あのコンサートに参加した怒涛の週末から、もう1週間経っちゃったんですねえ…。


生誕100周年でも、当然ながらご命日はやってきます。

今日2月8日は、伊福部昭大先生が旅立たれた日です。2006年ですから、もう8年になります。


あの日、大先生の訃報を聞いた時、「いずれ来るとは分かっていたけど、とうとうその日が来たか…」という感じでしたが、やはり頭の中が真っ白になって、全身から力が抜けてしまいました。
でも、涙は出ませんでした。前の年に父が亡くなった時もそうでした。"自分の人生の一部"が失われたことによる喪失感があまりにも大きくて、悲しいとかの感情を通り越してしまっていたのでしょう。


しばらくして、ある曲が頭の中でエンドレス再生を始め、それが一日中続きました。
それは、映画『コタンの口笛』のメイン・タイトルの曲です。
巨匠・成瀬巳喜男の1959年の作品。伊福部さんと成瀬監督のコラボはほとんどありませんでしたが、ご承知のように伊福部さんは少年時代にアイヌの人々と親しくしながら過ごし、音楽にも多大な影響を受けています。『シンフォニア・タプカーラ』などアイヌを題材にした作品もあります。そういったことからの、ごく自然な人選だったと言えます。


なぜ『コタン』が脳内再生されたのか、その日はまったく分かりませんがでした(そもそも、それを考える精神的余裕などありませんでしたから)。『ゴジラ』の音楽から好きになったのですから、一作目の『帝都の惨状』でも、『ゴジラVSデストロイア』でゴジラがメルトダウンする時のレクイエムでもおかしくなかったはずなのに、なぜか『コタン』だったのです。


私が中学生の頃、SF特撮もの以外の作品も網羅した伊福部さんの映画音楽作品集のレコードが発売されました。全10枚を買い揃えるのは、中学生には当然難しいことだったので、気になる作品が収録されているものから順に買っていきました。理由は忘れましたが、最初に買ったのは第9巻。その一曲目が『コタンの口笛』でした。つまり、私が初めて入手した、非特撮ものの伊福部音楽、と言える曲でもあります。でも、それでも合点がいかない。


翌日になって、ようやくあることに気がつきました。『コタン』のタイトル曲は、その3年前に伊福部さんが作曲した『アイヌの叙事詩に依る対話体牧歌』という歌曲の中の第2番の歌が基になっています。その曲の題名は『北の海に死ぬ鳥の歌』。


そのことを思い出した瞬間、ハッとしました。


その直後に一瞬連想したのが、『コタン』と同じ年に公開された映画『日本誕生』のラストシーンでした。政敵に謀殺された日本武尊(三船敏郎)の魂が白鳥に姿を変えて、尊の体から抜け出して上空に飛び立ちます。途端に近くの山が噴火して溶岩流と洪水が押し寄せ、尊を殺した軍勢を飲み込んでしまいます。白鳥は尊の故郷の上空に現れると、ゆかりの人たちに別れを告げるかのように飛び回った後、遥か上空へと飛び去ります。


それから、再び『コタン』の曲が脳内再生を始めました。今度は映像付きで。


伊福部さんの魂が白鳥に姿を変え、生まれ故郷の北海道にやってきます。先生が林野官の仕事をしながらたくさんの作品を生み出した厚岸の森、凍てつくオホーツクの海。それらの上空を飛び回った後、天国へ向かって飛び去る…。


自分でも意識しないうちに、こんな場面を脳内で作り上げていたのでしょう(タイトルとは微妙に違いますが…)。

その瞬間、ようやく、堰を切ったように涙が溢れ出てきました。


勝手に自分の中で作り上げた"映画"ですが、伊福部大先生にかなりのめり込んでいないとできない"選曲"だったと思います。