Yann Frisch
Yann Frisch - Baltass
ヤン・フリッシュは前回FISMのクロースアップ部門のチャンピオンです。
彼の独特の演技はFISM前から話題となり、結果、FISMで優勝、その名は世界中に広がりました。
EMC2012にも参加し、そのルーティンのエッセンスを惜しげもなく語りました。
フランス出身で現在はパリに在住。
1990年生まれ、僕の2歳年上ですね(汗)
(同年FISMステージチャンピオンのユ・ホジンは僕と同い年)
彼は10歳の頃にジャグリングとマジックに興味を持ち、その後サーカススクールを幾つか転々とし、17歳の頃にこのFISMアクト“Baltass” の着想を得たようです。
フランスにはマジックにジャグリングを組み合わせる風潮がとくに目立ちます。
ステージで有名なノベール・フェレ / Norbert Ferreもステージアクトに上手くジャグリングを組み合わせています。
リンゴのアクトで有名なピロウ / Pilouもまたフランスです。
クロースアップではベベル/Bebel やジャン・ピエール・バラリノ / Jean-Pierre Varallino が有名ですね
フランスクロースアップはやはりモンキームーブ、トリッキーな印象が強いです。
最近の人ですが、マネーピュレーションというコインのDVDを出したローレンス・ゴードン / Lawrens Godonもフランスでジャグラー兼マジシャンです。
その激しいハンドリングはなるほどジャグリング的です。
ヤン・フリッシュも“Baltass” の各所でジャグリングを織り交ぜています。
彼の演技を見て、僕はかなりの衝撃を受けました。
演技スタイルはもちろん衝撃的で初めは受け入れるのに時間が掛かりましたが
慣れてしっかり見てみると、なんと合理的な演出だろうか、と膝を打ちました。
まず、彼の演技の特徴としては音楽を使わない事。
無音です。冒頭でお見せした映像でも分かるように観客のリアクションがよく聞こえます。
通常、演技を作る際、喋らない演技、いわゆるサイレントではそれにあったようなBGMを付けるものです。
ですが、彼は全くの無音。まさにサイレント。
彼の演技の特異性のひとつです。
次に、全体を通してピュアなスライハンドのみで構成されている、ということ。
現代コンテストにおいて、ギミックの存在は無視できません。
同年FISMのカード部門チャンプのヤン・ロッジマンの演技を見ればよくわかるでしょう。
(映像はありませんが、手元にある1枚のカードが何度も公明正大に変化、フリーなカードにも変えられる様です)
ですが、ヤンフリッシュは完全なピュアなスライハンド。
以前ブログにも書いたように彼は体術を持ってして核兵器に勝ったのです。
マジック界の範馬勇次郎です。
彼について話す時に無視出来ないのが演出。
決して「良い」とは思いませんが、「凄い」、そして「興味深い」。
狂ったような、手のおぼつかない、落ち着きの無い、冴えない格好、という演出。
とても異端です。こんなのみたことありません。
一般的にマジシャンはクールでキザに決めるモノです。
同年FISMステージチャンプのユ・ホジンとは対局のような演出です。
マジシャンがアクトを作る時、現象と演出をどうするかを考えるはずです。
僕の勝手なイメージですが、多くのマジシャンが
演じたい現象と見せたい技を決め、そこからそれに当てはめるように演出をつけていくコトが多いと思います。
もちろん、演出を考え、そこに現象と見せ技を当てはめていく方もいると思います。
どちらでも良いと思うのですが、それぞれがそれぞれを補助している形が理想だと思います。
どういうことかというと、
演じるマジックが持つ不合理や矛盾を演出によって合理的にして矛盾をなくす事が出来ていればそれは、素晴らしいアクトだと思うのです。
ヤンフリッシュのアクトではあるシークレットムーブを何度も何度も使うのですが、
あの演出のおかげで、普通なら不自然な体勢や動きも自然になり、違和感がなくなってます。
次に現象について。
一言で表せば「カップとボール」なのですが、いわゆる「被害者アクト」でボールに翻弄される演出です。
ボールも一般的に使われるような小さなものではなく、大きく弾力性のありそうなモノです。
現象面で感銘を受けた点は多いのですが特に、
「保留」の概念を上手く利用しているところに、感銘を受けました。
僕はマジックにおいて「保留」をいかに理解し利用するかを前々から考えていました。
カードマジックにおける保留とは「裏面」です。表面には52種類ありそれぞれに個性があるわけですが、裏面は52枚全て同じ。カードの裏にはいくつかの概念があります。
一つ目が「同一性」、すべて同じだから、区別が付かない。これはカードの大前提です。
そして2つ目が「保留」、一度表面を提示され、それを裏にすれば、そのカードの表面は見えていなくとも、そのカードが何なのか分かるわけです。
これはカードの裏表の特性で、カードマジックはこれらの特性を利用しているわけです。
コインマジックにおける基本的な保留とは「握るコト」つまり「見えないコト」です。
基本的な消失から、ワイルドコインのような複合現象まで、この見えない状態をいかに上手く利用するか、つまり見えない状態を観客にどう捉えさせるかが、重要です。
保留の概念についてはこの辺にして、
ヤンフリッシュはこの保留を上手く利用していると思います。
このアクトではカップが保留スポット。
被害者アクトととても相性の良い保留の使い方です。
そして保留スポットと現象スポットが同じなんです。
だから見ている方も置いてきぼりにされない。カップを見ていれば良いのです。
使ってる道具の少なさも魅力のひとつです。
また現象の構成について
後半に進むにつれて、より不思議に、現象は大きくなっているあたり
かなりの時間をかけてこの演技を作ったのだと分かります。
彼のコトを
Slydini + Chaplin x LSD = World Champion of Magic
とRudy Cobyが表しています。
お分かりでしょうが
World Champion of Magicはヤンフリッシュのコトで
LSDは薬物ですね、狂った演技を表しています。
この表現を見たときに、まさに!と思いました。
ヤンフリッシュはコインマジックももの凄く上手いんです。
Instantané #16 | Yann Frisch
愛好家の方ならこれを見てすぐにSlydiniが頭に浮かぶと思います。
このヤンフリッシュのアクトは現代において随分イレギュラータイプだと思います。
ですが、このタイプがどんどん増えて来ると思います。
一時期、韓国のクロースアッパーが全員バラリノかぶれだったように、
ヤンフリッシュに影響を受けたマジシャンが今後、たくさん出て来ると僕は予想します。
もしかしたら僕もその一人だったりしてね;)
