ロンドン証券取引所の新興企業向けの株式市場であるAIMが最近話題になっています。今年、英国系のKBC証券がAIMに関するセミナーを開催し、それと前後して「緩やかな上場基準の新興企業向け市場。プロだけが参加するので過剰な投資家保護の規制がなく、調達額も大きい。」。というトーンの記事が新聞等に出た結果、俄然関心を集めているようです。最近、このKBC証券さんのお話を聞く機会がありました。
AIMへの上場プロセスでは主幹事証券会社(ノマドと呼ばれる)が大きな役割を果たすそうです。認められた証券会社は約80社あるそうです。このノマドは上場希望の会社を評価し上場に値すると認めた場合に、その企業の主幹事となる契約をして上場に向けて指導と審査をするそうです。そして上場申請の体制ができた時点で、このノマドが本格的な審査を行い、認めれば上場となるそうです。AIM取引所自体の審査はほとんどないそうです。
審査する上で重要な項目は
・ 中期的な成長戦略。ここには資金調達とそれの投資計画など財務戦略も含まれます。
・ 海外市場へ上場する目的、必然性。全くドメスティックにビジネスを展開している場合には、この説明が難しそうです。
・ 適切な開示をタイムリーかつ継続的に行う体制の確立。当然英語での資料作成が必要ですし、英語でのプレゼンテーション能力も必須に近いものと思われます。
・ またノマドの審査にあたっては、日本でいうところのⅡの部に近い内容の資料も作成するそうです。
こうしたお話を聞くと、AIMへの上場も決して楽なものではなさそうです。上場申請にあたっては規模の大小に関わらず、最低限の英文書類の作成コスト、リーガルコスト、監査コストはかかります。また上場後の対応も小規模な企業にとっては金銭・人間的なコスト負担はかなりのものであろうと思われます。現在、日本企業でのAIM上場例はセキュアデザイン㈱のみです。今後もまったくの新興企業が続々と上場するとは思われません。
むしろAIMを検討する価値がありそうなのは、既に国内で上場しており、ある程度の企業規模・体力があり、海外でのビジネスの比重が高く、外国人社員も多数在籍していて、公用語は英語、いずれ本社を海外に移そうかなどと考えている企業にとって良いのではないかと思います。
ちょうどシティバンクが日興コーディアルグループを三角合併で完全子会社化するにあたり、日本の株主にシティ株を日本で取引できる環境を提供するため、シティが東京証券取引所に上場するという報道がありました。逆のケースで日本企業が欧州企業を三角合併で完全子会社化しようとするならば、AIMに上場してこの株式を対価とするという選択もありそうです。AIMはプロ向け市場と言われています。ただし、これは公募増資がプロ向けに行われるということで、市場での売買には個人投資家も参加できるそうです。
いずれにせよKBC証券さんのみならず、他にもAIM上場のコンサルティングを始めている企業もあるようですので、ユニークな経営戦略を持つプチ・グローバル企業のAIM上場の事例は今後も期待できそうです。