GRAPEVINE『Empty song』 | MUSIC TREE

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邦ロックを中心に批評していく
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移籍第一弾シングル。このとてつもない突き抜けた感じは、あの『FLY』以降久方ぶりだろう。こういう爽快なメロディーであればある程、理想と現実との狭間を浮遊する田中和将の歌詞が炸裂してしまう。また、楽曲を漂う哀愁は『1977』に通ずる。

今思えば『真昼のストレンジランド』は転換期となる作品であった。それまでのバインは、歌詞の深読みさせる表現を扱いながらも意味をぼやかし、楽曲として伝わってもらうことを求めていた。ただ、この頃からバインの歌詞に物語性が現れてきた。むしろこれは、田中が避けてきた表現だったと思う。その変化が出てきてから、音楽としては捻りのないストレートなロックが主張してきた。何故なのか、これはやはり田中自身の伝えたいことに変化があったに違いない。まるで昔語りのように、過去の時間軸から伝えられる言葉の数々。それが、今の彼が放つ魔法なのだ。

このタイトルの『Empty song』しかり。田中は、何もない虚しさを歌っている訳ではない。その空白の部分に埋まっていた何がしかを、誘き出そうとしているのだ。それは彼自身のパーソナルな地点でもあるのだろう。そのおまじないに、古典極まりないロックというものを切々と奏でている。だから僕はバインを信じている。