
江戸川乱歩の短編小説『双生児~ある死刑囚が教誨師にうちあけた話~』を塚本晋也監督が映画化した作品。
塚本信也監督といえば伝説のカルト映画「鉄男」(1989年)が有名ですね♪

「鉄男」は主人公がある日突然身体が鋼鉄とかしていくという、カフカの「変身」「流刑地にて」や阿部公房の作品のような不条理な設定のアクションスリラーなんですが、塚本さん曰く、都市とか現代とか、そこで生きている者達の不安のようなものをシンボリックかつ映像で端的に描くと、鉄と融合するというイメージになったみたいです

クエンティン・タランティーノ、ギャスパー・ノエ、マーティン・スコセッシなども彼の才能に心酔したみたい。多少グロいスリラーOKな人は素晴らしいので是非

江戸川乱歩って原作はあんまり読んでなくて、脚色された映画ばかりなので先入観なしに観れたんですが、「双生児」については原作読まれた方からもわりと評価高かい感じだったので、この作品に関しては問題ないはずです♪
今作「双生児」でも塚本ワールド全開で、冒頭の気味の悪い音楽と映像ですぐに異世界へ持っていかれ、最後まで画面に食い入るように観ました


■あらすじ
明治末期。大徳寺雪雄は、大徳寺医院院長としての地位と名誉、そして若く美しい妻・りんに囲まれ、誰もが羨むような境遇にあった。)

ただ気掛かりは妻・りんが雪雄と出会う前に遭った大火事
のせいで記憶喪失になっていること。やがて、そんな彼に次々と不幸が襲い掛かかってくる・・・
この作品出演者が全員マユなしで、マユなしメイク一つだけでこうも不気味な世界観が出せるものなのかと驚いた

その中でも主演の本木雅弘とりょうが凄くマユなしが似合っててなんだかセクシーだったな


マユなしメイクってなんかセクシーというかエロスを感じるのは俺だけかなw
マユなし(引眉)は江戸時代に末期にかけて行われていたメイク術で、感情を消す為の慣習としてあったみたいなんだけど、その感情を内に秘めた事で滲み出てくるモノと、貧困層の住民達の奇抜で攻撃的な極彩色豊かな衣装が、この映画全体に不気味さを与えていた

この作品のネオジャパネスク風な「日本」は外国人受け良さげ。
それでいてどこか無国籍感漂う不気味な雰囲気を醸し出しているから不思議

また監督はその不気味さが醸し出す独特な世界観のテンションのまま振り切りすぎずにエンタメ性もちゃんと残してる所が上手く、あっという間に異世界へ引き込まれた




一見ホラーっぽいけど、霊的なものや怪物は一切出てきません。
なのでホラー苦手な方でもきっと大丈夫・・だと思います

浅野さんかっちょいいです
題名が既にネタバレなんだけど、一応ここからネタバレなんで


雪雄はある日捨吉に襲われて井戸に落とされる。
そして捨吉は雪雄に成りすまし生活し始める。
井戸の上から雪雄を見下ろしながら罵倒する捨吉

唾を吐いた残飯を頭上から投げ入れ、地べたを這って「食え」と言わんばかりに侮辱と屈辱を与える。
雪雄は捨吉に反抗するように何日かは耐えて残飯を口にしなかったけど、空腹に耐えられなくなり、とうとうその泥と唾にまみれた残飯を食い始め、どんどん捨吉のようなオドロオドロしい姿に落ちぶれていく。
この「捨吉」と「雪雄」の井戸のシーンはモッくんキレ具合ハンパなくてかなり良かったw
二人の境遇は皮肉にも逆転するわけだけど、捨吉は雪雄を憎みはしてもハナから殺す気はなかったんじゃないかと思わされた。
そう思ったのは包丁を井戸の中に放り込んだシーン。

親に捨てられ、貧困層で汚い落ちぶれた人生を送ってきた捨吉とは「天と地」ほども違う境遇で生きてきた「雪雄」にそんな度胸はないと思ったんじゃないかな。
それに殺そうと思えば、母や父を殺したように最初にいくらでもチャンスがあったはずだし。
その後、雪雄が井戸の中で動かなくなり「雪雄が死んだ!?」と思い込み動揺するシーンでもそれはハッキリ分かる

捨吉の雪雄への憎悪と復讐心は、井戸に落として自分と同じような境遇を味あわせ、屈辱を与え、妻を寝取った(取り返した)時点ですでに完結しており、だからこそ雪雄を殺す気はなくなっていたんじゃないかな・・。
でもリンとのSEXシーンで捨吉はリンが雪雄に心惹かれてしまってる事に気づいてたはずだから、もしかしたら嫉妬で本当に殺すつもりで包丁を井戸に投げたのかも・・


あと雪雄が井戸から自力で這い上がり、捨吉の不意を突いて首を絞めて殺すシーン。
このシーンで捨吉はなぜか抵抗せず、その刹那「お兄ちゃん・・」と声を絞り出しながら死んでいく。

抵抗しない捨吉の姿は、それを自ら望んだようにも思え、雪雄への「復讐」がここで完全に果たされることになる。

井戸から這い上がってきて捨吉の首を絞める悪魔のような形相に変貌していた雪雄に以前の面影はなく、まるで「捨吉」になったようだった

なんとも皮肉な逆転につぐ逆転劇。
捨吉が雪雄になり、今度は雪雄が捨吉のようになってしまう。
捨吉は死ぬが雪雄の中に殺した捨吉はいつまでも残る
その姿はあたかも「一卵性双生児」である二人が一つに「融合」したかのよう。
このあたりは塚本監督の「鉄男2」でも見られた、ラストの同じ性質同士が「融合」する姿が思い浮かんだ。
しかし入れ替わりが多くて文章で書くとこんがらがるw
ラストも絶妙な余韻を残してる。

貧困層のじじいが雪雄の「顔」を見て愕然とする・・・。
じじいは雪雄の「顔」に別人を見たからこそ驚いたはず。
それは雪雄であり、それとは違う何かを・・
ラスト彼は捨吉の育った貧民窟へと回診に向かう

その姿はまるで「双生児」が一つになったようだった。
あと気になったのが子供がいったいどちらの子なのかということ。
「雪雄」の子なのか?それとも「捨吉」の子なのか・・?
これは結局分からずじまい・・

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塚本晋也監督作品

「鉄男」予告編
ローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ(1989年)
「鉄男 II BODY HAMMER」1993年
ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門への正式出品
映画『鉄男 THE BULLET MAN』予告編 2009年
第42回シッチェス・カタロニア国際映画祭で名誉賞受賞