とある日の午前中のストリート。


私はいつものように、小さなスピーカーを置いて歌っていた。


立ち止まってくれる人は多くはないけれど、それでも誰かの一日に、ほんの少しでも音が残ればいいと思っていた。


何曲か歌い終えたころ、ひとりのおじいさんが笑顔で近づいてきた。その目はどこか懐かしいものを見るようで、やさしい笑顔だった。

歌い終わると、おじいさんは無言でポケットから小さな瓶を取り出した。透明なその瓶の中には、ぎっしりと500円玉が詰まっていた。


「今まで貯めてきた500円玉貯金、全部やらぁ〜!!」


私はびっくりしていると、おじいさんは少し笑って言った。


「これな、ずっと貯めてたんだよ。でもな、もう自分のために使うより、あんたみたいに歌ってる人に渡したほうがいいと思ってな」


そして、少し間を置いて、こう続けた。

「その代わり、お願いがある。」と。


私はとんでもないことを言われるのではないかと、正直不安になった。


すると…


「これからも歌うことをやめないでほしいの。もっといろんなところで歌って、いろんな人に出会ってほしいの。」


「?!」


それが、''お願い"だった。


その言葉は、不思議なくらいまっすぐ胸に届いた。お金の重みよりも、その言葉のほうが、ずっとずっと重く感じられた。


今まで心配されたり反対されたことはたくさんあったけど、こんな応援される形でお願いされることがあるなんて…私はしばらく理解が追いつかなかった。そんな事実が信じられなかった。


と同時に信じられないほど嬉しいお願いだった。


私は深く頭を下げた。うまく言葉が出てこなくて、ただ「ありがとうございます」と何度も繰り返すことしかできなかった。


おじいさんはそれ以上何も言わず、軽く手を振って、人混みの中へとゆっくり消えていった。


そのあと歌った曲は、いつもより少しだけ震えていたかもしれない。でも確かに、いつもより遠くまで届いているような気がした。


あの日から、歌う理由がひとつ増えた。

自分のためだけじゃない。

あのおじいさんの願いを、ちゃんと運んでいくために。





4/3   21時より新秋津ストリート

お待ちしてます😊


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