わさびちゃん、寝る。

わさびちゃん、寝る。

趣味で落語演ったり・創作したりしてま。


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7/19

 町田市内の地域包括様にて寄席実施。

 

 演目は、季節はずれの 『初天神』、次いで真昼間から『親子酒』。

 

 所持しているきものが、袷(アワセ、と読む。冬物。裏地がしっかりついている。春や秋は裏地のついていない、「単衣」(ヒトエ、と読む)、夏場は紗や絽(わかりやすく言うとメッシュみたいな生地)を着るのがふつう)なので、クーラーがかかっててもがんがんに暑いし熱い。

 

 終演後、長じゅばんは汗でべべどどど、だし、きものの襟なんかにも汗が付着しちゃってる夏場の口演。

 

 浴衣、もしくは紗や絽のきものが欲しいのだけれど、まあ正直生活必需品じゃないので、なんだかんだで購入を先延ばしにしちゃってる現状。繰り返される諸行無常は繰り返し。

" KATAOMOI "

 

 平成元年、S県の片隅に生を享けた福田 A太は幼少期こそ小柄で愛くるしい男の子だったが、成長するにつれ、体格が大岩のようになり又花魁のように白かった艶肌も浅黒く成長。のみならず、鼻は天狗の様に掘り深く形成され、目つきもタカのように鋭い眼光、身の丈は190センチメートル程まで伸びた、この時、中学一年生の七月、である。

 その外貌とは正反対に、A太彼自身はいわゆる「文化系」に属する性質の持ち主であった。

 偏差値二十位と思われる、筋肉マンのような体育教師数名に体育系の部活に入部することを執拗に勧誘されたが、A太自身はスポーツに興味が無い為、厭厭入部させられたが、即日、練習を放棄、というか逐電。体育教師が彼の影を追ったが190センチメートルの彼は身長が高いだけでなく、走る速度は疾風の如くマッハ高速。陸上で鍛えた体育教師ですらその影に追いつくことができず生徒の笑い種となったのであった。

 そんな

 " 掃除機 "

 

 我が家の掃除機は何でも吸い込むむげんに無碍に。

 いつどこで買ったのか或いは貰ったのか、拾ったのか「まったく記憶にございません」と国会議員を真似て言ってみる。

 この狭いワンルームには自分しか存在していないので、もちろん、誰も応えて呉れない。沈黙が響く。耳鳴りがする。

 遠くで正午を告げるチャイムが鳴る。

 さて、と。

 と、掃除機の電源をオンし、スイッチを「弱」に合わせると同時にナイアガラの滝みたいな轟音が部屋中に響く、だけでなくマグニチュード3.0くらいの振動が部屋を揺さぶる。

 轟音やら振動を無視してフローリングやらカーペットに掃除機をかける。部屋の隅っこで体育座りしてる液晶テレビには、ワイドショーのコメンテイターが何か発言している映像が流れているが、肝心の内容は掃除機のせいで聞こえない。無音映画のようだ。

 がー。ごー。がー、がーがー。 

 目には見えないごみくずや髪の毛や陰毛、ホコリ等が掃除機という亜空間に吸い込まれて行く。

 以前から気になっていたのだけど、この掃除機にはスイッチが四段階ある、すなわち

 「弱」

 「中」

 「強」

 「史上最強」

 …「弱」でこの轟音と振動なのだから、「中」や「強」は想像を絶する轟音爆音大地震が生じることが容易に予想される。こわい。

 とそのとき、掃除機を握っていた親指が滑ってしまい、勢いスイッチを「史上最強」に動かしてしまった。

 と同時に爆音。

 ぼくの鼓膜は破れ、空間が裂け、体育座りの液晶テレビやら包丁やら洋服、テーブル、冷蔵庫などの全てが掃除機に吸い込まれ遂にはアパートごと吸い込まれてしまった。

 ぼくはというと、鼓膜は爆音にやられたものの、掃除機を握ったその手を放さなかったことが幸いしたのか、まだ吸い込まれていない。だけども掃除機は次の獲物を捜すかのよう、隣のコンビニ店やら近所の犬猫、老若男女、鉄道の路線や駅舎、自動車やバス、大型トラックなどを次々に飲み込む。

