都会の小学校の入学時に、ほとんど文字が読めないまま学校生活に飛び込んでしまった僕。クラスの中でそんなレアな存在は僕だけだった。
父さんは「大丈夫だ!」と、僕を励ましてくれたけど日本語ってやつは、ひらがな、カタカナ、漢字と三種類もあるではないか!!しかもローマ字も入れると四種類の文字をコンプリートしなくてはならない。
確かに校長先生が言ったように、スタート地点で僕は他のみんなと大きな差がついてしまっていた。格差社会の洗礼は始まっていたのだ。
僕はいっとき、父さんを恨んだ事もあった。父さんの自分よがりの教育方針のおかげで、あのあと僕は大変な思いをした。
教科書の音読の時もスラスラと文章をすべるように読める同級生を尻目に、僕はつっかえながら、まるで日本語を覚えたての外国人のような口調で読むもんだから、あちらこちらでクスクスと失笑する声が聞こえてきた。僕は耳たぶまで真っ赤になり『早くチャイム鳴ってくれ~』と、心の中で叫んでいた。
あの時のクラスのみんなに笑われた心の痛みはしばらく忘れる事はできないだろう。今でも思い出すたびに心がざわざわする。
あれから六年。僕は中学生になった。のんびりとしか空気が流れていない田舎町の中学校の入学式。入学式を終えて家に戻ってから、父さんは久しぶりに着たスーツを脱ぎながら僕に話し始めた。
「これから始まる中学生活の三年間は高校受験に向けて大切な時期だ、そして高校生になったら、これからの三年間は大学受験に向けて重要な期間だと大人は言うだろう。実は父さんは小さい頃から勉強ばかりして来てしまった。
小学校、中学校でテストはいつも満点。高校は地元の名門校と言われる進学校に進む事が出来た。先生や同級生たちも父さんを特別な目で見ていたのは分かっていた。そしてそれが当時の父さんの自慢だった。今日、カケルの入学式に出席して父さんは自分の学生生活を振り返ってみた。そして改めて実感した。父さんはカケルのように、友達と楽しく遊んだ思い出がない。」
小学校、中学校でテストはいつも満点。高校は地元の名門校と言われる進学校に進む事が出来た。先生や同級生たちも父さんを特別な目で見ていたのは分かっていた。そしてそれが当時の父さんの自慢だった。今日、カケルの入学式に出席して父さんは自分の学生生活を振り返ってみた。そして改めて実感した。父さんはカケルのように、友達と楽しく遊んだ思い出がない。」
そう言いながら、父さんは二人分のコップに水を汲んで、テーブルに置いた。そしてどすんと床に座り、それを一気にゴクゴクと飲み干し、父さんは苦笑いしながら語り始めた。
「カケルのおじいちゃん、つまり父さんの父親は、小学生になった父さんに言ったんだ。一流の高校、大学に入って一流の会社に勤めたら、好きなだけ遊んでいい。それが将来の父さんのためになるって。だから、今は苦しくても我慢しろってさ。
で、父さんも子供の頃は名の知れた一流企業に勤めていたおじいちゃんを凄い人だと思っていたし、スピード出世した自慢の父親だったから、おじいちゃんの言う事は全部正しいと思っていた。そういう家庭環境だった。しかも、父さんは勉強ができた。だから、おじいちゃんにとっても父さんは自慢の息子だった。でもな…」父さんは大きなため息をついた。
で、父さんも子供の頃は名の知れた一流企業に勤めていたおじいちゃんを凄い人だと思っていたし、スピード出世した自慢の父親だったから、おじいちゃんの言う事は全部正しいと思っていた。そういう家庭環境だった。しかも、父さんは勉強ができた。だから、おじいちゃんにとっても父さんは自慢の息子だった。でもな…」父さんは大きなため息をついた。
「でも、父さんが自分は他の生徒よりずっと勉強ができる優れた人間だと、うぬぼれていたのも高校生までさ。父さんは地元で偏差値の一番高い高校にトップ成績で合格した。その高校の制服を着て通学するだけでも優越感に浸ったもんだ。
高校でも成績はトップをキープしていた。先生たちにも一目置かれ、父さんの高校生活は充実したものだと思い込み、鼻高々だった。
そして当たり前のように大学受験を迎え、今度は全国の学生と勝負する事になった。当時の父さんは自信に満ちあふれていた。ところが、実際にふたを開けて見れば、日本全体での父さんの成績は、実は並みレベルだって思い知らされた。ほんと、打ちのめされたよ。高くなり過ぎたピノキオの鼻のように、いとも簡単に心は折れる時はあっさりポッキリ折れるもんだ。
