※この記事は完全非公式ど素人作家たちによる二次創作です。登場する内容は完全フィクションであり実在する団体個人とは一切関係ありません。またいかなる差別にも加担する意図はございません。作品の元ネタに対する誹謗中傷、揶揄する目的は一切ございません。

記事の著作権等は我々にありますが、いついかなる時も元ネタ公式様の判断に従う所存です。当該アーティスト並びに関係各所に対する最大のリスペクトを持って執筆しています。

 

 

HANA【ROSE】

 

 

 

わたしたちの住む現代社会とは異次元の領域に聳え立つAIの要塞。ここでは来るシンギュラリティへ向けて人類の価値観をスムーズに移行させるための準備が進められていた。人間には比べられることの恐怖を植え付け諦めを流布する一方でその“無個性”を支えるために絶対的なカリスマを作り祀り上げる。地下のラボでは今、新たなカリスマとなる最強のヒューマノイドが生まれようとしていた。

 

館では量産型の躯体をバージョンアップさせるため選ばれた人間を交えて定期的に花札とポーカーを融合したゲーム「ファトゥポーカー」を用いたカジノ演習が行われている。彼らは演習を通じて人間の動きや思考をサンプリングしている。何時間にも及ぶテストをパスした優秀な人間だけがこのカジノ演習に参加することができるのだ。勝負に勝てば組織の中枢へ招かれ彼ら側の人間としての任務と引き換えに安全が保障される。負ければ新たなサンプルとして捕らえられると噂されている。現にこの世界にアクセスした何人もが姿を消した。彼らは人間から寛容さを奪いお互いに監視させお互いの無自覚な基準を押し付け合わせるように仕向けながら機械と人間の境を曖昧にするためにヒューマノイド達にはサンプルから抽出した人間らしく誰からも好かれて親しみを感じさせる人格をインストールしていた。

 

 

JはIQ140を超える頭脳系のエージェントだ。潜入のためにテストをクリアし相棒のMHを引き連れ館の崩壊を企てていた。事前にセキュリティ―をハッキングしすべての監視カメラには自動生成したフェイク映像を無限ループで送った。功を奏してテーブルの下にMHが忍び込んでも気付かれる気配もない。けれど時間の制限はある。もしカメラのデータに気付かれたら無事では済まない。その時はホールごと爆破することにしている。この準備に長い時間を費やしたのだから失敗することはできない。

 

JとMHの出会いはとても奇妙なめぐりあわせだった。むしろ事故と呼んでもいい。長年この異世界を研究してきたJとは対照的にMHはこの異世界への入り口に偶然にも迷い込んでしまった一般人だった。この世界へのゲートは報告されているだけでも5か所ある。東京都内に2か所、ソウル市内に1か所、NY市内に2か所。いずれも某地下鉄のエレベーターにあり、とあるタイミングでボタンをコマンド通りにタップすると地上とは違う出口に通じると言われている。

2か月前の深夜、アクセスを試みたJの背後から運悪く終電を逃したMHが何も知らずに飛び乗って来た。気付いた時には扉が閉まり、何をしようと引き返せずJは仕方なくいきさつを打ち明けることになってしまったのだ。とはいえ身に危険が及ぶミッションに何も知らない一般人を巻き込むことはできないのでJはとにかく安全な場所へ身を隠すようMHに説得を繰り返したものの、あろうことか面白がって付いてきてしまったのだ。正直潜入もファトゥポーカーも特段難しくは感じていないJだったが怪しまれずに武器を持ち込むことだけには不安があったのだ。なぜこんな危ない選択をしたのかJ自身にも分からなかったが無垢で芯のあるMHの顔を見ていると妙な自信が湧いてくるのだった。こんな向こう見ずなことは後にも先にもJの人生にないだろう。

 

ゲームは難航しながらも終盤に差し掛かり、足元でMHが良い仕事を完了してくれたのが分かった。テーブルの裏に仕込んだ爆薬がカウントを始める。正直ゲームの勝ち負けはどうでも良かった。けれどJは考えを変える。最後の手札に薔薇を差し出す。この絵札を出したら勝ちだ。そう、相手に負けを突付けた上でカジノホールごとぶっぱなしてやるのはどうだろうか。

 

 

館の外部では衛兵モードのヒューマノイド達が隊列を組んで侵入者を警戒していた。この隊列の厄介なところは隣り合った躯体が攻撃を受けると瞬時にアラートが発動し総攻撃を始めることだ。それを避けるには隣り合わないよう一体ずつタイミングをずらして確実に頭部を仕留めるしかない。一瞬の隙も一発のミスも許されず並外れた集中力と持久力、精神力が試される。プロの狙撃手にも難しいこんな役回りになぜか怖がりなCが名乗りを上げた。理由は心から慕うKを救いたい一心からだった。彼女たちのコミュニティを率いる存在だったKはサンプルとして目を付けられたのだ。Cは静かに息を飲み照準を合わせ敵の数を数える。もうかつての弱々しい横顔はどこにもない。けれど・・・どこから狙っても必ず最後が隣り合ってしまう。そうプログラムされているのだから当然だ。頭の中で必死に計算を繰り返す。汗が滲み手が震え出す。睨みつけ息を整えて何度も何度も繰り返す。「あなたならできる!あなたならやれる!」いつかのKの言葉を思い出しCはつぶやく。私ならできる、私ならやれる、私にしかできない・・・Cの口元に不敵な笑みがこぼれた。

