商事法務NO.1995に、シンポジウム「コミットメントと企業:日本企業改革の方向」の記録が掲載されています。オックスフォード大学のコリン・メイヤー教授の講演と、パネルディスカッションです。


日本企業の株主には、純粋な株式投資家以外に、銀行など債権者、取引先、従業員(持ち株会)などの各種のステークホルダーがいる。こうした株主は、純粋な投資家でなく、純粋な株式投資の利益だけでなく、いや、むしろそれ以上に、債権保護、取引の継続、雇用の継続などを重視する。

こうした株主が多数を占める企業の経営者は、企業として本来目指すべき成長のために取るべきリスクがあるところ、こうしたリスクを過度に嫌い、保守的な経営になる。


一方、欧米の企業はと言うと、純粋な株式投資家・投機家が株主となっている。こうした株主は、株式投資のリターンの最大化を望む。株主のリスクは出資に限定される有限責任。経営者に圧力をかけ、レバレッジをかけ、株式リターンの最大化を要求。それに応じて、企業が過度なリスクを取ると、リスクは債権者・取引先・従業員に移転する。

自分のリスクは限定、債権者にリスクを押しつけ、短期的なリターンの最大化を要求する、株主。


こういう対比で、日本企業と欧米企業は正反対の問題を抱える。

日本企業は、企業の責任、社会に対してフェアなリターンを提供するために、必要なリスクは取らねばならない。現在は保守的過ぎる。

欧米企業は、株主のために過度なリスクを取り過ぎる。

これは納得感のある整理です。リスクをとって成長し、社会に貢献する商品・サービスを提供し、雇用を維持拡大、税金もたくさん納める日本企業もあります。しかし、このくらいでいい、無理しなくていい、という感じの、保守的、既得権益維持の会社もたくさんあると思います。


株主のため(だけ)でなく、社会への利益の提供(よい商品サービス、雇用、納税、株主へのリターンも一つとして含まれる)のため、取るべきリスクは取って、がんばる。そういう企業経営者は、目立つくらいの報酬インセンティブが付与されていいのだろうと思います。


今日は、たまたま、株式懇話会の講演会で、著名な久保利弁護士のお話を聞きましたが、その中でも、純粋投資家株主の過度なリスク選好、リスクの移転などのお話があり、商事法務と合わせて考えて、なるほど、そういうことか、と自分の頭の中では整理された感じがしています。