2017年7月11日午後、北アイルランドの街中を歩いていると、木材やタイヤなどを積み重ねた高さ5メートル程の塔が点々と作られているのを目の当たりにした。10歳ほどの子どもからビールを片手にした大人まで、日が沈み時が深まるにつれ10人、20人と様々な人が塔の周りに集まってくる。一体何が始まるのか。音楽がかけられ、人々は浮かれ模様だが、なぜだかパトロールをする警官の後も絶たない。筆者らが2時間ほど眺め続け帰ろうとしかけたその時、炎が塔にともされ、子供たちが炎の中に何かを運んでいる。それらはアイルランドの国旗だった。煙が延々と立つ中、計3つのアイルランド国旗と、等身大とみられる何者かの人物像が炎の中に投げ込まれ燃やされている。このしきたりは "Bonfires"と呼ばれ、イギリス本土に帰属意識を求めるキリスト教プロテスタント宗派の人々が毎年、1690年に起こったプロテスタントとカソリックの争い、「ボインの戦い」における勝利を祝福するものだ。Bonfire ではアイルランドの国旗やボインの戦いで敗戦したキリスト教カソリック宗派のKing Jamesの像が北アイルランドの20を超える様々な地域で燃やされることがしきたりとなっている。また、Bonfireが行われる後の7月12日、13日は毎年北アイルランドでは祝日と定められている。燃え上がる炎の付近を通る者同士で口論が始まる騒動も見受けられ、身の危険さえ感じられた。

 

北アイルランド紛争は1998年のベルファスト合意にて和平合意が成立し、20年がたった今、爆撃や暴動を見聞きすることはほぼないと言える。しかし、国旗を焼く人々の行動からは、悲劇的な歴史が継承され、宗教対立の痕跡が色濃く残っているように感じられた。

 

イギリスが持つ唯一の国境は北アイルランドとアイルランどの境である。日々3000人もの人がビジネス等の目的でボーダーを行き来していると言われている。EU離脱により宗派対立の火種が再燃されないことを心から願う。