物心ついた時にはすでに生活の一部、というか、自分自身の一部になっていた。

朝起きる、ご飯を食べる、着替える、学校に通う、友達と遊ぶ、勉強する…

そんな日常の1つにピアノを弾くことも並ぶ。

楽譜には、知らない音楽が隠されている。
新たな音楽と出会うことが楽しくて、夢中で楽譜をめくっていた。

いつしか友達と向かい合って言葉を発するより、ピアノと向かい合って音を奏でる時間の方が長くなった。

誰も邪魔できない、私とピアノの世界。

音楽の道を志したのは10歳。

それ以外の道は目に入らなかった。

真っ直ぐだけど、平坦ではなく、階段のように、上に上に進むしかない。

常に1段ずつ上がらなければ前には進めない。

周りには音楽をしている人が増え、一緒に喜び、励まし、尊敬することばかりだった。

それと同時に、自分が音楽をする意味があるのか、考えるようになった。

自分より遥かに上手く演奏する人間はこの世の中に溢れすぎている。

私が音楽をやっていて良いのだろうか、と。

そんな時に、公民館でピアノ講座の講師を引き継ぐことになった。

講座に通われていたのは、ほとんどが50代、60代の主婦の方。
中には80代の方も。

ピアノに憧れてドレミを覚えるところから始めた方。
子供の頃習っていたピアノを、何十年ぶりに復帰した方。

みんな、純粋に音楽を楽しみたくて、教室に通う。

ピアニストのようには弾けないけれど、ピアノを弾くことが幸せだと話す。

その話を聞いて、私もピアノを好きな気持ちを忘れたくない、と思った。

今では、レストランや結婚式で演奏している。

毎回、緊張感があるが、とても幸せな時間だ。

これからも、私はずっとピアノと生きていく。