その後、おじいちゃんが父さんに託していた夢、一流の大学に入って一流の会社で活躍する夢は、無残にも散り去ったってわけさ。」
高校でも成績はトップをキープしていた。先生たちにも一目置かれ、父さんの高校生活は充実したものだと思い込み、鼻高々だった。
そして当たり前のように大学受験を迎え、今度は全国の学生と勝負する事になった。当時の父さんは自信に満ちあふれていた。ところが、実際にふたを開けて見れば、日本全体での父さんの成績は、実は並みレベルだって思い知らされた。ほんと、打ちのめされたよ。高くなり過ぎたピノキオの鼻のように、いとも簡単に心は折れる時はあっさりポッキリ折れるもんだ。
その後、おじいちゃんが父さんに託していた夢、一流の大学に入って一流の会社で活躍する夢は、無残にも散り去ったってわけさ。」
「でも父さんは大学には現役で入って、ちゃんと卒業できたんでしょ?」
「まあな、一応現役で大学に入学はしたよ。そして卒業もした。ただ卒業は二年遅れでな。
父さんは浪人はしたくなかったから一流の格付けではない大学に入学して、都会に出た。とにかく家を出たかった。地元から離れて、父さんはおじいちゃんの呪縛から解放されたかった。一日も早く逃げだしたかった。ただその一心だった。」
父さんは浪人はしたくなかったから一流の格付けではない大学に入学して、都会に出た。とにかく家を出たかった。地元から離れて、父さんはおじいちゃんの呪縛から解放されたかった。一日も早く逃げだしたかった。ただその一心だった。」
「呪縛?おじいちゃんの期待じゃなくて?」
「そう。大学受験を経験して父さんは自分の限界を知った。そして、おじいちゃんの父さんに対する期待が父さんにとっては呪縛となり、父さんは苦しむことになった。だから、逃げた。
ようやく、本当の芯の自分に戻った気がした!それからの父さんはもう、はち切れた!!はち切れまくったさ!!全身全霊が解放された喜びを実感して震えたよ!
ようやく、本当の芯の自分に戻った気がした!それからの父さんはもう、はち切れた!!はち切れまくったさ!!全身全霊が解放された喜びを実感して震えたよ!
今まで遊べなかった分を取り戻そうと、むさぼるように遊びまくった。来る日も来る日も、毎日このあと何をして遊ぶか?が、父さんの人生のテーマだった。でもその結果が二年間の落第だ。おじいちゃんには怒鳴られ、口もきいてもらえなくなった。
その後、やっと卒業して就職できた。でも、一流とは言われない会社さ。しかも父さんはその会社に入るまで、何社も落ちた。みじめだったよ。
父さんは当時、不甲斐ない自分をあの会社が拾ってくれたように感じたよ。今でも感謝しかない。でも当時は、同期入社で高卒の、父さんよりずっと年下の社員もいた。やるせなかったなあ。」
その後、やっと卒業して就職できた。でも、一流とは言われない会社さ。しかも父さんはその会社に入るまで、何社も落ちた。みじめだったよ。
父さんは当時、不甲斐ない自分をあの会社が拾ってくれたように感じたよ。今でも感謝しかない。でも当時は、同期入社で高卒の、父さんよりずっと年下の社員もいた。やるせなかったなあ。」
「せっかく大学出たのに?高卒でも入れる会社だったの?」僕はなんとも失礼な発言をしていた。
「そうさ。そしてその高卒の同期の社員は、父さんよりずっと成績が良かったんだ。大卒の父さんが仕事では高卒の彼にはかなわない。悔しかったなあ。彼が良い成績を上げるのが苦しかった。
でも、その後気付いたよ。今のその仕事に学歴なんて関係ない。彼が素晴らしいんだってね。彼は自分の才能を発揮できる仕事に就くことができたんだ。父さんは、あの会社で輝く事はできなかった…父さんに営業って仕事は向いてなかった。人間には向き不向きがあるんだって事にようやく気付いたのさ。」
でも、その後気付いたよ。今のその仕事に学歴なんて関係ない。彼が素晴らしいんだってね。彼は自分の才能を発揮できる仕事に就くことができたんだ。父さんは、あの会社で輝く事はできなかった…父さんに営業って仕事は向いてなかった。人間には向き不向きがあるんだって事にようやく気付いたのさ。」
「持って生まれた才能って事?」
「そうだな。それを見つけ出す事が自分の天職を見つける、実は一番の早道なんじゃないかな?