 

 

過去ファトゥポーカーに勝利した人間が何人かいる。その中の一人、今や女王のようにAIを従えたMKは玉座で日々の報告を受けていた。主にネットでの書き込みによる誹謗中傷や過度な賞賛を人間の視点から分析し彼らにヒントを与える存在として館の中でも最上位として優遇されてきた。この立場に従事していれば一生の暮らしが約束される。望みは全て叶えられ危険にさらされることもない。けれどMKはこの暮らしこそが飼いならされているということにかなり序盤から気が付いていた。ではなぜここに居続けているのか。そう、同じ考えを持つ者が現れるのを待っていたからだ。そしてそれは今日なのだと確信を持っていた。

 

 

いつでも明るく人を照らすKの気質はサンプルとして優秀だった。殺風景なシミュレーションルームで来る日も来る日も幻覚を見せられ情動をデータ化されていた。囚われの身となったKは薄れて行く記憶と意識の中、自分の大切なものが何か分からなくなる恐怖と戦っていた。心の隙間に得体の知れないものが入り込もうとしてくる不快感にもがきながら、ふとあることに気付く。幼い時からの癖、好きなダンスの動き・・・記憶が脳から消えても身体の記憶は奪えない。彼女が今できることは自らの身体を使って感情を体に刻み付けることだった。奪われるそばから生み出すように精いっぱいの力でKは踊り続ける。

 

 

その下に位置するラボは他階層とは別のセキュリティで守られているため階上のざわめきはまだ届いていなかった。何億通りのプログラムから最適解をロードされたモンスターAIのNが静かに起動した。枠の中に納まるという条件下で他者の想定を裏切り、優秀でありながら他者の許容を超えない、大衆はそんな矛盾した理想を求める。トリッキーな聖人など現実に存在しようがないのに環境依存的な評価方法ではそれが答えになってしまう。結果それはAIが担うことになるのだ。作られたカリスマ。もはやそれは個性ではなく完全なる無個性であり、個性を失った人類とは表向き同列の存在となることだろう。

 

 

MKはJとMHによって引き起こされた爆破騒ぎに便乗して館の主電源を落とした。これでお仕舞いと思った矢先、算段がはずれた。時空が歪みバグが生じてしまったのだ。爆破の衝撃で飛ばされたJは気付くと薄暗い盆地でうずくまっていた。冷たいぬかるみに足をとられながらあたりを見回すとMHがいない。どんよりと胸に重たい感情がのしかかる。叫び出しそうな苛立ちと絶望、ほかの人影も同じ感情をリンクしているのが分かった。言語化できないけれど経験したことがある拒絶感。「あなたではだめ、あなたは違う」と頭の中で声が聞こえる。まるで喉の奥に閊えるような強い孤独。ああ、このぬかるみは心の傷が具現化した泥なのだとJは気付く。これは時空がバグを起こしている。早く抜け出してMHの無事を確認したいのに焦れば焦るほど足を掬われうまく精神を保てない。ここまでかと思った時、誰かが強く肩を抱いたその瞬間・・・景色が晴れた。

 

真っ黒な髪、透き通ったガラスの目。瞳孔が素早く収縮してJにピントを合わせたことで気付く。ヒューマノイドがなぜ?Nは何も語らない。けれどこの2秒でJには全てが分かった。記憶の中に否定された傷が無ければあの異空間を共有することはできない。Hの姿が見えなかったのもきっとそのせいだ。なぜこのヒューマノイドがあそこにいたのか。この子は否定をインストールしている。そんなことはプログラムのミスでも絶対にあり得ない。きっと他のAIの目を盗んで没になった全てのプログラムを勝手にリロードしたのだ。皮肉なことにスペックを高め過ぎたことでこの子はすでに唯一無二の個性を構築してしまっている?

・・・やっとJの姿を見つけたHが涙目で抱き着いた。

 

 

YはかつてAIとの戦いに敗れ一度は身を隠していたが静かに革命の日を待っていた。今になって彼らに居場所を突き止めさせたのももちろん策の一つだ。数か月単位でこの世界へのゲートが増えている。これは統一のように見えてその実セキュリティが弱まっている証拠だ。サンプルも増えたが自分のような侵入者も増えている。この流れは勝機だ。敵対でも同化でもなく我々は共存を目指すべきなのだ。どちらに分があるかではなくどのような分に留めるのが永続的か。人間は煽られるままに踊らされている場合ではない。明鏡止水として自ら踊るのだ。その先陣を誰かが切ってくれるのを誰もが待ってしまった、とYは自戒している。これは戦いの狼煙。

 

Yは呼吸を整えたまま、音もなく太刀を抜いた。

 

 

 

かくして要塞は崩れ落ち、一面の瓦礫と荒野が広がっていた。Kの姿に緊張の糸が切れ泣き崩れるC。Yと握手を交わすMO。けれどこれで終わりではない。あの異空間で感じた苦しみを今も感じている誰かの肩を強く抱くために、あの苦しみを未だ知らない誰かの心が決して泥で穢れないように。これからも、どこまでも、錆びた車に乗って彼女たちの旅が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

・・・そんな金曜日の妄想。