鍵が閉まっているので、
私はインターホンを押す。
すると、兄がインターホン越しに
何かを言ってくる。
その内容は
「徳川家の将軍、全部言ってみろ」
だった。
それが言えなければ、
家には入れてもらえない。
そんなの、分かるはずがない。
私はまだ小学生。
でも、その頃兄は歴史にハマっていて、
普段からよく将軍の名前を口にしていた。
だから私は、
兄がいつも言っていた名前を思い出して、
インターホン越しに答えた。
でも、もちろん全部なんて言えるわけがない。
答えられなければ、
家には入れてもらえない。
だから私は
外で、ずっと待っていた。
家に入れてもらえるまで。
今、大人になって振り返ると、
「なんで私は、あんなことをされても
ずっと待っていたんだろう」
と思う。
あの頃は、それが怖いことなのか、
おかしなことなのかすら分からなかった。
ただ、
兄の言うことを聞かなければ、家に入れない。
それだけだった。
今思い返しても、
あの行為は謎で、
そして気持ち悪いくらいに怖い記憶として残っている。