プロレスライター新井宏の「映画とプロレスPARTⅡ」

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週刊プロレスモバイル連載「週モバロードショー~映画とプロレス~」延長戦!

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「マッドマックス 怒りのデス・ロード」でのネイサン・ジョーンズ

Photo courtesy of Mr. Nathan Jones

 

「マッドマックス」シリーズの前3部作は、1作目『マッドマックス』(79年)から3作目『マッドマックス/サンダードーム』(85年)まで、実はまったく異なるタイプの映画である。

30年ぶりに新起動なった『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15年)は『マッドマックス2』(81年)の世界観を引き継いでおり、『怒りのデス・ロード』に始まる新シリーズは、『2』の直系であると言っていい。

そして今度の新作『マッドマックス:フュリオサ』(24年)では、『怒りのデス・ロード』の事実上の主役であるフュリオサの前日譚が描かれており、『怒りのデス・ロード』では明らかにされていなかった彼女の生い立ちが詳細に描かれる。

そもそも『怒りのデス・ロード』では舞台設定などどうでもいいくらいの世界観で見る者を圧倒。有無を言わせぬ、この世のものとは思えぬパワーがあった。とはいえ、もともとキャラクター設定は最初からキチンとあったそうで、そこをあらためて見せようとしたのが『フュリオサ』とのこと。よって、結果的には『怒りのデス・ロード』の“解説書”のような映画になっていたのではないか。

となれば、イモータン・ジョーに仕えるほかの悪役たちの前日譚も自動的に描かれるわけで、そこで現れるのが、元プロレスラーのネイサン・ジョーンズ演じるリクタスである。

リクタスはジョーの息子かつ、側近。『怒りのデス・ロード』ではジョーが子を産ませる女たちの母乳を飲むアホくさいシーンから現れたが、『フュリオサ』ではそれ以上にバカっぽさを表現。予想以上に出番も多く、フュリオサに逃げられる彼のバカっぽさが彼女の凛々しさを引き上げる効果に一役買っているのだ。

同時に、ジョーと並ぶ敵となる本作の準主役ディメンタスのバカっぷりもフュリオサを存分に引き立てている。つまり今作は、バカ男ばかりに囲まれたフュリオサの奮闘記でもあるのだろう。

監督のジョージ・ミラーはさらなるシリーズの継続を計画しているそうで、『フュリオサ』では出番のなかった(?)マックスを軸とする新たなストーリー『Mad Max: The Wasteland』のスタートが待たれている。しかしながら、すべては『フュリオサ』の興行成績しだいらしく、ネイサン・ジョーンズは劇場公開が始まると、自身のSNSに「批評家、ファンとも評判はいいが、興収がいまいち」を意味する投稿。「ゴーサインが出るように祈ろう」としている。

世紀の大傑作『怒りのデス・ロード』のあとに製作された『フュリオサ』。『怒りのデス・ロード』の謎が解ける前日譚ながら、むしろ時系列通り『フュリオサ』『怒りのデス・ロード』の順に観る方がいまとなっては正解だろう。

新しいユニバースがスタートすれば、『怒りのデス・ロード』『フュリオサ』で重要な役を演じたネイサン・ジョーンズが異なるキャラクターで現れる機会もあるかもしれない。『マッドマックス』のトーカッターから『怒りのデス・ロード』でイモータン・ジョーになったヒュー・キース=バーンのように。