「私は、君を救う為に君にであったんだ。」

この20年間あのおじさんの言葉が忘れられないでいた。
月日はあっという間に流れて、気づけばあのおじさんと同じ年だ。

僕は、あれからゆみとつき合い続けて25歳の時結婚した。
おじさんとは、違い離婚という危険は僕には襲ってこないようだ。

サトシは、未成年にして人殺しのレッテルを貼られた。
一度、面会にいったがもちろん会ってもくれない。

風の噂で、あれから病院にずっといると聞いている。
あれだけ仲良くしていた彼が急にあんな風になってしまった理由が未だに分からない。

彼の両親は厳しかったが、体罰をしたりというのはなかったようだ。
犯罪者となってしまった友人は、僕に出会わなければ犯罪者にならなかったのだろうか?

「私は、君を救う為に君に出会ったんだ。」
あのおじさんのいうとおり、人間は何かしらの役割があるのだろうか?
ただその予感に気づく人と、気づかない人がいる。

僕は、何の為に生まれて来たんだろうか?
ふとそう考える事がある。
今、やっと大学の教授になれた僕は犯罪心理学を学生に教えている。
これも、唯一の友人が犯罪者になってしまったからだと思う。

人生は些細なきっかけで変わってしまう。
もし、サトシに出会う事なく、たった一人で日々を過ごしていたなら、もしかしたら僕が犯罪者になっていたかも知れない。
いや、もしかしたらこの世にいなかったかも知れない。

些細なきっかけが一人の人生を決めてしまうが、人生ははじめから決まったレールを進んでいるのかも知れない。

昨日、脅迫文が届き、私の最愛の娘が誘拐されている。
犯人は面識のない人だと決めつけていたが、今目の前にいる犯人を目にして僕は驚いた。

一週間前、たまたま大学のを出た時に車に飛び出そうとしていた彼を僕が救った。
どうやら、死ぬつもりだった彼が僕の娘を殺そうとしている。
理由は、「死ぬつもりだったが、あんたに救われたのは運命だ。俺が一生生きて行けるだけの金を用意しろ。」だった。

もし、あの時僕が助けなければこんな状況は起きなかった。
僕は今、初めてあのおじさんの言葉が理解できる。

「私は、君を救う為に君に出会ったんだ。」

きっと、彼を救うのは僕の使命なんだ。
しかし、彼に犯罪者というレッテルを貼られたまま生きてほしくなかった。
僕が救ったといえないからだ。

金をちらつかせて、気が緩んだ時に僕は彼に襲いかかった。
この日の為か、あれから僕は武術も習っていた。
もしもの為に。
難無く、彼の刃物をすり抜けた。
彼は自分が持った刃物が自分の腹に刺さった。

あたりが静まり返り、娘の声が響く。

「ありがとう。おじさん。あんたのおかげで天国に行ける。」

そういった彼は、しばらく苦しんだ後、永遠の眠りについた。
もちろん、僕の行為は正当防衛だった。
彼は、私のおかげで死ぬことを知っていたようだった。

私はこれから毎日、一つ一つの行動に怯えながら生きて行く事になるだろう。
些細な出会いが、今度は私の命を奪うかも知れないと怯えながら。
彼の話を聞いた私は驚いた。
最近の若いもんはそんなことで人を殺そうというのか!
と思わず叫んでしまいそうだった。

そして、時計を見るとすでに21時半になっていた。
「よし、おじさんがついていってあげよう。」
「いや。一人で行きます。」
「ないかあっては危ない。こっそり近くで知らない人の振りをしてベンチにでも座っているよ。」
「でも、初対面の知らない僕の為になんでそんなことまでしてくれるんですか。」
「それは、、、、。」

私は彼に今まで偶然出会っていた事を告げた。
しかし、映画館はどうやら違う子だったようだ。
なんせ年をとって目が悪くなったから、みんな一緒にみえてしまったんだろう。と笑って少年に伝えると、おじさん面白いですねと笑ってくれた。

やっと笑顔を取り戻した少年の約束の時間はもうすぐだった。
待ち合わせの場所は、偶然にもうちの近所だった。

最後まで、申し訳ないと言っていた彼は私に気を使いながら、
一緒に家を出た。

家のエレベーターを降りて、2分ぐらい歩いたところに待ち合わせの公園があった。
約束の時間まであと5分だった。

結構広い公園だが、いつも彼らが遊んでいた場所は奥のベンチだといった。
少し、広くなったスペースがあり、いつもそこでサッカーをしたりしていたそうだ。

そこに近づく前に私は、彼より少し離れて歩き出した。
まるでまた彼を追っかけているようだ。

今回は彼も了承済みだ。
もし、息子がいたらきっとこんな感じなんだろうと状況とは裏腹に私はうきうきしていた。
少しすると、奥のベンチに少年が座っているのが見えた。

しかし、暗かったせいか、それはまぎれもなく彼だった。
最近の子は、こんなに似ているものかと思ったがそれは違う。
きっとどちらかがまねをしているんだろう。
そう思わないと納得がいかないほど背格好が全く同じで、髪型、服装のセンスまで同じだった。

