砂の中のマグダリア
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結婚式


静まりかえった会場の中に 凛とした張りのある司会者の声が響いた。


僕は今 この会場の真ん中に立ち スポットライトを浴びている。


娘、綾が私達宛ての手紙を読み始めた。


『お父さん・・・お母さん・・・。今まで育ててくれて・・・』 綾の声は涙でかすれていく。


(育ててくれてか・・・。)


本来なら娘の美しさに誇らしげになりながら 喜びと寂しさに包まれ 


父として最良の日であるはずのこの瞬間。


僕はただぼんやりと 昔のことを思い出していた。





「ね。学(まなぶ)。結婚式しよ。」 そう高くはない天井を見上げながら 久美は呟いた。


「えっ?結婚式?」 突然の言葉に僕は驚いた。


「そう。結婚式。」

「だってすぐに入籍は無理でしょう?だから先に式だけ済ませてしまうの。」

「そうすれば・・・何ていうかな。学の奥さんになったって気になるでしょう?」


「・・・そうか。結婚式か・・。それもありだな。」


「本当?本当にいいの?学君、本気で考えてくれる?」


僕は了解の笑みを久美に返した。



籍は入れられない・・・・僕は既に結婚しているから。

籍は入れられない・・・・僕の離婚が成立しないから。


久美 その代わりに君が望むこと全てを 僕は本気で叶えてあげたいと思っていたんだよ。



「どこにしよう?どこにしたい?」

「この歳でドレスって恥ずかしくない?」

「いつにするの?それまでにダイエットしなきゃ。」


久美は子犬のようにはしゃいでいた。

そして僕も 久美のドレス姿を想像しながら少しだけ幸せになれたんだ。


もう15年も前になるんだね。

僕は40歳。久美は42歳。

あの頃は二人ともすっかり歳だと思っていたけど

今思うと まだまだ若く 未来も少しだけ残されていたんだよね。




結局 久美のドレス姿は現実に見ることは出来なかった。


代わりに僕の目の前には 真っ白なドレスを纏った娘がいる・・・・。


それが現実だ。