こんな夢を見た。

隣に座った婦人に話しかけられた。

「あなた、学生さん?」
私は、いえ、と言ふ。

「じゃあ、23歳?」
幼く見られたことにとても吃驚きつつ、もう30になります、社会人です、と。
「えっ!?じゃあ今日はお仕事がお休みで?」
ええ、まあ。---この時、私はただの貴族(ニイト)であったが、説明をする気力は無かったのでさらりと流す。

「私の孫と同じ歳よ。」
あ、そうなんですか~。
「ご結婚されてるんでしょう?」
いえいえ、していません。
「お子さんは?」
いませんよ。
「彼氏さんはいらっしゃるでしょう?」
恋人と呼べる人はいませんよ。

婦人は、私の返答のひとつひとつに大きく反応し、
質問を重ねてくる。
こういう時、適当にあしらえばいいものの、
全てに正直に応えてしまふ。

一通り話し終え、それぞれの世界に戻ったのだが、
何が気になったのか、再び質問を投げてきた。

「ごきょうだいは?」
姉と妹と弟がいます。
「4人!?すごいわ~。私は、たくさんきょうだいがいたの。」
へ~、すごいですね。
「もう……半分は死んでしまったけど、賑やかで良かったわ~」
そうなんですか~。

視線を逸らし、私はペンを走らせる。
初対面の方にこんなにも質問責めをされるのは、
アルバイトの面接ぐらいだと思ふ。
しばらく続いた質問に、無愛想と接客の中間のやうな、
あやふやな表情で応えていく。

漸く話が途切れ、書き物に集中していた頃、
婦人は立ち上がり、
「じゃ、お勉強頑張ってね。」と言って
去っていった。

私は緊張から一気に解放され、
それを切っ掛けに、書き物を終え、
読みかけの本を開いた。

その頁の書き出しはこうだ。

「こんな夢を見た。」