旅行業界内では、添乗業務における不当な残業代未払いが多く発生しているようです。今回は、そんな添乗員の労働時間管理と残業代請求について考えてみたいと思います。

 

結論を先に記載すると、あくまでもモデルケースでの試算ですが、月1回のペースで1週間のツアーに添乗していた社員の場合、時間外手当が支払われていないケースでは、2年間で175万円もの未払い残業代が発生する計算になりました!ご興味のある方、ぜひ最後までお読みください!

1)はじめに
まずはじめに、ブログの読者のみなさまにぜひご存知いただきたい最高裁判例があります。

最高裁判例 事件番号:平成24(受)1475

この裁判結果は、添乗員は時間管理が困難で「みなし労働時間制」を適用するという業界内の常識を覆す画期的な判例で、当時は大手紙にも載るほどのニュースとなりました。

日本経済新聞 2014/1/24付『添乗員、みなし労働認めず 最高裁、残業代支払い確定』

それまで、添乗員は労働時間の管理が難しいために、外回り営業と同じように労働時間の算定が困難な場合に一定時間働いたとみなすみなし労働時間制を適用するケースがほとんどでした。
旅行会社の中には、報告書によって何時間働いたかが明確だったり、日程上、連日残業が発生することが明らかである場合であっても、1日の労働を8時間にみなして不当に従業員を働かせているところもあるようです。
そして、そういった会社の多くには労働組合が無く、労働者の皆さんはほとんどが泣き寝入りの状態のようです。
そのため、旅行業に憧れと希望を抱いて入ってきた若い人たちは、数年のうちに疲弊しボロボロになって業界を去っていく、というのが顕在化しています。実際、転職の口コミサイトをのぞいてみると、旅行会社の多くで「残業代がでない」とか「給料が低すぎる」といった意見を多く見ることができます。

多くの人が仕事にやりがいを感じているのにもかかわらず、業界を去って行っているというのは、非常にもったいない事で、労働者側にとっても経営者側にとっても損失であるはずです。しかし、会社の中にはこの状況を“利用している”悪徳企業もあるようです。

前述したように、旅行業に強い憧れと希望を持つ若者は現在も一定数います。最近は薄給であることが常識となってきたので以前ほどではなくなりましたが、いまだに人気職種の一つとなっているようです。

マイナビ2018就職企業ランキングの文系総合ランキングでは、第2位にJTBグループ、第7位にHIS、第34位に近畿日本ツーリストがそれぞれランクインしています。

この様に人気の高い業種のため、会社側からしてみれば、“替えはいくらでもいる”という状況が成り立つようです。なので、“無垢な”労働者を知恵をつける前に働かせるだけ働かせて使い捨てるといったケースが存在するようです。

もちろん、旅行業を去っていく前に会社側に法的手段で残業代を請求することもできるのですが、そのようなことができるとは微塵も知らない人がほとんどで、知っていたとしても、手間と時間がかかることや再就職への影響を恐れて、ほとんどすべての人が泣き寝入りしているというのが現実のようです。

このような状況を看過することはできません。

 

では、どうすればよいのでしょうか?まずは、ご自身の残業時間がどれくらいかについて把握することが大切です。そのために、添乗時の残業代計算を、例をもとに紹介したいと思います。

2)添乗時の労働時間算出方法と未払い残業代の計算方法
前述の最高裁判例を受けて、業界団体である日本添乗サービス協会は次のような記事を会報誌に掲載しました。

TCSA NEWS Vol.85 [OPINION] 添乗員労働時間みなし労働時間から時間管理へ

この記事に準じて、次のように労働時間算出のルールを定義してみました。

業務開始時刻 添乗初日 自宅から直行の場合 空港スタンバイ時刻
会社出社後に空港に向かった場合 出社時刻
ホテルに電話があり
モーニングコールを
依頼した場合
荷物出しがある場合 ホテル出発予定時刻の60分前
荷物だしが無い場合 ホテル出発予定時刻の30分前
ホテルに電話が無い場合、または電話はあるが早朝発等で添乗員自らがモーニングコールを行う場合 モーニングコール時刻
業務終了時刻 ホテル内で夕食 夕食開始60分後
ホテル外で夕食 チェックイン、部屋周り
などがある場合
ホテル到着60分後
連泊でチェックイン、
部屋周りが無い場合
ホテル到着時刻
移動時間 バスなどの陸路移動 全て拘束時間
航空機 出発後の業務終了時刻 出発時刻の60分後まで
乗継出発時の業務再開時刻 出発時刻の60分前から
到着時の業務再開時刻 到着時刻の60分前から
着後乗継時の業務終了時刻 入国手続が無い場合、到着時刻の30分後まで
入国手続がある場合、到着時刻の60分後まで

 

 

このルールをもとに、以下のモデルケースで解説してみたいと思います。

 

