おばちゃんとお母さん | ロングテールの先っぽで

おばちゃんとお母さん

時間が少し空いたので、渋谷の高架下のラーメン屋に入った。
味にこだわりがある店というよりは
効率的にラーメンを食わせるチェーン店のような
でもまあ内装はこぎれいなお店だった。

鶏しおラーメンを食べることに決めて
券売機が空くのを待った。

一人のおばちゃんが手間取っている。

しばらくあれやこれややっていたのだが、
僕がメニューを決めた事を察したのか、振り向いて

「どうぞお先に」

と、すまなさそうな笑顔を浮かべて言った。
何が原因で順番を譲ってくれるのか分からなかったので
少し僕が戸惑っていると

「あの、味噌ラーメンはどれですかね?」

と聞いてきた。
なるほど、券売機の字は決して小さいものではないが、
60前後に見られるそのおばちゃんにとっては
読むのには苦労するらしい。
ボタンもたくさんある。

「年を取ると全然見えなくなっちゃってね」

と笑いながら言うおばちゃんは
ちょうど僕の母と同じ歳くらいの雰囲気を持っていた。
多分、僕くらいの歳の息子もいるのではないだろうか。

僕は味噌ラーメンのボタンを教えてあげて、
お金を入れる場所を教えてあげて、
出てきたおつりの取り方まで教えてあげた。

不器用なところが母親そっくりだ。

多分、家の近くのよく行く和食屋さんだったら
こんなに戸惑う事はなかったろう。
若い街、渋谷の高架下のチェーンのラーメン屋なんて
"迷い込んできた"としか思えない、
などと勝手なことを考えながら
ふと、母親のことを思った。

母親がたまに遠出をして、不慣れな街に行った時などは
やはりこのおばちゃんのように手間取ったりしているのだろうか。
やむなく使い方の分からない券売機のあるお店に入ったりしているのだろうか。

手間取っている時に
後ろに並んでいる若者に
舌打ちされたりしてないだろうか。

そういうことを考えると、どうもこの年齢の女性には
ことさらに親切にしてあげたくなる。

学生時代は勉強に口うるさかったし
細かいことにあれこれ言うやかましい母親だが

さすがに舌打ちをされていたらかわいそうだ。