音楽と日本茶とあん摩マッサージ
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騒がしい客

 よく晴れた土曜、午前のうちに、池下駅そばの整骨院を訪ねました。先生は小難しい機械で何かしら計測し、数値を読んで、体力もないのに興奮しすぎだと私に向かって言いました。思い当たるふしもあり、そしてなるほど、その後その通りの週末を過ごすことになります。

 

 骨を整えてもらってから、あん摩をするべく岐阜の高原へと向かいました。遠いです、わたしは運転が大変にきらいなので、いやだなあいやだなあと思っているうちに、山々は何層にも青く色を重ね、なるほどたしかに揖斐高原は良いところであるなあなんて感心致しました。現地にはすでにお友達も見えて、みなさん楽しくやって居ります。上機嫌ですね、よろしゅうございます。あん摩・読書・舌鼓、あん摩・読書・舌鼓と何度か繰り返し日は沈み、高校時代の同級生を誘い会場の途中にある温泉施設へ出かけました。連れの男子は発券機で入泉券を求めて男湯へ、わたしも同じく五千円札を入れるとどうでしょうか、返ってきたお釣りが五百円足らないのです。番頭のおじさんにそれを言いますと、おじさんは怪訝そうな顔をして取り合ってくれません。「おじさん、お釣りが4100円しか出てこなかったの。500円お釣りが足らないの」「いー、そんなことあるわけないだろう。機械なんだよ」「機械なんだけど、わたし五百円がないの」「機械が間違えるわけないよ。今までにもそんなことはなかった」「うん。でもわたし五千円札入れて、お風呂代は400円だから、4600円お釣りがないと変なんだもん」「しかしねえ」わたしはどうにか納得してもらうよう努めますが、禿げ上がった可愛いおじさんが困惑の表情を見せるので、こちらの気分としてはクレーマー・クレーマーです。もしかするとわたしが間違っているのかしら、もう諦めようと思っていると、あちらももういいやと思ったらしく、いいよお嬢ちゃん、ほうら500円あげるからもう湯船に浸かっておいでと、わたしに硬貨を差し出すのでした。わたしはそれを受け取り、やっとの気持ちで女湯へ向かう途中、通りのそばで休憩している若者たちが、遣り取りのすべてを見ていたことを察しました。あ!リトルテンポの人!好きな人に騒音おばさんのような姿を見られた気恥ずかしさから、どうか早々とこの場を立ち去りたいと切に願い、服をかなぐり捨て湯船に浸かりました。はあ、いい湯だなあ・・。静かな露天風呂にひとり、わたしの心はやわらかなお湯の中へと溶けてゆきそうです。
 上機嫌でお風呂から上がると、おじさんは五百円玉が機械から出てきたよ、ごめんねと、大きな硬貨を見せてくれました。おじさん、また明日来るねとわたしが言うと、風邪引くなようと何度も言うのでした。

 

 日曜も美しい天気でした。テントの中でわたしたちは寝袋をたたみ、車を出していつぞやの温泉に行きました。気の狂れた発券機にビクビクしましたが、お釣りも正しく返してくだすって、うれしい気分で湯船に浸かりました。連れの女子が先に出て会場に戻ると言うので、わたしは例によって文庫本を取り出し、それを読み始めます。長らく読み進めていると、なんといつぞやの犯人が分かり、やっぱり例によってわたしは興奮し始め、少し心を落ち着けようと、いったんお風呂から上がることに致しました。悲しいのはここから、長湯に逆上せて足元はふらつき、目の前はくるくる回転し見る見るうちに真っ暗、視界に酔って気分を悪くし、とても動けぬ、脱衣場の藤椅子に這うようにして座り込むので在りました。幸いにも、まだ風呂屋に残っていた連れの女子と駆けつけたお店のおばさんの介抱で、暫くすると少し持ち直し、おばさんに深々と頭を下げて温泉を後にしました。ようやく会場の本屋に戻ると、男性陣が心配した様子で、「お湯ぬるくなかった?あんなぬるいお湯でどうして逆上せるの?」とわたしに訊ねます。こんな調子じゃあ今日は本は読めないなあ、残念だなあと、少しあん摩、少し舌鼓、そんな二日目で在りました。途中、さきほど脱衣所でご一緒だった女性客がお店を訪れ、だいじょうぶですかと心配そうにわたしに言うので、ええ、ずいぶん、バスタオル一枚でお恥ずかしいところをお見せしましたとこたえると、彼女は「あんなぬるいお湯なのに」と言いました。

 

 そんなこんなでわたしのオトノタニは終わったのです。時間が経ってもてもふらふらが抜けない一方なので、大事をとって早めに帰りました。わたしの住む場所は遠いなあ遠いなあ、しかし空には白い半月、それから多度大橋で美しい夕焼けを見ました。運転は嫌いですが、良い音楽と良い風景があれば何かしら仕合せです。まるめて見ると、楽しい2日間で在りました。 ありがとうございました。

 

オトノタニ

http://www.otonotani.com