「サトシ。」
「稔。お前は本当に恵まれてるよ。」
「なにがだよ。」
「親が家にいないっていったって、金はあるし、頭もずば抜けていいし、顔もかっこいいし、実は女にかなり人気があるの知ってるか?」
「そんなの、知らないよ。」
「お前、なんで他に友達ができないか知ってるか?」
「そんなのわかんないよ。」
「俺はずーっとお前がうらやましかった。どれだけ勉強しても、お前には追いつかない。そんなお前と俺はいつも比較されてたの知らないだろう。」
「知らない。」
「それで、お前の悪口をみんなに教えてたんだ。全くのうそばっかりだけどな。」
「なんでそんな事を。」
「俺の屈辱が、お前にわかるか!!そして、俺の女神までお前は奪った。」
「それは、お前が紹介したからだろ。」
「黙れ!もし、お前がいなかったら、彼女はきっと俺のものだった。お前がいなければ。」

そういった彼のは懐から光るものを出した。
ボー然と彼らの話を聞いていた私は焦った。
彼が殺される。

そう思った時には体が動いていた。
振りかざした刃物と少年の間に間一髪入り込んだ。

驚くほどの激痛が背中に走った。
「おじさん!」
驚いたことに彼の友人は、私をのけて、彼を殺そうと襲いかかる。
残った力だけをたよりに、友人の少年にタックルを決めた。
昔やってた部活が今頃役に立ったなど暢気に考えている私がいた。
私のタックルに勢い良く転んだ少年は、自分の持っていた包丁で自分を傷つけていた。

「ぎゃー!いたい。いたい。」
のたうち回る友人の少年。
私は、彼に救急車を呼ぶように指示した。
震える手で119を押すのがやっとのようだった。
非常電話が3桁で良かったなどと考えるほど私には余裕があった。

というより、私の予感は当たっていたと感じたからだ。
私はきっと彼を助ける為に出会ったんだ。

一番始めに彼を救ったときだってそうだった。
きっと、私はこの瞬間彼を救う為に、今の人生を進んだんだ。
私は心から喜んでいた。
こんな素直な少年を救えた事に、喜びを感じていた。

誕生日に死んでしまうなんて、娘に会わす顔がないなと考えながら、遠くで少年の声がだんだん小さくなっていった。



「私は、これで死ぬんだ。」
お前なんか殺してやる。お前なんか殺してやる。
お前なんか殺してやる。お前なんか殺してやる。
お前なんか殺してやる。お前なんか殺してやる。
お前なんか殺してやる。お前なんか殺してやる。
お前なんか殺してやる。お前なんか殺してやる。
お前なんか殺してやる。お前なんか殺してやる。

そう、この文章が終わらないいくらカーソルを下にやっても途切れずに続いていたんだ。
そして、最後に。

裏切り者


まぎれもなく、送り主はサトシだった。
あれだけ仲がいいと思っていた友人だったのに、自分の恋がさも僕のせいで破局を迎えたとでもいいたかったのだろうか。
ゆみは、涙を流し僕に訴えた。
「今日、いかないほうがいいよ。稔、殺されちゃうよ。」
「いや、殺しはしないだろう。ただ感情がたかぶってるだけだよ。サトシも。サトシはそんなやつじゃないって。」

僕は自分に言い聞かせていた。

すでに太陽が沈み始めていたのに気づき、僕はゆみを送って行った。
それから、家に帰らずにあのうまかった定食やにいこうと足を動かした。

さっきまでは平気だったのに、とてつもない悲しみが押し寄せて来た。
あんなに昔から仲の良かった友人が、自分の好きだった相手とつき合い出しただけでこんなにも憎しみを持つものなのか。
僕には理解できなかった。
きっと僕が逆の立場だったら、なにもいわずにサトシの幸せを願っていたに違いない。
僕は、新学期からひとりぼっちだ。

もちろん、ゆみはいてくれる。
しかし、彼女の気持ちがかわり僕を入らないといわれたら僕はきっと生きて行けない。
そう思うと、今死んでもかわらないんじゃないかと思って来た。
殺意を抱いた友人に会い、もし本当に僕が殺されてしまったら、彼は僕のせいで人生が終わってしまう。
あんな事をいわれたのにも関わらず、僕はサトシの方が心配だった。

そうして、いつの間にか定食屋の近くにつき、先日運良く命を助けられた交差点に立っていた。
次の日、学校に行くとすぐにサトシのもとにいった。
彼は、平然とおはようと僕にいった。
そのお気楽な顔が我慢できずに、僕は握った拳を彼にぶつけていた。

クラスのみんなが驚いていた。
普段、静かな僕が殴ったんだ。
驚くに違いない。

サトシはようやく昨日彼女にしたことで、自分が責められていることん気づいた。

「俺は、昔から彼女が好きだったんだ。中学の塾のときからな。でも、彼女はお前に一目惚れした。彼女の幸せそうな顔を見ると協力しようって決めてたけど、いざお前のものになると許せなくって。」
言い訳をした彼がなさけなくなった。
「じゃ、なんでかおりちゃんとつき合ったりしたんだよ。かわいそうだろ!」
「かおりとつき合ったら、ゆみのこと忘れられるかなって思ったんだよ。でも、無理だった。」
「俺にゆみちゃんを勧めといて、なんでこんな事するんだよ。俺たち友達じゃなかったのかよ!」
「友達ってなんだよ。そりゃお前といるのは楽しかったけど。友達なんて、よくわかんねーよ。」

