Dont' stop - 2
今思えば、この日がミニョを失うことになる
切っ掛けだったのかもしれない。
その日は朝からイライラしていた。
出会って1年記念日以来、すでに1週間。
タイミングがあわず、
1日に1~2通のメール以外、連絡すらとれていない。
なぜなんだ?
何度言ってもミニョは、
1日に1~2通のメールしか送ってこない。
お前は寂しいとか思わないのか?
ミニョの考えがまったく理解できなかった。
メールなら時間も
気にしなくてもいいはずだろう?
スタジオを出る前、携帯を確認してみたが、
着信やメールを知らせる表示はなく、
また、イライラが募る。
俺から送るか………?
いや、俺ばかりが返事をまっている
みたいに思われるのは癪だ。
移動車の中、マンネ2人の話し声にイラつき、
もう少しで『黙れ』と怒鳴る寸前、
隣に座っているシヌの声に、
閉じていた瞼を持ち上げた。
「今通り越した子ミニョじゃない?」
その言葉に、マ室長が車を道路脇に停車させた。
こんな辺鄙な所にミニョが?
スタジオやオフィスが多いこの地域。
ミニョの自宅や職場からも遠く離れている。
いるわけがないと思いながらも、
顔が見れるかもしれないという淡い期待に、
イラだちがスーッと引くのが、
自分でも不思議だった。
そうなると不思議なもので、
さっきまでいらいらとしていた原因の2人。
バックミラー越しに見える、
ジェルミとミナムが、
シヌの指差す方向に
シヌの指差す方向に
必死で身を乗り出して探す様子………。
………お前ら。
飼い主をみつけて喜ぶ犬か?
見えないはずの尻尾が見えるぞ………。
一瞬笑いがこみ上げたのを、かみ殺した。
「あ、ほんとだ。ミニョだな」
すかさずポケットから
スマホを取り出したミナムに、
一瞬俺がかけると言いそうに
なった言葉を、また飲み込む。
しょうがない。こいつはこれでも、
兄貴だ………。
わざわざシヌを乗り越えてまで、
ミニョを確認するわけにもいかず、
無関心なふりをしてみるも、
口元が緩むのが自分でも判る。
こんな所で偶然に会えるとはな。
ミニョを愛してから、気づいたことがある。
今までは自分中心に物事を
とらえているなんて思ってもいなかった。
だが………。
今や俺の中心にはミニョがいて、
ミニョがどう思うだろうか?
ミニョならこうするだろうか?
思考までもミニョに占有されていき、
ミニョが何を考えているか
わからない時は不安に襲われる。
俺は今でも100点なんだろうか?
ミニョの態度を見れば、愛されていると判るのに、
こうやって仕事が忙しくて数日会えなくなると、
一気に自信がなくなり、イライラとしてしまう。
あの空港に迎えに行った日。
俺がどれだけ嬉しかったかなんて、
一生ミニョには教えてやるつもりはない。
『誰よりも』
誰よりも俺のことを好きだといったミニョ。
ミニョの全てを守ると誓った。
なのになぜなんだ?
何度2人で部屋を借りようと言っても、
何度合宿所に引っ越して来いといっても、
決して首をたてに振らないのは、
本当は俺と一緒にいるのが嫌なんだろうか?
ミニョが隣にいない夜は、すごく長い。
俺が帰る場所はあいつの隣じゃないのか?
そんなことを考えている自分に気づいて、
思わず苦く笑ってしまう日々。
心を覆っていた物が、
丸裸にされて……。
弱くなった。
いや、強がっていただけだったのを、
思い知った。
周囲の人間は、俺がよく笑うようになったというが、
もしそうなら、確実にあいつのせいだ。
あいつのことを考えているときは気分がいい。
「あーミニョ?ミナムだけど。
今さ、ミニョを移動車で追い越したんだけど。
うんうん。100mぐらい追い越しちゃったと思うんだ。
そのまままっすぐ、ちょっとだけ来てよ。待ってる」
もうすぐ笑顔で現われるであろうミニョを思うと、
それだけで浮ついた気持ちになるが、
マンネたちの手前、取り繕うように腕を組み、
静かに目を閉じた
「ねぇミナム。
ミニョ、誰かと一緒じゃない?」
「ほんとだ。誰だろう」
完全に座席に乗りあがり、リアガラス越しに
ミニョをみていたマンネたちの言葉に、
シヌまでも振り返ったのが、気配でわかる。
「ほんとだな。ミナム知ってる人?」
「いや、知らない。
ミニョも男の知り合いなんていたんだな」
その言葉に、反射的に振り向いていた。
もうすぐそこまで来ているミニョの横には、
スーツ姿の男がいて、笑いあっている。
…誰だ?
思わずブルッと身震いが起きる。
すぐに車のドアをノックする音が響き、
シヌがスライドドアを開けると、
望んでいたはずの笑顔と、
見たこともない男がこっちを見ていた。
