ピンクピンクピンク、どんぶりのイチゴパフェにいちごジャムを塗りたくって生クリームを三キロくらい乗せ、仕上げにいちごを5000個くらい乗せた大迫力の胸焼け必須(だがそれが気持ちいい)ナンバー。ここまでピンクで攻めても嫌味にならないのは田村ゆかりか、松浦亜弥か小倉唯くらいだ。恐ろしい才能を120%発揮させたリード曲にふさわしい出来。これぞ僕が求め続けたアイドル像!!ニヤニヤが止まらないよ唯ちゃん!!




11.Baby Sweet Berry Love
ゆいかおり楽曲の多くを手がける俊龍の作曲。テイストとしては前曲から続くピンクの雰囲気。春風に乗る乙女心を産地直送でお送りするような美しい曲展開、無敵のサビは最恐のアイドルポップスにふさわしい出来。まさにイコール松浦亜弥桃色片想いわかるそれなである。






12.Sing-a-ling-a-Harmony
全力で駆け抜けた11曲を締めくくるエンドロールのようなイントロがアルバムの終わりを告げる。彼女が僕らに抱き続けてきた大事な思いを作詞家にメールし、それを元に曲作りが進行したとのこと。ひとつ、ひとつの言葉を噛み締めるように僕は聞いた。まさに小倉唯がいて僕らがいる、僕らがいて小倉唯がいるというひとつの結論を今一度、証明するラストにふさわしい楽曲だ。たくさんの気持ちが溢れだす。
僕はそれを大事に紡ぎ、彼女に顔向けできるように日々を過ごし、7/5パシフィコ横浜公演に臨むつもりだ。そこで10代最後、今という時間に生きる小倉唯を体中で感じたい。最後に流れるであろうこの曲を聞くまで、一瞬足りとも目を離さず。


~総評~
1曲目でしっかり初めて、12曲目でしっかり終わる構成により、50分という収録時間を予想以上に早く感じられる作品となった。名盤!と銘打てるそれとは違うが、合格点だろう。恋に恋する女の子の心情だとか、挑戦、そしてファンとの関係の大切さ・・などなど1枚で様々な表情を見せてくれる。甘いだけで終わらない作品になったのは良かった。6曲目まで、前半が特に作りこまれている印象があり、1曲1曲の流れが非常に聴きやすい。
デビューシングルから三年という月日が流れているので、1stアルバムだけが持つ初々しさには少しだけ欠けてしまったが、積み重ねてきた時間が可能にする今をしっかり表現できたと僕は思う。だからRaiseは新録される必要があったし、それがまたアルバムを豊かに色づけた。
ゆいかおりを今のところ音楽活動のメインにしているし、相方の石原夏織さんがまだソロデビューすらしていない点も気になるところだが、やはりこのソロ活動は成功だったと僕は思う。これだけかわいいピンクが似合う10代の女の子をアイドルとしてピンで売らない手はないだろう。
何よりもこのソロ活動を通して、意識的に、または無意識のうちに、彼女が自分自身と向き合う作業を経験できたことは大きな収穫である。彼女自身のアイデンティティを確認することが、僕らのアイデンティティを確認する行為にもなった。それはきっと、今後のゆいかおりにも活かされるだろう。


僕は以前の記事で、松浦亜弥を最強アイドルとして定義し、その理由を述べた。そして、その理由をすべて満たし、まさに彗星のごとく小倉唯という才能と正面衝突してしまった運命も述べさせてもらった。つまり小倉唯=10年代の松浦亜弥として考え、10年に一人の天才として彼女を追いかけているオタクである。
そして松浦亜弥が2000年に発表した1stアルバム『First Kiss』の名盤性を理解し、リスペクトしているが故に、今回の 『Strawberry JAM』には多大な期待を寄せていたし、どうしても彼女と小倉唯さんを比較し、重ねてきた。
しかし、当然ながら二人は似て非なるもの。僕が無理矢理に共通点を挙げ、勝手に盛り上がってきたに過ぎないと本作を聞いて確信した。
「自分は何者であるか?」というひとりひとりの人間に課せられた永遠の自問自答、その一歩を小倉唯さんは僕らに提示してくれた。だから僕は小倉唯さんをフィルターをかけずに、なるべく真っ直ぐに見つめようと、今一度考えている。それこそが小倉唯さんのアイデンティティに向きあう最善の手段であろう。

僕がこんな意味不明なことを考えてるなんて唯ちゃんはきっと知らない。
ひとまずは、春風に乗って届けられたキュートでハッピーな音楽に僕は身を任せようと思う。
あなたは僕が10年待っていた才能です。ありがとう小倉唯さん。


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