 通報を受けて駆けつけた警察官やパトカー、消防車、救急車、などもあっという間に吸い込まれてしまった。

 真上にぼんやり浮かんでた雲やらジャンボジェット機なんかも吸い込まれてしまった。

 掃除機の暴挙を制止したいのだけど、掃除機に掴まっているのが精一杯で何もできない。

 小一時間経つと、吸い込む対象がなくなったのか、

 「ぶおぉ~ん」 という気の抜けた音を出して急に動かなくなった。

 見渡す限りの荒野、静寂。快晴。

 荒野の中に、ぼくと掃除機。

時代/江戸時代

季節/お正月

みどころ/屁理屈が多い子どもと、憎めない親父の掛け合いに注目

 

~初天神~ (はつてんじん)

父「おっかぁ、ちょいと羽織出してくれ」
母「なんだろねぇこの人は、新しく羽織を拵えたもんだから、用もないのに羽織を着ちゃ、表に出たがってさぁ」

父「バカ言ってやがら。用もねぇのに表に出たがる奴があるかい。

 今日は天気もいいからよ、その羽織を羽織ってね、ちょいと天神様へお参りに行ってこようと思ってな」

母「あら、天神様? そういえば今日は初天神じゃないか。じゃぁさ、金坊も一緒に連れてってやっておくれよ」

父「金坊は勘弁してもらおうじゃねぇか」

母「勘弁してもらおうって、自分の子供じゃないか」

父「自分の子だから嫌なんだよぉ。あいつは表に出た途端、アレ買ってくれコレ買ってくれってよ。

だから早く羽織出してくれ。アイツが帰ってきちまう前に早く出かけるからよ。ほら早く……って、あら、帰ってきちゃったよ」

金「お父っあん、ただいまぁ」

父「鼻が利くねコイツぁ」

金「え、なぁに?」

父「いや、なんでもねぇ。それよりまだ日も高ぇじゃねえか、どっか行って遊んでこい」

金「どっか行って遊んで帰ってきたんだよぉ」

父「もっとどっか行って遊んでこい」

金「だって友達みんなウチに帰っちゃったもん」

父「友達がウチに帰ぇったら、お前も帰って遊べ」

金「だから、帰ってきたんじゃないかぁ。……あら、お父っあんどうしたの、羽織なんか着ちゃってぇ、どこかへお出かけ?」

父「おう、今日はこれから怖いおじさんたちの集まる所へ行って、仕事の打ち合わせだ」

金「あはは、嘘だよぉ。長い付き合いだものお父っあんの顔色見れば分かるよぉ。

あっ、分かった! 天神様に行くんでしょ、今日は初天神だもの。ねぇお父っあん、アタイも連れてっておくれよ、初天神。ねーったらー」

父「勘のいいガキだねどうも……。あぁ、そうだよ、これから初天神に行くんだ。でもオメェは連れてかねえよ。どうせまたアレ買ってくれコレ買ってくれって言うに決まってんだから」

