「そうですね~ お客さんくらいの歳で、目鼻立ちがハッキリした感じ、ハーフみたいな顔立ちでしたよ…」



ケンジに間違いなかった





新横浜から新幹線に乗った俺は新大阪まで自由席に座った
グリーン車だと目立ち、都合が悪い





電話がきたのが約一時間半前だが、ケンジはゲリラ野郎だ 待ち伏せしている可能性もある



それに先ほどから数人の目が俺を見つめる気配がある…

ケンジひとりじゃなさそうだ






大阪、堺市の港町に小さな定食屋がある。


二代目のオヤジをしているのは谷口と言う元不良で、刑務所で一緒だった


谷口には貸しがある

俺より先に出所した谷口から、出たら必ず会いに着てくれと手紙まで送ってくれてた


谷口は組織の人間につまらない事で狙われ、ビクついていた
俺と部屋も一緒だった谷口の相談に乗ってやって、話しを付けてやった




海に面してるせいか、木造の格子戸は黒く荒んで風でカタカタ音を立てる

夜遅くまで開いてるらしく、作業員風のおじさん達が静かに飲んでいる




谷口「いらっしゃい…あれ?ま、まさ?」








あるホテルの部屋にて…


プルル、プルル…



ケンジ「はい、そうか…谷口?… いや、まぁ待て、俺が良いと言うまで動くな、解ったな」

電話を切った

シャープな顔立ちでニヤリと歯を見せながら、ベッドで寝ている女の背中に語りかけた



ケンジ「あいつ寄り道してるよ、相変わらずマイペースだよな」


ベッドの女 「派手に殺しちゃったら…」

ケンジ「ちゃんと殺すよ! 心配しないでよぅ」



甘えたような口振りでケンジはシャワールームに入った…



ケンジだったと、俺に伝えると女は静かに目を閉じた       警察のサイレンが遠くから聞こえた

俺は本能的に、コートを羽織り下駄箱の下の敷き板を外し中に隠してあったサバイバルバッグを取って走った


繁華街は夕暮れに包まれ、家路に急ぐ人や買い物客で賑わっている


俺は通りの人混みに紛れてはいたが、俺だけが黒い夕焼けを浴びているようだった


その時携帯が鳴った


「まさ、生きてるのかぁ 相変わらず運のいいやつだな… これから大阪に行くんだ、解るだろ?待ってるわ」


ケンジは一方的に話して切った

メラメラと怒りと悲しみが込み上げてきた

タクシーを止め新横浜に向かう

ここからだと3、40分の所だ

その間ずっと黙って考えていた

何故こんな事になるのか、ケンジは一体どうしちまったのか そして女の最後…俺の為に殺された事


運転手が
お客さん、顔から血が出てますよ、病院に寄りますか?

とティッシュを差し出した


「先ほどのお客さんも服に血が付いてたなぁ…」


俺はハッとしてバックミラーの運転手を見た

「そいつはどんな奴ですか?」

刑務所を出た俺は堅気になり女と楽しく暮らしていた


ある日、昔世話になった先輩のケンジさんが娑婆に帰って来たと風の噂を聞き電話をした

すると横にいた女が急に喜び、先輩の事を語り出し、電話にも出た


共通の知り合いだと思った

先輩は電話で「いつか行くよ」 と電話を切った


先輩とは地元が同じで、同じ組織だったが 俺は組長の若い衆、先輩は若頭の若い衆で、抗争事件の時も一緒に地下に潜り、敵対組織の事務所にカチコミ、危ない所を助けてもらった

堅気になり普通の生活をし、やっと幸せになれそうな時、ふと思った 俺には
親も友達もいない。

女に話しても気にするなと言う

先輩に祝福してもらおうと思った


仕事から帰り、夕飯を食べていると電話がなった

「今から行くよ」
先輩からだ

チャイムが鳴り、女が玄関を開けた瞬間
パン!!パンパン!!
   女が倒れこみ、流れ弾が俺の頬をかすめた

玄関には誰もいない
走り去る靴音が聞こえ、俺は大声をあげながら走った

マンションの通路には誰もいない

女の呻き声で我に戻り、女を抱きかかえた
胸を三カ所撃たれた跡があり真っ赤に染まっている

「ケ、ケンジだった…」