そこは、地球の唯一の惑星である月。
人間と同じ容姿をした宇宙人が、人間と同じように暮らしていた。
月に暮らす騎士・粟島瑞丸は、1日の仕事を終えて、同僚である木村公一と宮廷の中を歩いていた。二人の仕事は、王権国家である月の国王に仕え、国王一家を守ることであった。しかし騎士というのはあくまで建前で、彼らは月にたった7人しかいない『魔法使い』なのだ!!
「…って、あらためて紹介されると照れるねんけど」
ちょうど右手に持っていた分厚い国書で公一の頭を(自称)軽くたたいた瑞丸は、先ほどの人物を思い出した。仕事終わりに一杯、と思っていた矢先に国王に呼び出され、紹介された男は、国王の一人娘・香織姫の婚約者候補だという。見るからに頭の切れそうな好青年、第一印象はそんな感じだった。
「まだまだ未熟ではありますが、お二人にはこれから大変お世話になると思います。どうぞよろしくおねがいします」
おまけに育ちの良ささえうかがわせるその挨拶に、瑞丸も公一もたじろぐばかりであった。
「ねえ、どう思う?」
「どうも何も…文句なしやろ」
公一の問いかけに答えておきながら、瑞丸の心は晴れない。なぜなら彼らの後輩騎士であり、7人の魔法使いの一人である早田剛が、香織姫と身分違いの恋をしていることを知っているからだ。
「でも、国王はそのこと知らないんだよね」
「ああ、知らへんやろな。このこと知ってるのは、俺ら7人だけやし」
王室の人間は、他の国の王室から結婚相手を受け入れるのが古くからのしきたりで、姫が騎士と結婚するなどあってはならないことだ。そうと知りながら、剛は姫を愛し、魔法使いたちも黙認しているのが現状である。しかし、姫の婚約話が持ち上がったいま、事態は大きな局面をむかえた。
「剛に…言わなあかん…よな?」
「そらそうでしょー。でも剛くん、すごくショック受けちゃうよね、そうよねー!!」
「その中途半端なオネエ言葉やめんかい!!きもいねん」
「なっ!!ひっどーい!!そんなだから瑞くんは女の子にモテない…」
「しっ!!」
素早く公一の口を手で押さえた瑞丸は、太い柱の陰にかくれた。広い庭園の中、大きな木の下で姫の声がするのだ。
「わたくし、どうやら結婚するようなのです。でも、そんなの嫌です。こんなに好きな人と一緒になれないなんて…お姫様なんて、どうせ籠の中の鳥。もう生きている意味がありませんわ」
きれいなその手で顔を覆う姫と、優しく語りかける男性の声。
「剛くん…かな?」
「ちゃう、あれはたぶん…」
「僕があなたをお守りします、香織姫。だから泣かないでください」
そう言って姫を抱きしめたのは、剛ではなく…
「ノ…ク?」
「やな。しっかしなんであいつが姫を抱きしめてんねん」
「わたくし、あなたに会えてよかったです。ずっと側にいてくださいますか?」
「もちろん、僕があなたを、香織姫を幸せにしてみせます」
姫を抱きしめる手により力を込めた野久保直樹は、その精悍なまなざしで、空を見つめた。
「で、どうするの?話がややこしいけどー。姫は剛くんと愛し合ってたんじゃなかったのお?」
物音一つ立てずに宮中に逆戻りし、公一の質問攻撃を受けながら、瑞丸はとある場所に向かっていた。
「わからへん。わからへんけど…こうゆうときは、まずは先人に相談や」
宮中の離れ、木が生い茂った先の薄暗い小さな建物。厚い木の板でできた扉を、瑞丸は力いっぱいたたく。こうでもしなければ中まで音が響かないのだ。3回ほど扉をたたくと中から応答があった。
「もうー開いてるってば!!てかこの家、鍵とかないのわかってるでしょー?」
「せやかて、一応年上やし」
「一応って何さー、絶対バカにしてるでしょ、今の。まあいいや、入って。今日は孝平ちゃんもきてるよ」
中に一歩入ると、独特の薬品とコーヒーの入り混じったにおいがした。部屋の中央に置かれたソファーに腰掛けていたのは、宮廷の専属弁護士・大芝孝平。そして文句をいいながら丸底フラスコでコーヒーを入れはじめたのが、この家の主で宮廷薬剤師の斎藤真吾。もちろん、この二人も『魔法使い』である。
「で、今日は何の用?酒飲みに来た感じじゃないね」
「さすが芝さん。ようわかってますね。実は…ちょっとやっかいな問題になりそうなんです」
瑞丸は、真吾のいれたコーヒーをすすり、前傾姿勢になった。
「長い夜の、はじまりってわけだ?」
眠そうに煙草に火をつけた真吾が、窓のそとを一瞥する。
「今夜は雨…かな?」
つづく
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この物語はフィクションです。
ある女子高生の、受験勉強の気晴らしだと思ってお付き合いいただければ幸いです(^▽^;)
