「では、お尋ねします。荒谷さんとはどのようなお知り合いでしたか?」

「オケでの指導者と生徒でした」

「いつからですか??」

「小学生になってすぐくらいです。中学生になってしばらくしてやめましたが」

「止めてからも連絡を取り合っていたんですね?」

「いえ。しばらくはオレから連絡を絶ちました。最近、再開したんです」

「わかりました。荒谷さんに殺されるような心当たりはありますか?」


しばしの沈黙の後、昴は口を開いた。


「いえ、ありません」

「そうですか……。ありがとうございました。昴くんから何かありませんか?」

「管楽器類は発見されませんでしたか??」

「楽器……ですか。ちょっと待ってくださいね…………見つかってはないですね」

「おかしい。荒谷さんは相当数の楽器を持っているのに」

「残念ながら燃えてしまったとか……」

「燃えても燃えかすくらいは残りますよ。いえ、そうでなくても金管は燃えません」


と、ここで昴はある可能性に気づいた。


「地下室は見つけましたよね?」


答えたのは新崎だった。


「地下室??そんなものはなかったな。あるのか」

「はい。練習用のスタジオが地下に」

「どこだ??」

「口ではうまく……。案内しますので連れていってくれませんか??」


新崎は少し考え込むと、答えた。


「わかった。案内してもらおう。ガレージの車で待っている」


昴は自分の部屋に戻ると、準備を始めた。地下室に入るには別に鍵がいる。
由良は、自分の親しい教え子には合鍵を渡していた。
昴はダウンを羽織るとガレージに行った。


「乗ってください」


東が言うと、昴は後部座席に乗り込んだ。

パトカーは、ゆっくりと出発した。

しばらくして、車内で昴は尋ねた。


「オレを疑ってはないんですか??」

東が答えた。

「荒谷さんが最後に見かけられたのは郵便局なんです。そこから帰宅してから家が燃えはじめるまで1時間半、その間、君が駅近くのレストランにいたことは確認しています。だから、こうして協力をお願いしたんです」


新崎が補足する。


「ついでに言えば、あのオケも全員アリバイが証明された。だから、犯人の見当は丸っきりつかない。このことはまだ表にしてはよくないが、お前は知っていたほうがいいだろう」


「そうですか。よかった」


昴は、身内が犯人でないことに安堵した。

そうしているうち、パトカーは、荒谷由良の家に着いた。
由良の家は、一部の部屋と、階段部分を残し、残りは骨組みと灰の固まりになっていた。
事件がからあまり時間が経っておらず、現場は焼けた跡そのままのようだった。
現場にいた警官に軽く例をすると、昴たちは焼け跡に踏み込んだ。
新崎が、後ろで事情を話していた。

昴は、位置関係を考えながら、階段跡の周りを歩き回り、一カ所を見据えた。


「すいません、これどかせませんか??」


昴が指差したのは、かつて壁だったと思われる建材だった。


「そいつの下か……」

「おそらくは……。どかさなければ入れないでしょう」


新崎が聞き付け、指示を飛ばす。


「こいつどかせる重機を一台!」

「わかりました。離れてて下さい」


既に一台のショベルカーらしきものが待機していて、材木をどかすために準備していた。
建材から離れると、その重機は建材を押しやった。
そこに駆け寄った東が、突然視界から消えた。が、少し視線を下に移すと、腰くらいまで埋まっていた。


「すいません。埋まっちゃいましたぁ」


皆が飽きれ、呆然とする中、それを見た昴が言う。


「掘ってください。多分、入り口の階段が埋まってます」


東を畑の大根よろしく引き抜くと、しゃべるを持った警官が、階段を埋めている家具などの灰を掘り起こしはじめた。

30分もすると、階段の下の扉が姿をあらわした。
扉を引いたが、開かなかった。
昴は、鍵を取り出すと扉を開いた。

中に足を踏み入れると、そこには由良の楽器と、譜面、そして練習記録などの資料が残されていた。
昴の記憶に頼り、楽器類はピアノなどの運び込めないもの以外、すべて揃っていることを確認した。


おかしいな、なんか納得いかない……

どっか、不自然だよな……


「犯人の性別ってわかりますか?」


ふと、昴は尋ねた。


「刺し方とか、他の痕跡から考えればわかい女性って感じだ」


だとしたら、なぜ……

わからない、不自然過ぎる……


昴が予想していた人物が犯人なら、状況的に由良は死ななかったはずなのだ。
なぜ、由良は死なない道を選ばなかったのか、謎は深まるばかりだった。


~~ To be continued ~~







なんだったんだろう、昨日のヤな予感は……


月曜日、学校があった。
昴は朝から不安に苛まれていた。昨日からずっと続くその正体がわからない。
昴はケータイを開いた。ワンセグを開くとニュースをやっていた。
市内で火災があったらしかった。


『昨日、夜11時頃に住宅火災があり、住宅一棟が半焼し、この家に住んでいる荒谷由良さんとみられる遺体が発見されました。遺体には刺されたようなあとがあり、警察は身元と死因、出火原因を調べています。』


まさか……

荒谷さんが…死んだ……!?


