久々に書かせて頂きます。
前回(何ヶ月前だ?)取り上げた『ミクロの決死圏』や、クロサワの本のネタ『トラ・トラ・トラ!』のアメリカ側監督を務めたのが、ピークを過ぎた時代ののハリウッド映画を代表する“職人監督”のフライシャーです。
『ポパイ』や『ベティ・ブーブ』のシリーズを生んだアニメ作家のマックス・フライシャーを父親に持ち、映画監督デビューからしばらくは記録映画などを撮っていましたが、1954年に父親の商売仇だったディズニーの実写劇映画『海底二万哩』で長編映画デビュー。以後、犯罪アクション(『恐怖の土曜日』、『ラスト・ラン/殺しの一匹狼』)、史劇(『ヴァイキング』、『バラバ』)、ミュージカル(『ドリトル先生不思議な旅』)、戦争アクション(『ならず者部隊』)、時代冒険活劇(『王子と乞食』、『キング・オブ・デストロイヤー/コナンPart2』)、マフィアもの(『ザ・ファミリー』)、SF(『ソイレント・グリーン』)と、まさに職人監督と呼ばれるにふさわしい守備範囲の広さで活躍。しかし、それがかえって黒澤明の気に召さなかったらしく、『トラ・トラ・トラ!』のアメリカ側監督が、自分が希望していたフレッド・ジンネマン(おいおい…)ではなくて、記憶に新しい『ミクロ』を監督したフライシャーだと知るや、「ミクロ野郎!」と侮蔑して露骨に嫌がったとか。
しかし、フライシャーの作品で結構目立つのが実録もの。ヒッチコックの『ロープ』と同じネタによる実際の悪質な殺人事件を描いた『強迫 ロープ殺人事件』、ソダーバーグの30年以上前にチェ・ゲバラの半生を描いた『革命戦士ゲバラ!』など傑作が多く、さすがドキュメンタリー出身だと感心しますし、ドキュメンタリー的視点が必要だった、『トラ・トラ・トラ!』には必要だったかも知れません。
中でも、黒澤が、『トラ・トラ・トラ!』の製作に没頭していた時期に公開された傑作『絞殺魔』を観ていたら、彼のフライシャーに対する見方も大きく変わっていたでしょう。(つづく)