先日ちょっと散歩がてら、小さな本屋に出かけた。
以前から行こうとブックマークしていた店。
流行りのインディペンデント系の本屋だ。

アウトドア文脈での「自然の美しさ素晴らしさ」とかに鈍感な私でも、
ああ今日は風が気持ちいいな、などと感じてしまうくらい爽やかな、
ガラス張りの外観。

うんそうよね本屋って、本の日焼けも厭わず開放的な店構えよね。でも集客のためにしてもね、日焼け…
と思うと同時に、酷く閉鎖的な本屋のことも思い出す。
京都北白川にあったガケ書房。
昔一人暮らしを始めた頃、近所に住んでいたので、ご飯の後によく行ったっけ。
出会いはもちろん強烈で、初めてバスの車窓から見た時は、車が半分突き出した外観を二度見三度見したな。

せっかくなので徒然に、これまで出会った好きな本屋を列挙してみる。
(はい、いつもに増して人様に読ませる文章ではありませんよー。)

・長崎次郎書店@熊本
    熊本時代に漱石が通い、鴎外も訪ねてきたとか、キュン過ぎる。そして町の本屋として雑誌や児童書をしっかり置きつつも、プライドを感じる棚が3つくらいあった。戦ってた。
    大好きすぎて、外出用のブックカバーはこちらのものを愛用しています。

・店名は忘れた@京都白川今出川下ル
    新本屋なのに、小さな店内のほとんどが白洲正子だった。
    10年程前に潰れたけど、未だにここまで主張のある本屋を見たことがない。
    3軒隣に住んでたのにあまり行かなかった後悔から、閉店後に白洲正子を1冊読んだ。
   (あ、でも先月も読んだわ正子。今ならあの愛想のないおっさん店主と話したいのにな。)

・ガケ書房
    全ての棚(エロ系含め)を何時間もかけて周ってた。
    さらに家でもガケ書房気分を続けたくて、店員さんにBGMを聞いてCD買ってた(イノトモとかハンバートハンバートとか。懐かしい)。
    大人になる時期に通った本屋。

・蟲書店@倉敷
    昔一人旅で訪れた時、煙草綺譚だか煙草読本だか、そんな古本を迷った挙句買わなかった。
    そのことがずっと気になって、忘れられずにいた。
    ようやく去年、念願叶って再訪したけど売ってなかったな。いまだに引きずってる。
    古本屋に行けばつい、あの煙草本を探してしまう。

・書源@南阿佐ヶ谷
    今年閉店してしまいましたね…本当に残念。
    思想系の分類や品揃えがマニアックすぎて、おいおいすげーな東京‼︎てなった。
    ダサい店構えも渋いブックカバーも好きだったのにな。


出会った本屋の思い出って、
その当時どんな本を求めて書棚を回ったか、
つまりどんな人間になりたいと思っていたか
ということと切り離せない。
哲学・思想系の書棚にワクワクしたことも、
セレクトされた文芸棚をそっくり持ち帰りたかったことも、
自費出版や手作り冊子、何やらアタラシイコトをしている人達を追いかけたことも、
思い出すと当時の自分を愛おしく感じる。
なでなでしてやりたくなる。
と同時に、ごめんねって思う。
あなたが追いかけていた理想、全然かたちにできてなくてごめんねって思う。

本屋はたまに切なくてたまらなくなる。




(ここで書き終わろうと思ったけど、もう一つの理由も書かずにいられない性分なんだよねー、やっぱり)
昔の彼女との付き合いが一番苦しかった頃、導いた答えが「一緒に本屋をやること」だった。
彼女は結婚をしている人で、離婚もできない人。
その状況をわかった上で、付き合うことを選択した私に、離婚してなどという自分勝手な欲求はできなかった。
でも愛情は深まり、一緒に生きていきたいと思い始め…
という状況の中、長いこと話し合って導いた、「一緒に生きていける唯一の道」が、(なぜか)一緒に本屋をやることだった。
どんな本屋にしたいとメールをし合ったり、市の起業家セミナーに行ったりしている束の間、どうにもならない現実から目を背けていられたね。
そしてやっぱり、本屋は実現しなかったね。

未練がある訳ではないですが。
いやちがう、未練なら、これまで愛した女全員に対して抱いてますが。

本屋はたまに切なくてたまらなくなる。