昴にとって、最悪の現実。
とはいえ、詳しいことがわからない今、悲しんでいいのかさえわからなかった。

そのまま、夜になっていた。
昴が家に着くと、書留が届いていた。

差出人は、荒谷由良。

昴は封を切り数枚の便箋と、写真を取り出した。
写真はよくわからなかったのでスルーした。

便箋には、これからの練習について、コンクールの評価、そして昴がこれからさらに羽ばたくために必要なことが細かに記されていた。
まるで、最期に自分に遺したメッセージのようで、由良が自らの死を予感しているような内容だった。

やはり、由良は死んでしまったのだ。

奏者として、という内容だけで6枚の便箋。
そして7枚目以降、由良の死の原因に近いものが書かれていた。


『以上でお前のこれからについての話は終わりだ。
そして、ここからは心して読んでほしい。この前の話の続きなんだが……』


読み終えた昴が感じたのは非現実感、そしてそれは、怒りと由良への感謝に変わった。そして、同封した写真を見ると、その意味を理解した。


なるほど、確かに似ている……

とすれば、犯人はだいたい……


由良が昴に知らせた件に関わった人物は少ないはずだ。そして、このような秘密を握られては確実に困る。
だから、犯人は由良を殺すだけでなく、家に火を放ったのだろう。
そうやって証拠を隠滅しようとした。
しかし、この手紙だけでは裏付けはなく、証拠にはならない。
ここまで考えた昴はふと思い出した。


由良の家には、様々な楽器を保管したり、新しく作成したテキストもあったハズだ……

それも焼けてしまったのだろうか……


いろいろと考えているうちに、ドアチャイムがなった。
昴の養母が出る音がした。
しばらく話し声が聞こえた後、自分を呼ぶ声がした。


「昴、警察の方が来てほしいって」


考えている間でもなく由良の件についてのはずだ。
由良は下に降り、警官2人がいる部屋に入った。


「はじめまして。藤網警察署の東(あずま)です」


片方がそう言って警察手帳を示した。


「こちらは誰ですか??」


昴は尋ねた。もう片方が答える。


「神奈川県警本部長の新崎(にいざき)です」


新崎も警察手帳を見せた。
昴も名乗った。


「こちらこそはじめまして。県立奏華高校、星崎昴です」


若い警官の東が用件を切り出す。


「ニュースなどでご覧になったとは思いますが、昨日夜遅くに荒谷由良さんがお亡くなりになりました。状況からして他殺の可能性が濃厚であり、こうして生前に関係があった人に事情を聞いています」

「わかりました。答えられるものにはお答えします」


そう言って、昴は相手を見つめた。
その視線は、鋭さを含んでいた。


~~ To be continued ~~








響きは、かつてない質感を持っていた。
少し前までの奏華高吹奏楽部の演奏を聴いた者は、今までになかった安定性を、昔の奏華を知る者は、黄金時代の再来を思わせた。
奏華の奏でる調べは、ホールという空間を、響きという重みを伴って占めていた。
まだまだ完璧と言うには幼いくらいに未熟な技量。
しかし、彼らの演奏は確実な進歩を意味していた。

演奏後の反省会では、前向きな意見が多かったのも、進歩かもしれない。
今回のコンクールは上に繋がらない。結果を大きく気にしなくてよかった。
当然、金には及ばずとも納得のいくコンクールだった。


まだ、目指すべき地平は遠い……


昴は今回のコンクールをステップに、新たな次元への道を見ていた。


コンクールを聞き終えた由良は、ブランクを感じさせない昴の技量に感心していた。


むしろ、このブランクが、オケ専門の昴にブラバンを受け入れさせる下地を作り出したのかもしれないな……


そうなのだとしたら、と由良は考える。


昴は音楽の神に愛でられてる……

アイツこそ、真にイスラフィルと呼ぶに相応しいのかもしれない……


由良は、あまり神を信じていない。しかし、それでも、まるで計画されていたような昴のブランクには、神か何かの存在を疑わずにはいられなかった。


昴はオレとは比較にならないくらいに凄い奏者だ……

オレに出来ることは、アイツにオレの全てを伝えて独立させること、かな……


昴はいずれ由良を超える、おそらくはそう遠くない未来に。
それは、由良自身も自覚していた。
コンクールを聴く間、書いていたものを仕上げると、それを郵便局に持って行き、書留で出した。
そして、由良は帰り道を歩いていった。
その後を追う、影があった。
由良は、平然と歩んでいた。


昴たち、吹奏楽部員は反省会という名の打ち上げに行っていた。
何人か帰ってしまい、全員は揃わなかったが、それでも大勢残った。
部員たちは、昴が許さないだろうと思っていたが、意外にもあっさりっ承諾した。
部長とパートリーダーしか知らないことだが、これも昴のケアメニューの一環だったのだ。
予約していたファミレスで食べながら、みんなはしゃいでいた。
成長を実感出来たのかもしれない。
昴は、時折周りと話しながら、それを眺めていた。
ふと、嫌な気配を感じるまでは。


家に着いた由良は、急いで地下に楽器や、資料を運び込んだ。
昴の地下練習場は、由良が教えたアイディアでだった。
写真立てを運ぼうとしたとき、廊下で足音が聞こえた。


ち、もう来やがったか 足音からすると一人だな……


軽く舌打ちをすると、足音が聞こえないのを確認して部屋を出て階段を下りた。
と、その瞬間に侵入者と鉢合わせた。足音を消していたのだろう。
相手は、小柄だった。顔を覆っていて、顔も、男か女かもわからない。


ここで死ぬわけにはいかないんだがな……


由良は、相手に蹴りをいれると、階段を駆け降りた。
下りた瞬間、首筋に衝撃を感じ、倒れ込んだ。
侵入者は、由良の前に立つと、ナイフを取り出した。


「バカ親父のお使いか??」


相手は動揺しない。


まだ肝心の証拠が…… いや、まだ手はあったな アイツ次第で変わる……


相手から、ごめんなさい、と聞こえた気がした。
その姿と、声は由良が知る者だった。
密かに納得しながら、由良は相手を見た。


~~ To be continued ~~