清水宏保氏のコラムは、以前「スポーツ後進国日本」と言うタイトルでコラムが載っていた。
(2010年2月23日付けの朝日新聞)
 
 この時も、清水宏保氏は、日本のメダル至上主義に反対する、と述べている。
 
 
●〈清水宏保コラム〉
メダル至上主義 決別のチャンス
 
6月27日 14:33
 
 スポーツ基本法が成立しました。
 
 僕としてはとてもうれしいことです。
 
 この法律は「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利」と書かれています。
 
 僕は幸運にも長野五輪で金メダルを獲得できましたが、
メダル至上主義には反対です。
 
 僕はぜんそくという持病を幼いころから抱えていました。
 
 それを克服するためにスケートを始め、金メダルに到達したのです。
 
 だからこそ、この法律をトップカテゴリーの選手の強化にだけ使ってほしくないのです。
 
 今のスポーツ行政は縦割り、横割りでまとまりが全くありません。
 
 例えば、子供たちがグラウンドを使用したいとき、
色んな省庁の許可がからんできます。
 
 この法律を出発点にして、スポーツをピラミッド形の組織に変えていって欲しいと思います。
 
 特に大事なのはピラミッドの底辺の拡大です。
 
 子供と、お年寄りのスポーツをまず大事にしてほしいと思います。
 
 そのことで、生活習慣病の予防につながります。
 
 もうひとつは、スポーツ選手のセカンドキャリアの問題です。
 
 今の日本は、引退した後の生活が本当に不安定です。
 
 地域密着のスポーツ文化が発展していけば、
 
僕が提唱している「ヘルスコンシェルジュ」(運動指導師)の需要も高まっていきます。
 
 日本は五輪には、熱狂します。
 
 でも、言葉は悪いですが、
 
あとは「使い捨て」です。
 
 それも、スポーツ基本法をテコにして変えていければ、と思います。
 
 アスリートが現役を引退しても、
 
ピラミッドの底上げになる運動医療のサイクルに入っていける。
 
 そんなシステムが構築できれば、と思います。
 
 五輪でのメダルは確かに大事です。
 
 自分を振り返ってもそのためにあらゆるものを犠牲にしてきました。
 
 でも、スポーツ基本法はメダル至上主義とは決別する宣言であってほしいと思います。
 
(長野五輪金メダリスト)
 
■朝日新聞社
 
 
 
 清水宏保氏の「スポーツ後進国日本」のコラムを私のブログに載せたものです。
 
 
●「スポーツ後進国日本
 
 清水宏保
 
 僕はこれまで本当に多くの方にお世話になった。
 地元の方々、応援してくださった皆様、用具の面倒を見てくださる方、
 
日本オリンピック委員会(JOC)の皆さん。
 
 すべての人の支えがあって、4大会連続出場、金、銀、銅メダルの獲得があった。
 
 不遜かもしれないが、申し送りをしておきたいことがある。
 
 少し、厳しい言い方になる。が、聞いていただければ幸いだ。
 
 日本はまだまだスポーツ後進国というしかない。
 
 五輪の期間中、国中が注目しメダルの数を要求される。
 
 選手が責任を感じるのは当然だが、
ノルマを課せられているような感じにもなる。
 
 それまでの4年間のフォローを国やJOCはきちんとしてきたのだろうか。
 
 政府の事業仕分けが行われ、スポーツ予算は削られる方向になった。
 
 全体的な削減は仕方ないとしても、
仕分けの仕方は適切だろうか。
 
 例えばお隣の韓国はスポーツ先進国になった。
 
 国威発揚という特殊な事情があるにせよ、お金の使い方が違う。
 
 日本には国立スポーツ科学センターがある。
 
 韓国にも同じような施設がある。
 
 韓国ではそこに選手が集められ、招集された時点で、日当が出る。
 
 日本では利用するのに料金が発生する。
 
 韓国ではもし、メダルを取れば、ほぼ生涯が保証されるのに対し、
日本の報奨金は多いとは言えない。
 
 バンクーバー五輪では、JOCの役員、メンバーが大挙して現地入りしている。
 
 予算は限られている。
 
 そのため、選手を手塩にかけて育てたコーチや、トレーナーがはじき出され、
選手に快適な環境を提供できてない。
 
 お金の使い方が逆だろう。
 
 競技スポーツだけではない。
 
 『1人1ドルスポーツの予算をつければ、医療費が3・21ドル安くなる』
 
という統計を見たことがある。
 
 ヨーロッパではスポーツ省のある国が多い。
 
 スポーツを文化としてとらえる発想が根付いているからだ。
 
 生涯スポーツが、また競技スポーツのすそ野となる。
 
 五輪の時だけ盛り上がって、終わったら全く関心がないというのではあまりに悲しい。
 
 日本にスポーツ文化を確立させるため、
国もJOCも努力を惜しまないでほしい。
 
(長野五輪金メダリスト)