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"学者への道"

ドイツ研究生活を舞台にした生物学者の奮闘記。"学者への道" in Arizona、"学者への道" in California Berkeleyの続編ブログです。

ドイツに住んで2年弱が経ち、

張り切ってドイツ語の初級クラスもとったのに、

ほぼDanke(ありがとう)とTschüss(バイバーイ)しか使えないDr. Tです。

 

パンデミックで大変なご時世ですが、みなさんお元気でしょうか?

2018年の夏にUCバークレーを卒業してから、

腸内細菌の世界をより深く学ぶため、

ドイツの地図で省略されてしまうような小さな田舎町、

チュービンゲンにあるマックスプランク研究所でポスドク(研究員)として、

元気に暮らしています。

 


 (住めば都、チュービンゲン自慢の街並み。)

 

 


勤勉なイメージのあるドイツ文化ですが、

毎日、24時間、誰かが研究室にいた日本の研究文化や、

土日にカフェで作業することが珍しくなかったアメリカの研究文化と比べると、

ドイツはかなりゆったりしたイメージです。

と、ドイツ人研究者に伝えると、

フランスやイタリアに比べたら働いていると主張されます(笑)。

 

今までは、日本とアメリカという比較でしたが、

ドイツ・ヨーロッパ文化が加わるだけで、

まさかあのアメリカ人たちが実は働き者だったのかもしれない、

日本が働きすぎだと言われているのは深刻なことなのかもしれない、

と気づかされたりします。

 

ブログ“学者への道“をしばらくお休みしていましたが、

 

せっかく異国で生活させてもらっているので、


約11年前にブログを始めた原点にもどって、

- 学ぶことの面白さ

- 研究者の喜びと苦悩

- 学者を目指す心意気


など、ドイツ生活での日常を通して、

留学や研究職に興味のある日本の高校生や大学生、

好きなことを極めたい大人たちへ向けて、

マイペースにブログを再開しようと思います。


 

(水彩色鉛筆。紙の長さが足りずに紙を付け足すという荒技。笑)

 

 


ドイツ編初回の今回は、

学生時代と比べ、初めての研究職で感じたことについてまとめてみました。

 


 
まさか自分が専門家

昔に比べ博士号取得者が多い現代、大学教授職に就くためには、

博士号を取得後にポスドクという任期付きで研究する研究員をやり、

 

その数年間に、結果(論文)を出し、新たなスキルの取得や、異なる環境でも研究できることを示すことが必須になりつつある。

 

雇う側の大学や研究機関も、

学生と比べ専門家を雇うわけなので、

ポスドクにはトレーニングに時間を費やさなくても業績につながりやすい。

 

そう、ポスドクは専門家として雇われているプレッシャーを感じる。

 

現在の研究室は30人以上の微生物学専門集団で、

進化学を専門でやってきたのは自分ただ一人。

微生物学は独学でやってきただけなので、

みんなが知っている基礎的な微生物学を全く知らず、

みんなが知らない進化学は知っていて当たり前。

 

これをわかっていてあえて選んだ研究室だが、

学生やスタッフから微生物を培養する基礎を教えてもらったり、

学生や他のポスドクからプログラミングの基礎を教えてもらったり、

専門家として雇われているくせに教わりまくっている毎日。

 

逆に自分の専門分野に関しては自分が正しいことが前提なので指摘してもらえない。

進化学といっても広いので、全てカバーできるわけでもなく、

自分が専門家として扱われる喜びよりも、

まさかこんな自分が専門家でいいのか、という不安や責任感は、

学生時代には味わえなかった初体験のプレッシャーだった。

 


 (世界各地のヒトのうんちから腸内細菌を無酸素下で培養。)

 

自分の相対的な強みとは

マックスプランク研究所、またうちの研究室は、資金・環境・頭脳、全てかなり恵まれている。

学生もTAなどをして生活費を稼ぐ必要はなく、ただ研究をするだけで給料をもらえる。

 

そのためなのか、学生でもずば抜けてプログラミングや統計ができるやつ、細菌培養できるやつ、分子実験できるやつがおり、

もちろんポスドクも、それぞれの専門分野をもっており、腸内細菌業界でみんなが使う分析ソフトの開発に携わった奴などもいる。

 

そんな化け物たち中で、自分には何ができるのか?