金「そんな事言わないでさぁ、アレ買ってくれコレ買ってくれって言わないからさぁ、ねぇいいでしょ

父「ダメだ。ここで約束したって、一歩表に出りゃ必ず言うに決まってんだから」

金「ぜったい言わない、男と男の約束。だからさ、ねぇ、連れてっておくれよぉ」

父「聞いた風なこと言ってやがら。ダメだったらダメ!」

金「そんな事言わないでねぇぇ、連れてっておくれよぉ、ねぇ、おかっつぁんからも頼んでおくれよぉ」

母「ちょいとあんた、連れておやりよ。…やだよ置いてかれちゃ、家ん中でグズられちゃたまんないんだから」

金/母「ねぇ、連れてっておくれよ」「連れてっておやりよ」「連れてっておくれよ」「連れてってやんなよ」「ねぇ、連れてっておくれよ」「連れてっておやりよ」・・・

父「うるせえなぁ!分かった連れてくよ! いいか金坊、男と男の約束だ。表でアレ買ってくれコレ買ってくれと言ったら、ただじゃおかねえぞ」

母「そうだよ金坊、ちゃんとお父っあんの言うこと聞かないと、川ん中へ放っぽりこまれちまうよ」

父「ほら聞いたな、じゃあ行くぞ。いいか、また駄々こねやがったら、帯引っつかんで遠慮なく川ん中放っぽりこんじまうからな」

金「いいよ、アタイ泳げるもん」

父「泳げたってダメだ。川にはカッパがいて、お前ぇなんぞ頭からガブりと食われちまうんだから」

金「こないだ先生が言ってたよ。カッパってのは架空の生き物でホントはいないって。そんなのまだ信じてるなんてお父っあんはかわいいね~!」

父「ほんと可愛くないねお前は。ほら、ちゃんと引っ付いて歩け人が多いからよ。迷子になっちゃいけねえ」

金「お父っあん、人がいっぱいだね」

父「初天神だから当たり前ぇだ。お参り行く人と帰ぇる人の肩と肩がぶつかって、それでごった返ぇすのよ」

金「ねぇ、ねえお父っあん」

父「なんだ」

金「人もいっぱい出てるけど、お店もいっぱい出てるね」

父「おぉ、そうだな。今日は店がいっぱい出てるな」

金「ねぇお父っあん」

父「なんだ」

金「こんなに店が出てるのにさ、今日のアタイはアレ買ってくれコレ買ってくれって言わないでしょ」

父「おぉ、言われてみりゃぁ、今日はアレ買ってくれコレ買ってくれって言わねえな」

金「ねぇお父っあん、アタイ今日はいい子だよね」

父「そうだな。そうやってオメェがいい子にしてりゃぁ、お父っあん何時だってオメエを連れて歩いてやるんだけどな」

金「ねぇお父っあん、アタイいい子だよね」

父「そうだないい子だな」

金「だからさ、ご褒美に何か買っとくれよ」(目線)

父「…始まりやがったな。今日はそういう事言わねぇって約束で来たんだろ?」

金「うー、そんな事言わないでさ、ほら、あそこに団子が売ってるよ。ねぇ団子買っとくれよぉ、団子ぉ」

父「男と男の約束だって言ったなぁ、お前ぇだろ」

金「だからさ、男と男の約束で!アレ買ってくれコレ買ってくれって言わないんだからさぁ、ご褒美に団子一つ買っとくれよぉ。ねぇ一本だけ、ご褒美だから」

父「うるせぇなぁ! 買わねぇったら買わねえんだよ今日は!」

金「わかったよう、じゃあ「買う」って10回言ってみて」

父「買う・買う・買う・・・

金「団子買って?」

父「買わねえ」

金「うぅーー……、団子ぉぉ! 買っとくれよぉおお! だんごぉぉぉぉぉぉ!  だんごぉぉぉ!」

父「大声で泣くんじゃねぇよ! 言うならオレに言えよ、みんなこっち見て指差して笑ってるじゃねえか、みっともねぇ。分かったよ買ってやる。 おぅ、団子屋」

団子屋「へい、いらっしゃい」

父「何だってテメェ、こんなところに店出しやがったんだ」

団子屋「いつも出ておりますよ」

父「いつも出てるんなら、今日くらい休みゃいいじゃねぇか」

「まぁいいや、団子一本くれ。あん? アンコに決まってるじゃねえか、蜜はベタベタ汚れちまって家に帰ぇったらカカァに小言言われちまうだろ。コイツだけが言われんじゃないんだよ? 俺とコイツ並べて小言 言われるんだよ。だからアンコだアンコ」

金「蜜が良いぃぃいい!」(袖ではたく)

父「…蜜!(支払い)子供が食べるんだからね、蜜たっぷりオマケしてくれよ。ほら見ろ、あっちからこっちから垂れちゃって大変だ」 ずずずずずずっ。

父「ほらよ」

金「うあぁぁああん! 蜜みんな舐めちゃったあぁぁぁ!」

父「あぁうるせえな。泣くんじゃねえよちょっと待ってろ。なぁ団子屋」

団子屋「何でしょう?」

父「その壷には何が入ぇってるんだ? え、蜜? ホント? ちょっと蓋開けてみろ。あ、ホントだ、こいつぁありがてぇや」

ちゃっ・ぽん。

団子屋「あ、ちょいとお客さん困りますよ!」

父「ほれ、金坊」

金「へへへ、おとっつぁん、賢いねえ」 ずずずずず。

……ねぇおじちゃん、その壷には何が入ってるの?」

団子屋「なんだいこの親子は! ほらもう向こう行って!!」

父「ささ、早ぇとこ天神様にお参りに行かねぇと怒られっちまう」

金「天神様は神様だから、怒ったりしないよ。あ、お父っあん、凧が売ってるよ。ねぇ買っとくれよ」

父「団子買ってやったばかりじゃねえか。ダメだよ!」

金「うぁぁあああん! たこぉぉぉぉ! たこぉぉぉぉ!」

父「あぁもう分かった、分かったよ、こんちくしょう。俺は今日という日を一生忘れねぇからな。

どれにするんだ」

金「あの一番大きいのがいい」

父「ばか、あれは売りもんじゃなくて、凧屋の看板替わりなの。なぁ凧屋そうだろう?」

凧屋「いえ、売りますよ 」

父「売らねえって言えよ!」(支払い)

