こいつは昔からそうだった。

「ちょっとそこ座れ。」

深いため息をつきながら頭をかく俺の目の前に、申し訳なさげな上目遣いで銀髪がちょこんと座る。

「何で呼び出されたかは解ってるよな?」
こくりと銀髪が頷く。俺はまた大きくため息をついた。
昨年、ずっと探し続けていた弟が見つかったのだ。
何年もの年月がかかった。

仕来たり…。
習わし…。
風習…。



俺達の実家は古くさい過去の習慣、ルールに従って生きてきた。
それは絶対であり、代々の当主や一族郎党みな当然の様に従ってきた。
男尊女〇は勿論のこと、この一族には漆黒の闇のような黒色を尊重するという過去からの馬鹿げたしきたりに従って、銀色の毛色を持つ弟は10歳程までは邸の奥間に軟禁生活を余儀なくされ、後に里子に出されてしまった。

俺は探した。

しきたり?
知らん。
代々の当主も…
構うもんか。
時代は21世紀だというのに、何がしきたりだ。いつまでも悪しき古い体質を引きずる爺のガチガチ頑固な頭のままでは一族の存続すら危うい。


実家の腑抜けた連中の事なんか構わずに、弟の行方を探し続け、里子に出された先の家もやっとの思いで調べあげ、たどり着いた時には既に弟はどこ吹く風…。とっくに出たあとで行き先も分からず仕舞い。振り出しに戻っちまった。
俺は途方にくれた。
確かに、ヤツは幼い頃からとんでもなく行動派だ。思いつけばすぐに行動に起こす。
忘れていた…。
おとなしく待っているようなタイプでは決してなかったのだ…。

とにかくまぁ、此所には書ききれないくらいに大変な思いで兄ちゃんは探し回りましたよ~。そりゃもう~散々探し回った挙げ句、とんでもない場所に居たわけだ。
全然全く思いもよらない知り合いのところに転がりこんでいた…。
記憶の失った状態で…。
あ~もう、何で記憶喪失??
よりによって、何で記憶喪失ッ?
完全にお兄ちゃんの事まで綺麗さっぱり、すすいだ瞬間キュキュッと落ちてる~みたいな感じになってんのかなァ~?
こんだけ苦労して探しだしてみたら、どうしてお兄ちゃんと過ごした記憶まで、汚いしつこい油汚れみたいになってんのォ?
洗い落とされて下水に流されてるのォ?
何~て悲愴な気持ちに浸りながらお兄ちゃんは思った。
余程ヤバい事にでも巻き込まれたか、自ら突っ込んで行ったのかはあまり考えたくないところだが、そうとう根深い程の人間不信になってしまったようだった。