俺は、何も言えなかった。
クラスの全員に注目された俺は、何も言わずに鞄を持って教室を出た。
携帯のバイブがなっているのに気づき、鞄から取り出すとゆみから電話のようだった。

「稔くんどうしたの?」
「今日は帰るよ。明日からどうせ夏休みだし。」
「学校終わったら、うちにいっていい?」
「あぁ、もちろん。」

ゆみは僕にありがとうというと、電話をきった。
明日から、夏休みだった事に心から喜べた。
サトシの顔を見なくてもすむ。

その気持ちとは裏腹に、唯一の友達をなくしたむなしさが心に引っかかっていた。

お昼をすぎたころ、ゆみから連絡が来た。
今から家に来るとの事だった。

それから、4日間。僕はゆみとずっと一緒だった。
ゆみの親はちょうど2人で旅行に行っているそうだ。
そして、ゆみはかおりのうちに泊まるからといって旅行には着いて行かなかったらしい。
もともと、久々に両親二人で旅行に行かせたかったから、本当にかおりの家に泊まって、旅行に着いて行かないつもりだったらしい。
かおりは、快くアリバイを引き受けてくれた。

ゆみから聞いた話によると、サトシとかおりはどうやら別れたらしい。
ゆみの両親の帰ってくる日、お昼頃に携帯がなった。
もちろん、ゆみは隣にいるので違う。
その他、連絡がくるような友人はいない僕はは誰だろうと不思議にたった。

サトシだった。

出るのをためらったが、僕は腹をくくって電話にでると、

「稔、話がある。」
「話ってなんだよ。」
「いいから。今日の夜10:00にいつもの公園に来てくれ。」
「わかった。」

そういうとすぐにサトシは電話を切った。

その直後、恐ろしいメールが届き、僕とゆみは恐怖に包まれた。
どうやら彼女は、うちを出た後後ろから誰かが着いて来ている気がしたらしい。
僕が心配で送りに来たかと思い、僕の名前を呼んだそうだ。

するとそれは間違いなく僕じゃなかった。
僕は家にいたんだ。

彼女の後を追っていたのは、驚く事にサトシだった。
サトシは一人だったそうだ。
ゆみは、かおりはどうしたと聞くと、さっき送って行ったと言った。
その後、相談したい事があるといったサトシは公園に彼女を誘った。
ゆみは、かおりちゃんのことで相談だろうと考えた。

サトシは薄暗いベンチにゆみを座らせるとすぐ横に座った。
しばらく沈黙が続いた。

「相談ってなに?」
そう切り出したのはゆみだった。
「実は。おれ、かおりのこと好きじゃないんだ。」
「え?でも、サトシ君から告白したんじゃ。」
「君に近づく為にかおりに告白したんだ。」
「そんな。かおりがかわいそうよ。」
「俺もかおりのことを好きになろうと今日までは思っていた。でも、君と稔を二人っきりにして帰る時どうしても胸が苦しかった。平気を装って、稔にがんばれよっていったけどあれも本心からじゃなかった。」
「そんな。」
するとサトシは、ゆみを抱きしめた。
ゆみは必死で抵抗した。
しかし、女の力ではどうしても勝てない。
サトシは無理矢理彼女の唇を奪った。
ゆみは必死で、サトシに握られた手に力をいれ、伸びた爪でサトシの皮膚を押さえつけた。
苦痛に力が緩んだ瞬間、ゆみは必死で逃げた。
ただ振り返らず逃げた。

そして、無事家に帰り着き今にいたるとこのとだ。
彼女の両親は、僕の友人に怒りをあらわにしていた。
彼女が、僕のおかげで話をしてくれたことに感謝し、僕の株は上がったようだ。

ゆみは話した事で、どうやら少し落ち着きを取り戻した。
サトシは僕の友人ということもあり、警察にはいわないと両親は言ってくれた。
どうやら、僕のうちは有名らしく、彼女の両親はそれで初対面の僕にも好印象を持ってくれていたようだ。

両親のすすめで、夕食もごちそうになることにした。
久々のあたたかい手作りの食事に僕は幸せだった。しかし、その笑顔の裏側でたった一人しかいない友達をなくした事を悔やんだ。
あれだけ、昔から一緒にいた友達に裏切られるとは思ってもいなかった。

食事をごちそうになったあと、明日も学校の為すぐに帰る事にした。
食事を終えた頃には、ゆみも少し元気を取り戻しているようだった。
彼女の両親は、僕のうちの両親はあまり家にいない事を聞いていつでも夕食を食べにくるようにと優しく見送ってくれた。
これが家族というものなんだろう。
初めて触れた家族のあたたかさに、久々に両親に会いたくなった。