家族の死を考えたことはあるだろうか?
もちろん、両親が高齢だったりすると意識はするだろう

では、子供や妻、自分の死はどうだろう?
我が輩はつねに死についての妄想をする

しかし、それは今多く報道されている自殺ではない

それは妻の病がきっかけだった


平成15年、夏が過ぎ、妻は何となく左胸にしこりがあることを発見
我が輩もいやらしい直診でたびたび確認、何となく分かる

それから1カ月後、町の乳癌検診を受診
要、早急な精密検査必要との結果

それでも二人して多少楽観していた
まだ若い(その時妻は34歳)きっと大丈夫だろうと・・・

しかし、どうせ受診するならとネット他色々調べ
実家のある札幌でも、その道では有名という病院を見つけ検査を受けた。
11月も中過ぎ、北海道は冬まっしぐらの季節だった。


心もとなさそうに一人で検査に向かった妻を見送り
ボーとした数時間をすごす。

携帯が鳴った。

妻からの着信、そして泣き声。話さずともどんな状況なのか把握できた

「俺は、冷静でいよう」「焦らずゆっくり彼女の話を聞こう」

心の中で決意する。

目を真っ赤にした彼女を車に迎え、ゆっくり話を聞く

医者が言うには、明らかに癌で年齢から早急な手術が必要と診断
自分の弟子の中でもっとも腕のいい医者がいると言う病院を紹介された

動揺し、泣きじゃくる彼女をなだめながら
その病院へ車を走らせる 

紹介状を見せ、一通りの精密検査を受けてもやはり結果は変わらず
一週間後に入院し更に入院一週間後に手術することまで決まった・・・





あわただしく一日が過ぎる



入院前日、実家に二人の子を預け夜二人でドライブ

そして、結婚して本当に数年ぶりでラブラブホテルへ

彼女の体を慈しむように、愛おしく愛し合った

数日後メスが入るであろう胸を優しく愛撫しながら・・

本当に愛おしかった!!



入院から我が輩は自宅と札幌、何度往復したことか(片道270Km)

その間ネットでどんな手術法があるのか、使う薬、統計データ
様々な資料を入手。プリントアウトした資料が1cm近い厚さに・・

担当医とは十分なインフォームドコンセンスを交わした
自分で集めた資料と共に、妻を交え三人で

大まかに手術には二通りある、乳房を残す方法と
切除する方法だ

前者は、一部を切り取るのである程度形を留める
後者は綺麗に取り去ってしまう

生存率ではあまり変わりないのだが
前者の場合妻のケースだと数ヶ月にわたり放射線治療が必要になる
つまり、幼い子供を残し毎日通院し放射線の苦痛に耐えなければならない
地方に住んでいる妻には当然毎日の通院は無理だし
リンパ節に転移の疑いもありより、精密な手術が必要になる

妻と交わし得た結論は少しでも早く子供の元へ帰ることの出来る
後者だった・・・


ま、妻は思いっきりもいい方だ。我が輩も医師も賛同した。

手術日は午前9時に病室を出ることが決まっていた
いつも実家から40分で着く病院朝の札幌は通勤ラッシュで渋滞する
いつもより早く実家を出るが間に合いそうにない、猛ダッシュだ
若かりし頃の短気でやんちゃな自分に戻りアクセルを踏む
刻む秒針とにらめっこしながら

病院に着いたらついたで、走ってはいけない院内を爆走

そして妻が病室を出、手術室に向かうエレベータに乗る寸前に
どうにか間に合った、ただ見送る事しかできない自分
声にならない心の声で「がんばれよ」がやっとだった

予定は2時間30分 僕には待つしかできない時間だ妄想が駆けめぐる
助かってくれ!いやいやそんな末期ではない
俺と子供を残して先に進むなよ
明らかに無駄でとりとめのない妄想・・・

予定の時刻を1時間ほどオーバーし無事手術終了

ホットしたのもつかの間、この後がとても辛かった

術後しばらくし担当医と面談する

我が輩の目の前にある何かの白い布を取り払う

そこにはトレー?に乗せられた少し前まで血の通っていたはずの

切り取られた妻の胸が無造作に乗っていた、何を語るのでもなくただ・・


生まれて初めてと言っていいくらいに全身の力が抜けた

自分が愛し愛撫し、自分の手のひらに幾度と無く包まれてきた
妻の胸が血の気無く、透き通るように真っ白な物体として現れたからだ


目に涙が満ちてくるのがわかる、が必死に堪えた

これから妻自身もっと辛いはずだから自分が辛いと思ってはいけないのだから


冷静さを取り戻し、現実に戻り医師の話を聞く
裏返した胸に、その場で無造作に再度メスを入れる医師・・・
これがガン細胞、直径は3cmちょっと。リンパ節も赤く腫れ上がりポリープが
10個ほどあったから出来るだけきれいに「?きれいって何だ!?」
切除したと説明を受ける
「ハァ~」気の抜けたわが輩の声

知識はある、理解はしている、資料も熟読していたし覚悟もしていた


が、心はたぶん何一つ納得していなかった


そう、なぜ我妻に何故彼女が?走馬燈のように駆けめぐる



ポリープの細胞検査の結果は一週間後に出るそうだ
「結果をふまえ今後の治療法を相談していきましょう」それが医師の言葉

「ハイ、では自分も又、妻といろいろ相談してみます」そう答えた



妻は、もちろん末期ガンではない
しかし、早期発見の部類でもない
若い分癌も元気が良く進行スピードが速い、これが確かな事である

何が起きても自分が慌ててはいけない、焦ってはいけない
急いでもいけない


今すぐ、今日明日に死が彼女に訪れる事はない
しかし不安が自分を襲う「死という名の」

だから先々を妄想し子供たちは任せろ、大丈夫だ!!!
すぐには再婚しないから、安心しろ!などなど
そんな妄想をいけないと思いつつしてしまうのだ


妻の年齢の5年生存率60%~70%
残りの30~40%のうち抗ガン剤投与の効果がある人は約30%
ドラマの87%よりずっと低いこれが現実
(ちなみにあのドラマ、夫婦そろって1話も見た事がない)

欧米では女性の死亡原因の8人に1人が乳ガン
日本でも今や30人に1人を切って死亡原因のトップに躍り出る
勢いがある・・・近い将来間違いなくトップだろう
新しい薬、切除法もどんどん出てきている
しかし、絶対条件はやはり早期発見しかない・・・




なが~くなっちゃったので次回に引きずりますぅ(-_-;)