レストランの老夫婦 | ロングテールの先っぽで

レストランの老夫婦

普段は若者がごった返している下北沢のレストランに
七十は過ぎているだろうご高齢の夫婦が入って来た。

ウェイターが注文を取りに来た。

おじいちゃんがコーラを注文した。
おばあちゃんがしばらく悩んでいる。

おじいちゃんが「ほら、はやく頼みなよ」とせかす。

おばあちゃんはすこし焦ったようにメニューに目を食い込ませて頼むものを探していたが、やがてナポリタンを注文した。

その時、僕は「おや?」と思った。

おじいちゃんがコーラでおばあちゃんがナポリタン?
どう考えてもふしぎな組み合わせだ。
おばあちゃんも飲み物が頼みたかったんじゃないだろうか。

ウェイターが聞き直す。
「お飲み物はおひとつで良かったですか?」

おじいちゃんに疑問そうな顔が浮かぶ。
おじいちゃん「いや飲み物ふたつ」

ウェイターに疑問の顔が浮かぶ。
ウェイター「えっと、、ナポリタン、、、」

確かにその老夫婦の喋りは、やや聞き取りづらかった。
でもそのウェイター、明らかにそこでコミュニケーションを諦めやがった。
もう一度しっかり確認すれば、その老夫婦の注文は間違いをおかすことなく取れたはずだった。


面倒臭くなったのか、おじいちゃんの方が、コーラ二つでいいや、と言った。

僕は春野菜のパスタを食っていたので、そこでその老夫婦への聞き耳を終わらせた。

しばらくたったあと、ふとその老夫婦の机に目をやると、コーラが一つだけおかれている。

またぼくは、おや?と思った。

そしてナポリタンが出て来た。

おばあちゃんは少しびっくりした笑いのあとに「わあ!美味しそう!」と、確かにそう言った。
おじいちゃんも「そりゃうまそうだ」と言った。

おばあちゃんのフォークがなかなか進まない。
恐らく、お腹は減っていなかったんじゃないだろうか。

おじいちゃんが言った「無理しなくていいよ」


そう言えば、僕のおばあちゃんは極めて高いリスニング能力を必要とする日本語を話す人で、
子供の頃はあんまし喋りたくなかった。
何を言ってるかわからないし、こっちの言ってることも分からないだろうと思っていたから。
でもおばあちゃん、全部知ってたし、全部聞いてたんだよね。

言ってることが分からない時は、分からないって言った方が。みんな幸せだと思います。


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