 



微生物学をゼロから学んでいる最初の半年は特に自分の強みについて悩んだ。

例えば、Aをしてデータを集め、Bをして分析して、Cをして図にするとする。どう考えても、Aをあいつに頼んで、Bはあいつにやってもらって、Cをあいつが作れば、自分が一から調べて全部やるより遥かに効率的なことに気づいてしまう(笑)。

博士課程で、新しいことを学ぶ学び方のトレーニングは積んでいるので、時間をかければもちろんA、B、C全てできる自信はある。しかし、どんなに時間をかけてもそれぞれの作業で一番になることは難しいという自信もある。

 

30人のメンバーの中で、自分が唯一勝負できると気づいたのは、

同じ問題にみんながやらない方法(進化学)でアプローチできる、ということ。

進化学者なら当たり前の発想でも、違う分野に応用するだけで、斬新なアイディアになったりする。

 

逆に微生物学でよく知られていることを進化学に応用することで、新しいアイディアになる。

 

 

専門家として雇われているくせに教わりまくった毎日が、1年ほど経ってようやく活きてきた。

2年弱経った今は、他のメンバーにアドバイスをしたり、実験や分析を手伝ったり、

 

欲張って3つも自分のプロジェクトを抱え、論文も一つ投稿中など、なんとか軌道に乗ってきた。

 

 


異なる分野をまたぐ仕事をするには、

 

異なる分野を深く知る必要があるわけで、

専門性だけを伸ばす研究室を選ぶのではなく、

 

知らない分野やコミュニティーに飛び込んでみる。

 

リスクはあるが、結果として珍しい組み合わせほど自分の専門性を上げてくれる。

 

人と比べるのは良くないが、

大学教授になれる人数は限られており、

競争の要素は避けられないので、

自分の相対的な強みを知ることができたというのは、

このポスドクで得られた一番の収穫だ。

 

(2019年の夏は進化学会で札幌へ。ブログ読者のBobさんにも会い、熱く語った。)

 

 


31歳にして新社会人生活

学生を終え、研究職に就いたことで得られるもう一つの変化は、

冷蔵庫内の陣取り争い、バスルームやキッチンのシェア、ルームメートとの掃除当番争いとおさらばできるということ(笑)。

 

アメリカで1、2を争う物価の高いカリフォルニア州ベーエリアでの大学院生の安月給では、

ルームメートと住む選択肢しかなく、貯金を切り崩しながらの生活だったが、

今では、昔なら何度も川や山に足を運んで無料で採集していた石や流木を、お金を出して買うまでになった(笑)


(オンラインで水草やエビちゃんまで買えてしまう現代)

 

 


コロナ在宅中も、熱帯魚水槽、ガーデニング、お絵かき、新しい料理に、筋トレ、流行りのズーム飲み会、と意外に忙しくやれている。

(京都のばーちゃんへ和風な錦鯉をプレゼント)

 

 


コロナ前は、本場のサッカーでボコボコにされたり、その腹いせをテニスで晴らしたり、数少ない日本人の読書会に参加したり、研究室メンバーでチーズを死ぬほど食べるスイスへスキー旅行に行ったり、ちょこちょこヨーロッパ観光もできたり、、、

(去年は両親と3人でドイツ、スイス、オーストリア、イタリアを周ったが、どの街も城も同じように見えてくるという笑)

 

 

 

学生時代のクレージーな生活に比べると、

 

30代にしてようやく憧れの社会人生活に近づけたと感じる。

 

中身は相変わらず子供で嫌になるが。

 

(ドイツのビールは水より安いこともあるのに本当においしい)

 

 

 

学者への道ドイツ編。

どのくらいの頻度で更新できるかわかりませんが、

研究者の生活を通して、何か刺激になることを発信していければと思います。

 


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最後に大学院留学を考えている皆さんに朗報です。

過去のブログにも登場している現在プリンストン大学でPhD課程の学生Hくんのチームが立ち上げた大学院留学サポートサイトXPLANEが完成しました。大学院留学の欲しい情報が簡素に統計的にうまくまとめてあります。

大学卒業後の進路は、就職か国内大学院進学かの二択ではなく、人生の選択肢は実は多様にある、と気づくきっかけになってくれるはずです。