UNISON SQUARE GARDEN『Catcher In The Spy』 | MUSIC TREE

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邦ロックを中心に批評していく
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彼らのことをポップのフォーマットでロックし続けているバンドだと、僕はずっと言い続けてきた。もうそんなこと、もうどうでもよくなってきたけど、それでも、彼らはJ-POPフィールドでの闘いを終わらすつもりは無いようだ。

しかし、今作はロック的なアプローチから始まる。田淵智也の重音ベースが鳴れば、彼らがロックなモードにあることがわかる。スピード感のある楽曲にポップなメロディ散りばめられ、弾けるようなドラムのリズムが走り抜ければ、もうそこはユニゾンだけの世界だ。
「サイレンインザスパイ」での、”見かねたTVショウ”というコーラスと”ぬるま湯浸かって風邪っぴきですとか 笑えないので”という歌詞を聴いて、今年彼らが地上波TVに出演したことを思い出した。その体験は少なからず、彼らの思考に影響を与えたんじゃないか。でも、このバンドは変わらないなと、この田淵の皮肉全開の歌詞を見ればわかるだろう。煌びやかに見える”CIDER ROAD”に騙されないぜって気持ちが伺える。

今年、バンドにとって大事件は、斎藤宏介が喉のポリープの摘出手術を受けたことだろう。これは、やっぱり無視できないことだ。田淵の作詞作曲を生かすも殺すも、斎藤のボーカルにかかっている、これはもう事実なのだ。斎藤の歌は、デビュー当時と比べ、より洗練されたものになってきた。まさに”カナリヤ”のような声で美しさを突き詰めていくようだった。ただ、それは、ロック的なダイナミズムを感じられる声とは反比例していたとも言える。幸か不幸か、バンドとしては、ポップなロック、J-POPの側面で支持されてつつあったので結果的にその進化は正解だったと思う。

流行りの言葉を使うなら、アラサーになった彼ら、どうしても分岐点に立たされてしまうのは否めないだろう。ポップとロックの二刀流バンドとも言えるが、ついにどちらかの選択をする時に来たのではないか。そんな時期の斎藤自身の変化は偶然ではないように思われる。「シューゲイザースピーカー」での斎藤の声に内在するパワーとロックイズムは、このバンドがロックから逃げないことを証明している。

ただ、もう一つ見逃せないないのは、「桜のあと(all quartets lead to the?)」、「harmonized finale」の良きJ-POPに則したポップ・ロック・チューン。こういう曲が彼らたらしめるようになったのは、セカンド・アルバムのプロデュースに故・佐久間正英を迎えたことが影響しているのでは無いかと思う。先人に学ぶことを怠らなかった彼らの姿勢が、新たなポップ・エッセンスを手に入れた。それを時間をかけて、このバンドだけのものにしていったのは、三人のセンスだろう。

”ロックバンドは、楽しい”彼らのファースト・アルバムの帯に書かれた言葉。そう、ロックとは楽しいものである。だけどそれを体現し続ける難しさは、彼らが一番よくわかってるはず。だから、これほどまでにポップなアプローチにこだわってきた、楽しさが最も伝わる表現だから。

『Catcher In The Spy』密かに掴んだ答え。実はもうみんな掴んでるんだよ。ってのが、この作品の言いたかったことだと思う。
ラストの曲は、彼らの中ではお馴染みになったポップ・マジック溢れた曲。名曲と言われる「クローバー」のように陽光が降り注ぐようなメロディーと高揚感の中。でも”黄昏健忘症 呼び起こしてみて 命が吹き込まれた瞬間 心情風景が一変してしまって 彩り溢れた現象”と歌われる。そう、正解!とスイッチが入る豆電球は、あなたの気持ち次第で光る。正解は君の手の中にある、ということだ。

曲がりくどい歌詞をとてつもないポップネスに絡め、ロック的な精神論で奏でつづける。このバンドがこだわり歩いてきた道の先に、まやかしじゃない本当の道が確かに見えてきた。