Wreck-it Ralph(シュガー・ラッシュ)と日本ゲームのお話(1) | MSX研究所日記

Wreck-it Ralph(シュガー・ラッシュ)と日本ゲームのお話(1)

ディズニーが2012年冬に公開した映画「シュガー・ラッシュ」を見てきました。
や、面白かったですよ。綿密な脚本が素晴らしいデキであったと共に、MSXらしさがほんのちょっぴりゴミ箱に捨てられてました。チクショウ。
というわけでMSXのことしか扱わない当ブログのターゲットとさせて頂きます。

さて、この映画は古いビデオゲームたちに焦点が当てられています。閉店後のゲームセンターの筐体の中では、仕事を終えたゲームのキャラクターたちが生活している…というメルヘンチックなお話しなのですが、悪役はなぜか差別されているのでした。
たくさんあるゲームの一つ、「FIX IT FELIX JR.(直して、フェリックスJR)」というゲームの悪役「ラルフ」が映画の主役。
ゲームの中で30周年を祝うパーティが主役のフェリックスを中心として催されるのですが、ラルフは悪役だからみんなに呼ばれない。無理にパーティに行くと冷たい視線を浴びせられる。
そんなラルフが一発奮起してヒーローを目指すというお話しです。

しかし、別のゲームにラルフが行ってしまった結果、ゲーム画面からラルフが消えてしまいます。
結果マトモに遊べなくなった「FIX IT FELIX JR.」はゲームセンターのオーナーからは故障扱いをされ、ゲームの住人は大騒ぎに!
このまま故障とされてしまったら、ゲームセンターから撤去されてしまう!

お前ら、自分たちの仕事を30年間理解してなかったのか!

ラルフのボイコットまで、気づかなかったアホな連中にとりあえず腹が立ちますね!
もっとも、それを言っちゃあこの映画は成り立ちません。
ひょんなことから迷い込んだ「シュガー・ラッシュ」という別のゲームの中で出会った少女、ヴァネロペとの友情、勝利、そしてラルフの職場復帰までを描いた作品です。


で、この作品は、日本のゲームに対して凄い敬意を払っているのが分かります。
トレイラー(予告編)が公開された時にちょっと話題になりましたが、「パックマン」の敵、グズタや「ストリートファイターII」のベガやザンギエフ、「スーパーマリオブラザーズ」のクッパやらがカメオ出演しています。こいつらはゲーム業界の「悪役の会」とでも言う会合で、寂しく互いを慰め合っておりました。ベガはまだしもザンギエフが悪役というのはおかしいのですが、たぶん見た目で起用されたものと思われます。胸毛とか。

しかしこの世界は思いの外シビアでして、悪役でも仕事があるのはマシなのです。
人気がないゲームは撤去され、失業する運命が待ち構えています。
小島監督のtwitterの発言に、こんなのがありました。

小島監督のtwitter(2013年3月31日)。

私は「シュガー・ラッシュ」を劇場で見ました。見て良かったと思います。
家庭で味わえない劇場の醍醐味の一つは大画面ですが、もう一つ「観客同士の一体感」があります。
知らない人と同じ映画を見て、同じ空間で共に笑い、感動する。「ストリートファイターII」(1991年)のリュウとケンが出てきた時、客席に笑いが漏れました。お父さん世代直撃のゲームですからね。

で、「Qバート」の彼が出てきた時。
私は笑いそうになったのですが…

こんなの。

劇場が、静まり返りました。
理由は分かりきっています。誰も声こそ上げませんが、心の中で思っていたことでしょう。
「誰、コイツ?!」

みんなで見ている映画なのに、なぜか孤独感を味わうハメとなりました。
しかしそりゃまあ知りませんよね「Qバート」。小島監督のツイートにある「『Qバート』のMSX版」というのはこんなです。

MSX版。

中央の白い恐竜みたいなのが主人公なのですが…。そう、上のタコみたいなのとは別物です。
説明書内でも明確に別物と記されています。恐竜モドキの名前は「アップ君」と言うのですが、本来の主人公は…

ひどい紹介。

わけのわからんキャラクター呼ばわりされた上に…

「ちゃんちゃん」じゃねえよ。

経緯がよく分からないまま「アップ君」に差し替えられてしまいます。MSX版の説明書を何度読んでも、交代劇の内幕が見えてきません。
ともかくも、「シュガー・ラッシュ」よりも先にMSX版では失業していたという事実に涙が止まりません。

さてこの「Qバート」、オリジナルは1982年、ゴットリーブ(Gottlieb)というメーカーから発売されたゲームです。
ゴットリーブというのは日本ではほとんど知られていませんが、ビデオゲームよりもピンボールの老舗メーカーとして有名です。
ビデオゲームはいま一つコレといった作品がないのですが、この「Qバート」は古くからアメリカで愛されている作品なのですよ。
しかし日本では前述のMSX版の他に「オセロマルチビジョン」「(初代)ゲームボーイ」、あとスーパーファミコンの「Qバート3」くらいしか移植例がありません。
MSX版以外は割と本家に忠実で、キャラクターもタコみたいなアレです。

「シュガー・ラッシュ」は、日本のゲームに対する深いリスペクトがあるのですが、その反動として作中のゲームセンターで長く生き残っているゲームは日本製、撤去されるものはアメリカ製になってしまっています。そのため、日本の観客に分かりにくい「Qバート」が妙に目立ってしまうという現象が起きているのでした。

さて、主人公のラルフが出てくる「FIX-IT FELIX JR.」。これは古くからゲームセンターで生き残り、栄枯盛衰を見つめてきたゲームとして描かれています。
映画の冒頭で「アステロイドもセンチピードもいなくなった」とラルフが言うのですが、激しく入れ替わるゲームの中で「パックマン」や「スペースインベーダー」は作中のゲームセンターに今も生き残っているんですね。「アステロイド」も「センチピード」も同じくらい有名な古典なのですが。容赦ありません。

そこで気になるのは、「FIX-IT FELIX JR.」は「どこの」ゲームなのか。
もちろん、実在しない、架空のゲームです。
画面を食い入るように見つめると、製造年とメーカーが分かります。
「TOBIKOMI CO.1982」。
筐体には「Tobikomi of America Inc.」ともあります(なぜか、Webサイトのゲーム画面では1983年になっていますが)。

「TOBIKOMI」。「飛び込み」というのは会社名としていささかヘンですが、日本のメーカーのゲームらしいんですね。ディズニー映画なのに…。
しかし、アメリカの会社だったら「オブ・アメリカ」がつくはずもありません。日本のメーカーと言い切ってよいでしょう。

さて、ここまではヨタ話。本題は次回と致しましょう。