凧屋「そんな事言われても手前も商売ですから、飾ってるものは売りますよ」

(受け取り)

父「ほら、今度こそ天神様にお参りするぞ。何? 凧揚げたい? 何言ってんだ、こんな人ごみで凧揚げるバカがあるか。え、そこの空き地でやってる? あ、ホントだ凧揚げしてやがら…。

しょうがねえなぁ、今日はお前ぇに付き合うよ~」

父「よし、じゃぁこの凧を持って後ろに下がれ、もっともっと後ろ…よし止まれ。あ、そこは枝が出てるから、もっとそっちによって、違うそっちだよそっち!」

金「お父っあん、こっち? それともこっち?」

父「そっちだそっち! そうそう、そこでいい。お、風が吹いて来やがった。いいか、ひの、ふの、みで離すんだぞ。ひのふのみ! それ離せ!」

父「そーれ、風に乗ってどんどん揚がっていくぞ」
 「どうでぇ、おとっつぁん、上手いだろ」

金「わぁ、お父っあん上手いねー」

父「へへ、お父っあんガキの時分は凧揚げで負けた事はなかったんだ。そーれ」

金「ねぇ、お父っあん、アタイにも持たせて」

父「おう、ちょっと待て。ちゃんと揚がったら金坊にも持たせてやるからな、おっと、そーれ」

金「ねぇ、お父っあん、アタイにも持たせてってばぁ!」

父「うるせぇな! こういうものは子供が持つものじゃねえんだ、あっち行ってろ!」(怒)

金「ううぅ。こんな事なら、お父っあんなんか連れて来なきゃ良かった」

 

 

 

 

■あらすじ

江戸中期、寿司という食文化が流行し始める。

そんな中、とある事情で藩を解雇されたお侍が、

たまたま入ったすし屋で働くことになる。

不器用なお侍さんが店番をしていると、そこにひとりの客が来店。

なにひとつできない見習いお侍は、どう対応するのか―

 

■特徴

・小道具のひとつ 「扇子」 があんなモノに・・・(汗

・「本能寺」のくだり、気に入ってます

 

