入院最後の日、最後の朝食をと思っていたら具無し汁を入れ忘れられる。最後の最後までやっぱりこれかい。そういう天命なのか。
毎朝の検診に来てくれる看護師や医師達から「おめでとう」「長かったね」等と労いの言葉をかけてもらったりしながら今後の注意やアドバイスを受ける。
迎えに来てくれた嫁さんと無事に合流し、貰った大量の薬やエネーボ十六本をお土産に病室に最後の別れをして病院を後にした。生憎の雨模様に加えて風も少し強いが、そういう事さえも感じる事が出来なかった入院生活。そんな事でも日常に戻ってこれたのだ、と感慨に耽る。
転院時には必要最低限の行動しか出来なかったが、自分の行きたい所へ行き、買いたい物が買える。早速百均に行ったり食べれないけども「ただ見たい」という理由でスーパーに寄ったりしてから家に帰ってきた。
ただウロウロするだけでも楽しい。リハビリのおかげだろう、歩き回る事もさほど困難ではなかった。
終わってしまえば早かった、と思うのは何をしていても同じだと思うが六十二日間という日数はそれなりに長い。この二ヶ月で季節は変わり、入院時に着ていた服は時期を外れたものになり少し肌寒くなった風がすね毛をくすぐるのが移り変わりを感じさせ、それだけの日々を過ごしていたのだと実感した。
それに歩く事自体はなんでもなかったが、家に帰ってからの日常生活が困難になっていた。
皿を取ろうと思ったら上がりにくくなった腕に、地面から立ち上がろうとする時の不便さに、リクライニングのない布団に。
様々な場面で沢山の物に手助けをしてもらっていた事を改めて知る。
入院生活中、本当に最低限の行動しかしていなかったのだ。
帰って少しゆっくりしてから習ったゼリー食を作り、嫁さんと一緒に夕食。
文字ではなく、言葉で会話をする。時間を気にする事も誰かに遠慮する事もない。
以前のように喋れなくはなったが、それでも止まる事のない二人。
時間はあっという間に過ぎていく。
当たり前がありがたい。
「これからは上がるだけの人生だね」という嫁さんの言葉と「これからが本当のリハビリだし、長い目で自分を見つめていって下さいね」という医師からの言葉を噛み締めて、気負わず過去の自分を取り戻して行きながら、これからの新しい自分を作って生きていこうじゃないか。
出来ない事は増えたかも知れないが、出来なかった事が出来るようになる事も増えるだろう。
色んな事に感謝する機会が増えるのは、その分楽しいと思える事が増えるのだから。
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当初の予定では去年で書き終える予定だったのに長々となってしまいました。
舌癌が発覚し、手術を終えて一年が経過した現在、先日行ったPET検査でどこにも転移はなく、切望していたカツカレーを難なく食べれるようになり、まだまだだけども発音は良くなりつつあります。
ワクチンも摂取して副反応にほんの少し凹んだりしましたが元気に暮らしております。
当時のメモを見ながら思い出しつつ書いてきて都度考えるのは「今って大事」って事。
病院嫌いで生きてきて結果これだし、もっと行ってりゃよかったな〜、と。
何回も入院しといて全然反省してないし、今更なんだけども、やっぱり人生って面白いもんだと思います。
経験しなきゃ分からない事だらけで辛い目にも合うけど最後にゃ笑ってるのは自分の性格もあるんだろうけど、何かしらで繋がる考え方の変化とか、きっかけがないと起こらないわけで。
その度に生まれ変わった気になってまた失敗して。
変わってねーじゃねーかと思いながら、それでも少しは前よりマシな自分になった気がして。
そんな感じで今も楽しく生きてます。
どんな事でもやって損になるのってあんまりないものですね。