【ワンダーソング(下)】



文化祭当日になっても泉の機嫌は直らなかった。
ここまでしても泉が聴いてくれなきゃ意味がない。
しつこいと思いながらも本番ギリギリに「絶対来て」とメールを送ると、「もう体育館にいる」と返信がきた。


「おまえ・・・ほんとに泉くんのためだけなんだな」
「よかったな、泉くん来てくれて」
「わ!お前ら人の携帯のぞき見すんなよ!!」
「俺らは女子に騒がれような!」
わいわい騒いでいると俺らの前のバンドがそろそろ終わりそうだと実行委員に呼ばれた。


いよいよステージの上に立つ。
泉のために何かをする時、たとえそれが自己満足でも俺は世界の主役になれる気がするんだ。


「バイトや部活もあって、1曲しかできないんだけど・・・どうしてもこの歌を聴いて欲しい人がいます」

歌う前にそう言うと、きゃあと女子から悲鳴のような声が上がった。
たった1人、この歌を聴いて欲しい人の姿を探す。
ステージ付近に集まった野球部の中ではなく、ステージから1番遠く離れた体育館の入口に泉はもたれかかっていた。

やっぱり来てくれてたことに嬉しくなる。

ね、泉。
俺泉がどこに居たって絶対見つけるよ。


「バンドの練習でなかなか会えなくなちゃって、そのせいで喧嘩しちゃったんだけど。俺の、大好きな、大切な人のために歌います」

無限に積った泉への思いをこの歌に全部のっけて叫ぶよ。

心から泉が好きなんだと。


*****


「浜田歌うんだろ!?ステージの近くで見てやろーぜ!!」
田島たちが駆け寄って行ったけど、俺は体育館の入口から動けなかった。
お前のために歌う、なんて言われてんのに顔見られたら恥ずかしすぎるだろ。

それなのに浜田は俺の姿を見付けて、馬鹿みたいに笑って、ずっと俺ばかり見てた。

かぁっと顔に熱が集中するのが分かる。
体育館が真っ暗で良かった。


1曲しか出来ないって、そりゃそうだろーよ。
バイトもあるのに野球部の練習手伝ったりしてっからだ。
女子に騒がれてーならバンドの練習してりゃよかったのに。

何やってんだよ。
何やってんだよ、バカ浜田。
お前、ほんとに俺だけのためにやったのかよ。
梶さんや梅さん巻き込んでまで?


もう、だめだ。
このままここに居たら溢れてしまう。
今まで必死に抑えてきた感情が、隠してきた想いが。


逃げ出すように体育館を飛び出すと、なぜか浜田が追いかけてきた。

「待って、泉!」
「やだよ!何で追いかけてくんだよ!?こっち来るなよ!!」

そんな風に走りながら考える。

もしかしたら、浜田も抑えきれなかったのかもしれない。
そんな想いを歌ったのかもしれない。
そう思うと恥ずかしくて、でもひどく嬉しかった。


何だよ、あの歌。
俺だって…
俺だって、浜田がそばにいれば寂しくなんかないよ。
野球できなくなっても、留年しても。
いつでも振り向けば浜田はいてくれるから。
そこで、バカみたいに笑っていてくれるから。


走るのをゆるめて、わざと捕まってやる。
後ろからぎゅうっと抱きしめられると、少し悔しい気もしたがもう限界だった。

「好きだ」

俺の溢れた想いはとても小さな声で、
でも、
ちゃんと浜田にだけ届けばいいと思った。


**********


まさかの三部作(笑)
長いうえにあんま萌えんかも…
ゆーし、CDありがとう!!

