BUMP OF CHICKEN/RAY-part2:この瞼の裏に青く残る情熱 | MUSIC TREE

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邦ロックを中心に批評していく
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おそらくバンプと関わってきた時間が長ければ長い人ほど、思い入れが強くなる楽曲が多数収録されているし、今作から聞こえてくるメッセージと音を優しい説得力として理解できると思う。
同時に本作でバンプを初めて聴くような人間も入りやすいくらいの入り口の広さを持った作品だ。
今回は全曲レビュー前編(M1-7)を通して、この名盤を解剖していこう。

1.WILL
キラキラのシンセとそれに重なるギターが織りなすインストからアルバムは始まる。そこから広がっていく無限の可能性と、これまでバンプと僕が歩んできた歴史が、宇宙規模の景色として展開される壮大な印象を受けた。しかも普通にインストとして楽しんで聞けるもんだからびっくりした。rayを聞いた時点で覚悟はできていたが、まさかここまで迷いなくシンセを使った曲を初っ端から送り込んでくるとは。しかし逆に言えば、初っ端から手の内を見せてくれたのはありがたいのかもしれない。これ以上にシンセまみれの曲はアルバムには存在しない。そういう意味ではバンプの優しさを感じられる1曲目であり、リスナー達もアルバムを聴く心の準備が出来る。

2.虹を待つ人
WILLから自然と繋がる演出がいい。大きな会場でのライブ、数々のタイアップ等を経て、「もっと多くの人に伝えたい。その為に新しい扉を開く必要がある。」と理解した藤原のストレートな決意表明を感じ取ることが出来る。土臭く香る藤原のルーツを何万人規模の会場を飲み込むダンスミュージックの手法で表現した、バンプの新しいアンセムになる2曲目。



そのドアに鍵は無い
開けようとしないから 知らなかっただけ
初めからずっと自由


そう、バンプは最初から開けるべき扉の存在を知っていた。だけどそれを開けずに、がむしゃらにノックすることを選んだバンドだ。そのノックの音にたくさんの人間が反応し、アリーナを埋めるまでに成長したバンプ。時は来たのだ。不器用だから時間はかかったけど、ついに扉を開き、理想の光にバンプは到達した。
さらに注目したいのはサビの大合唱であろう。supernovaあたりから顕著になってきたサビでの大合唱コーラス、藤原の音楽ルーツを考えれば納得もできるがそれだけの話ではないように思える。僕はあの曲を思い出した。

ああ 僕はいつも 精いっぱい歌を唄う
ああ 僕はいつも 力強く生きているよ (ガラスのブルース/FLAME VEIN)

『虹を待つ人』のサビを聞いた時、ついに理想に到達したバンプが、今一度、精一杯、生きていることを強く叫んでいるように僕は感じた。人間は本当に嬉しい時や悲しい時に「言葉にならない」という言葉を選んで、自分の気持を表現することがある。まさにそれ。アルバムには他にも言葉にならないコーラス大合唱がたくさん見受けられる。バンプには叫ぶしかなかったのだ。

3.ray
かき鳴らされるギターとシンセのイントロからベースがグインと上がってきて、四つ打ちのリズムが展開される。エレクトロな手法を流行りモノやインスタントなものでなく、ちゃんと自分達らしい音で表現できている所に僕は安心感を覚えた。

晴天とはほど遠い 終わらない暗闇にも
星を思い浮かべたなら すぐ銀河の中だ
-◯×△どれかなんて 皆と比べてどうかなんて
確かめる間も無い程 生きるのは最高だ


過去を悲観するのではなく、「あんな日もあったな笑」という具合にポジティブに今を見つめ、進んでいくような歌詞が全編に展開されている。半ば楽観的に放たれる「生きるのは最高だ」の歌詞はアルバムを聞くと、より一層説得力を持った言葉になる。今のバンプはこんなセリフを吐けるほど強い。そんなバンプの変化に、多かれ少なかれ違和感を感じたファンへのメッセージとも解釈できる言葉で曲は終わる。

大丈夫だ あの痛みは 忘れたって消えやしない
大丈夫だ この光の始まりには 君がいる


4.サザンクロス
さて、ここから続けて三曲、躍動感のある所謂jupiterくらいの時期を彷彿とさせるバンドサウンドの曲が続く。ストリングス系バラードもシンセも受け入れられるが、やっぱりこの手の曲を、しかも連続でやられると気持ちが高揚する。しかしそこに乗る歌詞は感慨深い。遠い日の約束が今も聞こえる君の声で成立することを歌うサザンクロス。過去、現在、未来の時間軸を行き来することで今を肯定するような表現、その独特の視点がこのバンドは本当にうまい。

どんな今を生きていますか 僕の唄が今聴こえますか

バンプと僕が歩いてきた10年くらい。色んなことがあった。「バンプはもう僕が熱狂するべき音楽ではなくなるかもしれない」と決め付け、距離をおいた日もあった。それなのに僕はやっぱりバンプに戻ってきた。そして藤原が綴ったこの何気ないフレーズ。
僕は泣いてしまった。言葉のせいもあるし、そのバックで流れる元気なバンドサウンドがまた泣かせに来てる。続く、ラストワンまでずっと泣きっぱなしだった。嬉しかった本当に。いろんな音楽を聞いても結局、バンプに戻ってこれて、今ちゃんと藤原の声がバンプの音が心に届いてる現実が嬉しかった。