「 にぎり寿司 」 
親父 へい、らっしゃい! あー、あっち空いてるから、ささ、座って座って
A おやっさん、こっち、鯛まだ?
親父 へい、お待ちどさん! こいつぁ、うまいよ~!
B おい、こっちのカンパチまだかい?
親父 へいへい、カンパチだけに、間髪入れずに、ヘイお待ちどう!
C おう、イクラまだかい?
親父 へいへい、イクラでもどうぞってんだぁ
A おやっさん、さっきの鯛、何か味がヘン・・・
親父 「腐っても鯛」ってェんだから、平気・平気!! 気にしちゃいけねぇ・・・
 ――って、ああ、お客さんお勘定!
ナレ てな具合で毎日お祭り騒ぎ。そんなある日。客足が途絶えて、ひと段落ついたところへ一人のお侍さんが・・・
侍 失礼いたす。
親父 へい、らっしゃい!
 これはこれは、お侍さま。お一人で? はいはい、じゃあこちらにお掛けになってください。何にしましょう。
侍 うむ。 この店で、一番旨いのをひとつ、いただこうか
親父 へい。でしたら、今朝入ったカツオなんていかがでしょう。身が引き締まっててそれぁもう。
侍 では、それをひとついただこう。
親父 へい、ありがとうございます。
 あ。こちら「あがり」になりやす。熱いんで、お気をつけてお飲みください
侍 あがり?
親父 へい。すし屋では熱いお茶のことを「あがり」ってんです
侍 そうか。(アツッ!)(なかなか飲めない)(悪戦苦闘)
親父 お侍さん、熱いの苦手なんですか?
侍 ばかもの! 武士道に熱いも冷たいもあるか!(一気に飲む)
 ―――――ッ! ぬるいっ!
親父 へい、お待ちどさま。今朝揚げたてのカツオでさぁ! そこの「むらさき」にちょこっと付けて
 一口でお召し上がりくだせぇ。 むらさきってぇのは、しょうゆ、のことでさぁ
侍 うむ。(ぱくり)もぐもぐもぐ。。
 う、うまい! このような旨いモノは、生まれて初めて食した。
 感動のあまり、不覚ながら目頭が熱くなってまいった・・・
親父 あっ・・・。お侍さん、申し訳ねぇ、わさび苦手でしたか?
侍 うっ・・・ うううう。(嗚咽
親父 あれま、そんなにわさびが効いてましたかい? すいやせんねぇ。
侍 うっ・・・ うううう。(嗚咽
親父 大丈夫ですか? なんか様子がおかしいですが、なにかツライことでもあったんですかい?
 ちょうど他のお客様もいないことですし、あっしで良けりゃあ、お話聞きますよ
侍 ・・・拙者、名を 「 紀藤 太之助 」 と申します。
 武州は忍藩 松平 忠国様に仕えておったが、いろいろあって今や牢人同然でござる。
 不器用ゆえに職も、妻もござらん。 サムライとしての死に場所を探して歩くうちに、気がついたら
 空腹でございました。 人間とは不思議なもので、死を覚悟しても腹は減るものらしいですな。
 最期にこんな美味しいモノにめぐり合えたことに感謝いたす。 もう未練はござらん。では、さらば!(切腹
親父 ちょっ、お侍さま! ここで切腹されてもこっちが困ります!
 人間のハラワタなんか売れやしないんですから! ・・・確かに今はつらいかもしれませんが、人間
 死ぬ気になれば何だってできるんです、あっしだって、元々は職人でしたが必死に
 修行を積んで、どうにかこうにかすし屋の大将やってんですから!
侍 左様か。これは失礼した。つまらぬ話を面目ない。 では、これにて失敬。(切腹
親父 ちょ、ちょっと。お待ちなさい! こんな話を聞かされたら、夜も眠れませんよ。
 ・・・実はちょうど昨日、若いのが一人辞めちまって、人手を探してたところなんでさぁ、
 いやいや、本当です本当です。
 大したゼニはあげられませんが、食いモンと寝床はあるし・・・
 そ、そりゃあ、修行は厳しいですけどね、お侍さんのお稽古よりは楽だと思いますよ?
 これも何かの縁だと思って、死ぬ気になって、ウチで働きませんか?
侍 か、かたじけないっ。ありがとうござる! 殿と呼ばせてください~! ―ッてんで、早速修行が始まります。
親父 まずは見た目が大切だからな、この手ぬぐいでもって、ねじり鉢巻をするんだ。
 こうねじって、こう巻いて、こうしばる。
侍 はっ! こうねじって、こう巻いて、こうしばる。(タテ向き)
親父 違うよバカヤロウ! どう見たって間違ってンじゃねぇか! こう、額に巻くの! ヨコ!
侍 はっ! ヨコにして・・・(くちに)
親父 バカヤロウ! それじゃあ、猿ぐつわじゃねぇか! もっと上! おまえ、ふざけてんのか?
侍 ( ふぃふぁふぇふぇふぁふぇん )
親父 もっと上で巻けっての! 上!
侍 はっ! (目に)
親父 おま、ワザとやってんだろう。
侍 真面目に取り組んでおります。 集中しすぎて、周囲が見えません。
親父 そりゃそうだ! もそっと上、そうそこでいいの!
 はぁ~、おまえさん、不器用過ぎないかい? こんなんで にぎれるかねえ・・・
侍 自分、不器用ですから。
親父 自慢してんじゃないよ。 じゃあ、次、次は・・・ オレがにぎるから、それを見て盗むんだ。