【ワンダーソング(中)】


いつだってしっかり、まっすぐに俺の目を見てくれる泉。
そんな泉に釣り合うように、俺も妥協なんてせずに流されずにしっかり自分を持ってたいって思ったんだ。


だからバイトもバンドも援団も頑張った。
野球部の練習の手伝いも。
俺がしたいと思って、俺が決めたことだから。

泉がそばに居てくれるなら、泉のためなら、無理なことだってやってのけるんだよ。


でもその結果、少し体調を崩して1日学校を休んでしまったんだけど・・・


これはマズイ。
ひじょーにマズイ。

泉は俺のことを実はすごく心配してくれている。
時々びっくりするくらい。
口には出さないけど、遠回しにもう留年させまいとしてくれてるのが分かる。
だから学校遅刻したり休んだりするなんて最悪だ。
・・・怒られるんだろうなー。

なんて思ってるとガチャリと鍵を回す音がして、バンッと乱暴に扉が開けられた。

確認なんてしなくても合鍵を持ってるのは泉だけだから100%泉なんだろうけど、とりあえず恐る恐る玄関を見ると想像よりもっと怒った泉が立っていた。


「泉、あの、ご、ごめん・・・」
「・・・・・そのごめんは何に対して?」
「いや、最近ハードで体調にまで気回ってなくて」
「お前バカじゃねえの!?バイトもバンドも援団も野球部の練習もって、そんなんで体調崩すの分かってんだろ!」
「でも、絶対やるって決めたから」
「あ、そう!」
「泉!絶対見に来てくれよ?泉が聴いてくれなきゃ意味ないんだから」

泉は眉間に皺を寄せ、口をへの字にぎゅっと結ぶとそのまま部屋を出て行ってしまった。
また乱暴に閉められる扉の音がする。

分かってる。
怒ってるだけじゃない。
心配してくれてんだよな。

俺には分かるよ。
意地っ張りな泉が心配してるって言えないのと同じ、
臆病な俺はそれを分かってるって言えないから。


こんな風に泉に心配かけて怒らせて、
二人で過ごす時間まで減らして、
本当にそうまでしてすることなのか分からなくなってきた。
でも、泉が好きだって、伝えたいって思う気持ちは本物なんだ。


「やんなくちゃ」
まだだるさが残る身体を起こしてギターを手に取った。



【ワンダーソング (上)】



「は?バンド?」
「そ!梶がドラムで梅がベース、俺がギターボーカル!文化祭出るから」


秋季大会が終わるとすぐに文化祭。
援団もしながら、いつ練習してたんだ・・・
つーか浜田ギター弾けたんだ。

「絶対見に来いよ!泉のために歌うから!!」
「キモイこと言ってんなよ」
「あ、ひでぇ!」


正直面白くない。
浜田はステージに立つんじゃなくて、ステージを見てる側がいいのに。
・・・俺の、隣で。

球技大会の時みたいにまた女子に騒がれてーのか、あのバカは。


俺の想いなんて知るはずもない浜田は梶さんと梅さんと楽しそうにバンドの話をしている。

あいつ、バイトもあるのに大丈夫なのか?
そんなんじゃ野球部の練習には顔出せねーじゃねぇか。

・・・くそっ、やっぱり面白くない。


*****



泉の機嫌が少し悪くなってしまったのは分かった。
でも、どうしても泉に聴いて欲しい歌があるんだ。

その歌を初めて聴いたのは6月、夏大の前。
俺と泉の歌だと思った。
そして、決めた。
文化祭で俺が歌って、泉に聴いてもらうって。
去年遊びでなんとなくバンドを組んでた(すぐに活動はしなくなったが)梶と梅に頼み込んだ。


泉の気持ちは分かってる。
泉も俺の気持ちを分かってる。

ちょっとばかし勇気が足りないからいつまでも悩んでいて前に進めない。

後悔なんかしたくない。
自分に素直になりたい。

そんな心の中のモヤモヤを梶は「直接言え」って言ったけど、伝える言葉が見当たらないことすらも伝えたい俺はこの歌とメロディに変えることしか思いつかなかった。
俺が歌うこの歌が泉の心に響き渡ることを願って。


なあ、泉。
泉が居れば、俺は寂しくないんだよ。

知ってほしいんだ。
本当は中学の時からずっと好きで、好きで、大好きで、たまんないんだってこと。
どんなに肘が痛くて怖かったマウンドの上も、後ろから聞こえる泉の声さえあれば平気だったってこと。
マウンドのちょうど後ろ、センターに居る泉が見たくて何度も振り返ってたこと。
もうマウンドに上れない俺の後ろに泉の姿はないのに、今もまだ振り返っちゃうってことを。