その火がその目に見えなくても この瞼の裏に青く残る

なんにもバンプは根本的には変わっていない。赤々と燃える炎を目に焼き付け、その青さを変わらず歌っている。赤い炎よりも青い炎のが熱いことをご存知だろうか?今のバンプは昔よりもっと熱い。

5.ラストワン
元気なリフがザクザク鳴って始まる。サザンクロスで歌った約束がもし存在しなくなっても、僕らは変われるんだと歌う。誰のために変わるのか?その誰を「鏡の中の人」と藤原は表現している。目の前の人、他人、ではなく自分の本当の姿を写してくれる、引き出してくれる人間のために変わる。だけど深く考え過ぎないで、本当は自分が変わっていく中で、笑えるようになれたらいい。ここらへんの考え方、言葉は「生きるのは最高だ」と歌う今の異様なポジティブさから来る藤原の素直な気持ちだと僕は思う。

そう変わるんだ 一度だけ変わるんだ

何度でもなんて言わない。一度だけ変わる。一度だけならやれる気がする。その勇気をくれる大切な5曲目だ。

6.morning glow
とは言え「変わる」ことは簡単じゃないし、昔の自分じゃなくなるのは怖いと思うのが人間である。そんな不安を吹き飛ばす6曲目。

いくつのさよならと出会っても 初めましてとは別れないよ
あなたが変えようとしたあなたを きっと覚えているから
-どれだけ今から離れても 無くならないから今があるよ
あなたを変えようとしたあなたは ずっと前から変わらない


「変わろう」と歌う歌手はたくさんいるし、「そのままの君でいいよ」と歌う歌手もたくさんいる。その両者に励まされながらも、どこかで不安を拭うことが出来ない音楽を僕はたくさん聞いてきた。でもこの歌詞は違う。
ちょっと壁にぶち当たった時、思い出したい胸に残るフレーズだ。加えて、ここでも元気良く鳴り響くバンドサウンドが頼もしい。特にCメロの展開、伸び縮みする多彩な藤原の声には気持ちを後押しされる。
サザンクロスから続く約束と変化の三部作、ここに込められたメッセージは僕らへのものでもあるし、バンプ自身にも宛てられたメッセージでもあると僕は解釈する。この三曲を聞けばバンプが変化した今をすんなりと受け入れられるはずだ。

あなたを変えようとしたあなたは まだ誰にも出会っていない
あなたにも出会っていない


まだ見ぬあなたを目指してバンプは変わり続けるだろう。その覚悟に敬意を払いながら、僕はバンプを見守っていく。

7.ゼロ
何かが崩れ落ちていくイントロから叙情的なAメロへ。天にも上りそうな翼を授けられたサビがどこまでも伸びやかで気持ちいいバラード。約束なんかなくても僕らは変わり続けられるし、その始まりを失くすことはないと理解した主人公はそれでもゼロという現実を突きつけられた時に絶望してしまう。迷っていた思いも消え、すべてをなくした後、命を確認する為の手段は結局、君しかいなかったのだ。

終わりまであなたといたい それ以外確かな思いがない
ここでしか息ができない 何と引き換えても守り抜かなきゃ


なんとも弱々しい。だけど僕らは弱いからこそ、君がいて、強くなれる。というありきたりなメッセージ。
シングルで聞いた時は少々情けない印象だったが、アルバムで聴いてみると不思議と力強い。サザンクロスから続く約束と変化の三部作があるからこそ、この曲は輝ける。

怖かったら叫んでほしい すぐ 隣にいるんだと知らせてほしい
震えた体で抱き合って 一人じゃないんだと教えてほしい


今作で異常に歌われるメッセージは「いつもそばにいるよ」というありきたりなものだ。バンプはそのありきたりを当たり前として発信するのではなく、1曲、1曲を通して、体で納得させようとしている。バンプから離れてしまった、戻って来たリスナーに強く訴えかけるような、あるいはずっとファンでいてくれたリスナーに改めて訴えかけるような具合に。何度でも、何度でも藤原は同じ事を歌う。

知らなきゃいけない事は どうやら1と0の間
初めて僕らは出会うだろう 同じ悲鳴の旗を目印にして (カルマ)


この一節を思い出して、僕は『ゼロ』というタイトルを納得した。1も歌われた、0も歌われた。その間の一歩を、バンプと僕の距離感を埋める一歩を踏み出せるのは僕らひとりひとりだ。いつもあなたの周回軌道上をぐるぐる回っていたはずなのに、時間軸を超え、きちんと今という時間にバンプは僕の眼の前に現れた。今のバンプだからこそ歌える弱くて強い歌。


前半だけでもこれだけのボリュームの大作。本当にいいアルバム。
次回は残り7曲のレビューを掲載します。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。