勉強ばっかりしてて、人とのコミュニケーション能力が決して高いとは言えなかった父さんだ。はっきり言って、仕事はやってて楽しくなかった。学校でそういう事を、校長先生も教えてくれなかった。いや、校長先生にも分からなかったんじゃないかな?結局、父さんは学校で、ただ問題を解くのが得意だっただけなんだって気付いたよ。」
勉強ばっかりしてて、人とのコミュニケーション能力が決して高いとは言えなかった父さんだ。はっきり言って、仕事はやってて楽しくなかった。学校でそういう事を、校長先生も教えてくれなかった。いや、校長先生にも分からなかったんじゃないかな?結局、父さんは学校で、ただ問題を解くのが得意だっただけなんだって気付いたよ。」
そう言って父さんは窓の向こうの、ずっと遠くの空を眺めた。しばらくして、父さんは口を開いた。
「カケル、自分に役に立たないと思う勉強はしなくて良い。スマホがあれば、外国の言葉が分からなくても何とかなる。世界中を旅する事もできる。小難しい、自分にとって畑違いだと思うなら物理や古典も、カケルが面白いと思えなかったら、今は無理に覚えなくて良い。そんなのは学者を目指す奴らに任せておけば良いんだ。もしも興味が沸いたらその時に学べば良いさ。遅くはない。
面白いと思えないものを無理に覚えさせられる時間が苦痛だったら、自分が本当に夢中になれるものを探し出す事に時間を費やすんだ。先生たちには確実に怒られるだろうが…。
人生でその都度、必要な知識や情報に出くわしたら、スマホで検索すれば済む事だ。カケルにも必ず自分に合った仕事があるはずだ。これからの学生生活のカケルのミッションはそれを見つけ出す事だな。人間にとって本当に大事なのは、自分の人生を生き抜く事だ。これからは大きな視点で物事を見るんだぞ。」
面白いと思えないものを無理に覚えさせられる時間が苦痛だったら、自分が本当に夢中になれるものを探し出す事に時間を費やすんだ。先生たちには確実に怒られるだろうが…。
人生でその都度、必要な知識や情報に出くわしたら、スマホで検索すれば済む事だ。カケルにも必ず自分に合った仕事があるはずだ。これからの学生生活のカケルのミッションはそれを見つけ出す事だな。人間にとって本当に大事なのは、自分の人生を生き抜く事だ。これからは大きな視点で物事を見るんだぞ。」
正直、僕は学校の勉強というものが嫌いだ。分からない事はやっぱり分からないし、理解できない。どうしようもないんだ。
スマホ信者の僕の父さんは、この世で一番の僕の理解者だ。会社員としては輝けなかった自分の過去を僕に教えてくれた父さん。絶対に、他の家庭ではありえない親子の考え方かもしれない。でも僕は、父さんのその言葉に嘘はないと思った。
スマホ信者の僕の父さんは、この世で一番の僕の理解者だ。会社員としては輝けなかった自分の過去を僕に教えてくれた父さん。絶対に、他の家庭ではありえない親子の考え方かもしれない。でも僕は、父さんのその言葉に嘘はないと思った。
そんな父さんを僕は心から尊敬する。