 いちいち細かいことは教えないから、盗んで学べよ。
侍 はっ! ( 盗む動作 )
親父 そういう盗む、じゃあねぇんだよ、オレがにぎったりする「技術」や「しぐさを」目で見て覚えるの!
侍 何も、見えません。( 鉢巻を目に )
親父 おま! 都合が悪くなったらそれかよ! まったくしょうがねぇな・・・。
 まず、手を水で濡らして。 あっ。。水がなくなっちまった。
侍 拙者が汲みに行って参ります。
親父 いいよ! どうせこの様子じゃ、途中で転んで水がめ割っちゃうんだから。 オレが行ってくる。
 すぐ帰るから、もしお客様がいらしたら 「すぐ戻りますので、少々お待ちください」とこう言うんだ。
 わかったな、お客様を返すんじゃないよ! (水がめをかつぐ)よっこいしょ。じゃ、留守番たのんだよ
侍 はっ! 拙者、命に代えても守ります。
熊 こんちは! 大将いるかい?
侍 いらっしゃいませ。
熊 わ! びっくりしたぁ、なんだ、大将どっか行っちまったのかい?
侍 「すぐ戻りますので、少々お待ちください」
熊 お使いかなんか行ってんのかい。 しょうがねぇなあ、じゃあいいや。。
 また今度来るから、大将によろしく伝えといてくんな! 職人の熊って言えばわかるからよ!
侍 「すぐ戻りますので、少々お待ちください。すぐ戻りますので、少々お待ちください。すぐ戻りますので少々・・・
熊 なんだこいつ、気持ち悪いなあ。とにかく、今日のトコは帰るから、じゃ!
侍 殿のご命令は命に代えても守ります。 どうしても帰るというなら、ここで介錯願おう!
熊 わわわわわ! なんだ刀なんか出しやがって!! こわ!
 わかったよ、帰らねえから、とりあえずその物騒なモンしまってくれ!
侍 「すぐ戻りますので、少々お待ちください。すぐ戻りますので、少々お待ちください
熊 ―って、戻らねぇじゃねえかよ! こちとら一日働いて、ハラぁ減ってんだ! 何かにぎってくれよ
侍 はっ! 承知いたしました。 ( べちゃべちゃべちゃ )
熊 おま! なにやってんだよ、手がわさびまみれじゃねえか! なに? まだにぎったことがねぇ?
 しょうがねぇなあ…。もうにぎり寿司じゃなくていいよ。
 ええと、「ちらし寿司」と「いなり寿司」、それに「太巻き」たのむよ!
侍 はっ! 承知いたしました。
 ・・・あのぅ、実は先ほどから尿意をもよおしておりまして、ちょっと厠へ行ってもよろしいでしょうか
熊 ホントしょうがねえなあ、わかったから、早く行ってこいってんだ!! (あっち行ってのしぐさ)
 …まったく、早えとこ、大将帰って来ねぇかなぁ。 それにしてもなんだあの新米は・・・
侍 ぎゃあああああああああああっ!!!
熊 わっ! びっくりしたあ! なんだ、新米、どうしたってんだ?!
侍 せせせせせせ、拙者のイチモツが、燃えております!
熊 わーっ! 汚ねぇモンを見せるんじゃあないよ! おま、わさびが付いたままの手で厠行ったン?
侍 熊殿、お助けくだされ! 拙者のイチモツが「本能寺の変」でございます!
熊 なにワケのわかんねぇ こと叫んでんだ! 待ってろ! 今、水をぶっかけてやっからな! 待ってろよ!
侍 本能寺で待ってる・本能寺で待ってる・本能寺で待ってる
 本能寺でずっとずっとずっとずっとずっとずっと待ってる!
熊 あ、コレ、水かな? ほら! そいつをこっちへ向けろ! ざばーーーーっ!
侍 ぎゃあああああああああああっ!!!
熊 どうしたい? わっ、このニオイは、こりゃあ酢だ! ちょっと待ってろ、何か探すから・・・
 コレはどうだ! のり!! この「のり」を包帯みたいに巻いとけ!
侍 (ぐるぐる巻く) んんんーーーっ!!
親父 (戻り)ただいまー。遅くなってすまねえなあ、水屋が混んでてな。(水がめを置く)よいっしょっと。
 ・・・ ―って、こりゃあどした? あッ!熊さんじゃねえか?
熊 大将! ワケは後で話すから、ちょいとそれ貸しとくれ!
 ほら、新米、イチモツをこっちに向けろ! それッ! バシャーーンン! あ、大将、すまねえ、色々あって。
親父 おい、太之助!! おま、これは一体全体、なんだ!? 説明してもらおうじゃねぇか!
侍 はっ! 殿がお出かけになられてすぐ、こちらのお客様がご来店され、空腹のご様子だったゆえ、
 拙者が何か作ろうと思い・・・
親父 何か作る? 何を寝ぼけたこと言ってやがるンでい。 それで、できたのか?
侍 はっ! まずは店内をごらんください。「ちらかし寿司」
親父 ばかやろう! 店を散らかし放題に散らかして、何が「ちらかし寿司」だ!! ほかは?
侍 はっ! つぎに拙者のこの・・・「いなり寿司」
親父 汚ねえモン見せんじゃねえよ! すし屋をバカにしてんのか! ほかは?
侍 はっ! 最後に・・・「太巻き」 (扇子をイチモツに見立てて)
親父 太巻きィ? (よく見て)・・・これじゃあ「細巻き」じゃねえかバカヤロウ。   (終)