いつもの「勝手に選考会」は、緊急事態宣言のためメールでの投票になりました。

 

「勝手に選考会」結果(満点70点)

50点  宇佐美 りん『推し、燃ゆ』(文藝秋季号)

47点  木崎 みつ子『コンジュジ』(すばる11月号)

47点  乗代 雄介『旅する練習』(群像5月号)

42点  砂川 文次『小隊』(文學界9月号)

24点  尾崎 世界観『母影』(新潮12月号)

 

見事!当たりました。

文学学校の批評もあってなかなかみっちりと感想を書けなかったのですが、備忘録として簡単な感想をあげておきます。

最初の数字がわたしの点数です。一番に推したのは砂川文次さんの『小隊』でした。

※ネタバレあります

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5:砂川 文次『小隊』(文學界9月号) 

自衛隊の武器や作戦、組織などの専門用語は難しかったが、それをのぞいてもリアルで読み応えがあった。

設定が仮想なのだけど、リアルで本当に起きる可能性があるかもしれないと思わされる。 

登場人物ひとり一人に生活があり、個性があり、究極の場面でふだん隠れている人間性が炙り出されるのがおもしろい。 特に小熊がいい。

昔の戦争モノとは異なり、大学を卒業して単なる就職先として自衛隊を選んだ人たちが本当に国防に当たれるのか、という問題を自分自身に突き付けられたような気がする。 元自衛官にしか書けない小説で、作者自身が疑問に思っていることが滲み出ているのもよかった。 

 

4:宇佐美 りん『推し、燃ゆ』(文藝秋季号) 

表現が若々しく、的確で、文章に惹きこまれた。主人公の息苦しさが伝わってくる。

彼女なりに、せいいっぱい生きる姿にも共感した。 

手に入る範囲のものを収集、分析、発信することも、推しの真幸くんが見ている世界が見たいから、という理由に納得できる。現実に存在しながら、現実ではない、手に触れることもできるけれど決して自分の生活範囲にはいない、といういわば現実と妄想の狭間に生きる存在が主人公に生きるエネルギーをあたえることもあるのかもしれない。 

タイトルも端的に小説世界を表現していていい。炎上の「燃える」と主人公が燃やす命との両方を「燃ゆ」にはあると感じた。 

 

3:木崎 みつ子『コンジュジ』(すばる11月号) 

『押し、燃ゆ』のアイドルは生きており、常に状況が変化するが、この作品の場合はずっと以前に亡くなってしまった人で、伝記や動画、CDなどでその像を作り上げるところが異なる。 

空想の域を出ないところが、ポイントであり、老いることもなく醜い姿を見せられることもない。 ということは、主人公にとって都合よく書き換え可能であることが、現実逃避として最適なのだろう。 

冒頭で、主人公が父に性的虐待を受けていること、父はすでに亡くなっていることがわかるが、読むほうとしては「いつそうなるのか?」「なぜ父は死ぬのか?」が読み進める原動力になっている。 

しかしながら、ある種のネタバレであることは否めず、わたしはあまりそういう「引き」を好まない。 父との関係で記憶がないときは、リアンとの暮らしが描かれる。言い換えれば、妄想がこと細かに描かれている部分は酷い現実があったと読み取ることになり、しんどかった。 

後半部分でリアンがダメ人間であることが明らかになっていき、妄想の世界から現実の世界に戻るところはよかった。 タイトルの「コンジュジ」の意味がわからなかった。本文で何かヒントがあればいいと思う。

調べたところ、ポルトガル語の配偶者、という意味らしい。 妄想のなかの配偶者、知り合いにも「彼氏」と言っているところがせつない。 

 

2:乗代 雄介『旅する練習』(群像5月号) 

はやい段階で亜美が死ぬことを予見させられて、一気に読む気が失せた。 『最高の任務』のときにも感動を押しつけられたような気持ちになったが、同じ感覚だ。 

ふたりで歩いて鹿島に向かうシーンは美しく、水鳥の描写も素晴らしく行ってみたい気持ちにはさせられた。 とくに亜美がイキイキとして可愛らしい。 

だが、母の弟とそもそもふたりきりで旅に出るのか?という疑問は残る。途中で出会う女性旅の同行者になって、なんとなくほっとした。 さまざまな引用、鳥に関する知識、真言、サッカー(特にジーコ)、鹿島のことなど知識や蘊蓄が散りばめられていて読み応えはあるが、それらに説得力を持たせるために、亜美が死ぬという設定になったような気がしてならない。

 

 1:尾崎 世界観『母影』(新潮12月号) 

子ども視線を貫いているところはよかった。だが、とってつけたような漢字~ひらがな表記にあざとさを感じた。 

また、少女目線なのだが、女どうしでいるところに男性が紛れこんでいるような違和感がある。 

「言っていい」「行く」などで母の仕事について読者は想像することになるが、なぜ母がそういう仕事をしているのかについて、母は「遅れている」という理由になっており、なぜそのような母像にしたのか疑問だ。 いずれにしても、読んでいて密度や息苦しさを感じたものの、小説世界に共感できなかった。