 

モデル Aさん
基本給 22万円
月平均所定労働時間 176時間
日平均所定労働時間 8時間
基礎時給 1,250円

月平均所定労働時間は、就業規則などで定められている場合があります。定められていない場合は8時間×22日勤務=176時間というのが一般的です。

 

では、Aさんのとある日の海外添乗日報を見てみましょう。

 

ホテルのモーニングコールサービスの有無
ホテルの朝食 ビュッフェ形式
荷物だし なし(=連泊)
ホテル出発予定時刻 8:30

 

添乗日報
場所 到着時刻 出発時刻 交通機関 備考
ホテル   8:37 専用バス 前日と同じ。35シーター
A博物館 9:20 11:03  
B公園 11:20 11:50  
Cの碑 11:54 12:03  
Dレストラン 12:25 13:50 昼食。お客様と同席しアテンド。
E遺跡 14:02 15:20  
F遺跡 15:45 16:55  
ホテル 17:30 18:50  
Gレストラン 19:00 20:55  
ホテル 21:05   着後、解散

 

上記の場合、労働時間の計算は下記の通りとなります。

業務開始時刻 8:00 荷物だしがないため、出発予定時刻の30分前。 9:30
業務中断時刻 17:30 チェックインがないため、ホテル到着時に業務中断と判断。
業務再開時刻 18:20 再度、ホテル外のレストランにて夕食のための
出発時刻の30分前にスタンバイ
2:45
業務終了時刻 21:05 ホテル到着後、即解散のため、同時刻
合計労働時間 12:15

 

上記の例では、残業時間は4時間15分となります。法定時間外労働割増賃金は基礎時給の1.25倍ですから、この日の残業代は、1,250円×1.25×4.25(時間)=6,641円となります。

もし仮に添乗期間中の給料が時間管理されてなく、一律8時間勤務とみなされていた場合は、上記金額がまるまる未払いになる可能性があります。仮に、1週間のツアーで、このような日が添乗期間中ずっと続いた場合、土日も1回ずつ含まれますので、残業代は以下のような計算となります。
 

平日 1,250円×1.25×4.25(時間)×5日間= 33,203円
土曜日 1,250円×1.25×12.25(時間)×1日間= 19,141円
日曜日(法定休日) 1,250円×1.35×12.25(時間)×1日間= 20,672円
合計 73,016円

 

添乗中における時間外労働賃金が全く支払われていない場合、上記の例は単純計算ですが、添乗1回当たり7.3万円もの未払い残業代が発生している計算となります。
仮に月1回のペースで添乗業務に従事していると仮定すると、未払い残業代請求の時効は2年間のため、過去2年分で約175万円もの未払い残業代が発生する計算となるのです。

もちろん、残業代が固定残業代制により事前に支払われているケースもあります。しかし固定残業代制度の場合でも、就業規則などに明確に定めてあることが必要で、定めてあったとしてもその多くが月30時間~45時間といった場合がほとんどです。仮に月7日間添乗業務に従事する場合、4.25時間×5日間+12.25時間×2日間=45.75時間となり、それだけで固定残業代制度で想定されている残業時間を超えてしまいます。添乗業務以外の勤務日に時間外勤務を行っていれば、その分残業代は増えていくことになります。超えた分はちゃんと支払わなければいけないことになっていますので、もし支払われていなければ、請求すればまず確実に未払い時間外労働賃金の支払いを受けることができるはずです。

さらに、例えば深夜10時~早朝5時の間の労働時間があれば、ここに深夜早朝の割増賃金も適用となります。そうなるとさらに未払い賃金は増えることになるでしょう。

3)実際の請求の方法について
とはいっても、こんな請求したら会社での立場が悪くなるので、できるわけがない、と感じている方がほとんどだと思います。
本来であれば、このような労働者の権利を守るため労働組合が存在するべきなのですが、特に中小企業ではあまりにも労働者の入れ替わりが激しく、また平均年齢も若いため労働組合ができる土壌がありません。

でも、日本には一人でもはいれる労働組合があります。それがユニオン=すなわち合同労組です。
私たち東京管理職ユニオンに加入して残業代請求をすることができます。さらに、もし仮に2~3人の仲間と一緒に加入すれば、支部を結成することができるので、更に強力に会社側に労働者の権利を主張することができます。

黙っていては旅行業界で待遇改善を訴えることはできません。旅行業界をあきらめて去るのも手だとは思います。でも、せっかくやりがいのある素晴らしい仕事だと感じているなら、せめて最低限の生活水準を確保して仕事を続けるための改善を会社側に求めてみてもよいのではないでしょうか?

 

ご相談したい方がいらっしゃいましたら、お気軽に当ユニオンまでお問い合わせください。

 

東京管理職ユニオン 03-5371-5170