「ねぇ…おかしいなぁ。」
バンと勢いよく部屋に入るなりよく解らない問いかけをしてくる。
俺は一瞬ペンを止め、視界のはじっこに入るアンタはアンニュイな表情で笑っている‥。
「ん~、何がだァ?」俺はアンタの本心を測りかねて困ったと思う気持ちを悟られまいと、気の無いような返事をする。

「ン‥、何だろうね?…忘れたケド、何か変。」
そう言って俺の方に視線をよこす。

気分屋で飽き性、直ぐに熱くなるくせにどこか冷めた目をするコイツァ俺の上司だ。
面倒くさがりで興味を示したモノ以外にはひたすらに無関心、無感動、そして、無頓着。そのくせ、仕事に関してのみ、まるで人が変わったかの様に精力的かつ冷静にこなしていく。だからこそ、後々の仕事に繋がる訳だが、毎回そのギャップには驚かされる。

「当の本人が解らねェんじゃァ、俺はもっと解らねェですよ。」

視線に気付かないフリをし、見ないようにそっぽ向いて自分に任された仕事に目を通しこなしてゆく。まったく、書類の類い、報告書なんかはコイツはあんまりやりたがらない。以前は全てやっていたようだが、ここのところはとんと見ない。
大抵は俺に回ってくる。たまには自分でやれよ、とか思う訳だが‥まぁ、やるわきゃァねぇか‥。
俺は軽くため息をつきつつ休めることなくペンを走らせる。

椅子に腰掛ける気配。
…感じる視線。

頬杖をついてじっとこちらを見ている。

「…なァ、そう観られてると何かやりづれェンだが?アンタ今日は変だぞ?何かあったのかィ?」

俺はペンを止め、観念したかの様に顔を上げ、アンタの顔を見る。
にっこりといつもどおりの薄ら寒い貼り付けた様な笑顔で俺に笑いかける。

端整な顔立ちに抜けるような白い肌。
癖の無い長い紅い髪…。
時折、吸い込まれそうになる深い瑠璃色の瞳…。
何処となく掴み所の無いような有るような得体の知れない存在感。
何考えてンだか分かったモンじゃァねぇ。