学校で親友とケンカした。
ぼくは親友をもう怒ってなんかいない。
だけどいま、少し寂しいような気分だ。
いまぼくは抱えた気持ちは海の底。
心にかかる水圧は、体全部にかかっているようで体は重くて、足取りもとても重かった。
ランドセルまで思い気がする。
実際には中は空で置き勉している。
1人で、学校からとぼとぼと下を向きながら、ガードレールのない歩道を行く。
朝は雨が降っていた。
だから右手にある傘が歩調にリズムを刻む。トンっ、トンっ、と。
歩きながら、その音がなんとなく鬱陶しく感じて、丸めて束ねるためのボタンがついたヒモの下あたりを持った。
ついでに左手に持ち替えた。
傘はぼくの左側で、左足と前後を交互に動く。
足元で水たまりがぼくに踏まれる。
中に映る濃い緑と隙間から覗く水色、そして暗いぼくの顔は乱れた。
普通の運動グツなので、靴下にひんやりと気持ち悪く、じわっとした。
地面の土をクツはグチャグチャと踏んでいた。それとともに茶色く汚れる。
ふと気づくと、そこはいつのまにか帰り道の、家からほど近い林の中だった。
いつのまにか、という感じだった。
やっぱりケンカのこと、親友のことをひたすら考えていたからである。
ぼくは、同じ通う小学校にいるマイちゃんの悪口を言った。
マイちゃんは同じクラスの1番賑やかなグループにいるやつだ。そのなかでも際立ってうるさい、というわけでもなかったのだが
『マイちゃんってうっせえよなあ!ははっ』
さっき、帰りの会が終わった後に下駄箱で親友のタクトにそんなことを笑いながら言ってみた。
そんなのいつものはことで、深いわけもなくて、ただそのときふと思ったから言ったのだ。
ぼくは普段からそういうやつだった。
そういう話を今日はしようと思ったのだ。
ここからクラスの気になる女子でも話そうかな、とでも思っていたのだ。
だけど、タクトはいつものタクトではなかったのである。
『なんだよそれ!うるせえよ!』
と言って乱暴に下駄箱に上履きを放り込んで、土足を下に叩きつけた。
すぐに散らばった二足に足をいれ、ドタドタと昇降口を走り出て行ってしまった。
ドアに黒い使い古しのランドセルが当たって、ガンッとなった。
あたりは他の生徒が帰っていて、賑やかだった。
それに対して、ぼくの頭の中は静かに真っ白になっていた。
ぼくの周りだけは静かなような気がした。
だんだん頭の中にザワザワガヤガヤとら血を止めた部分に血が戻って行くように、色がつくように、避難していた思考が戻ってきた。
タクトはけっこう大きなな音量で叫んで出ていった。
顔をしっかりみたぼくは、タクトが本気で怒っているんだな、としっかり認識した。
どうして怒ったんだろう。
なにが行けなかったんだろう。
明日タクトと会ったらどうしよう。
ぼくが悪いのかな。
謝るのはヤダな。
そんなことをグルグルと考えながら結局いま、家から近い林を抜けてしまった。
つまり家はもうすぐそこである。
顔は前をなんでか向けなくて、タクトのことを考えながら、ただ黙々と歩いた。
林を抜けるとお天気雨が降っていた。
夕暮れになり始めて辺りはオレンジ色だ。
だが、周囲はまだまだ明るく、その中で雨がサーーッと降る。
ぼくは太陽の下で傘をさす。
という変な感覚に、不思議な出来事に少しケンカのことを忘れた。
汚れた運動グツでコンクリートに変わった道を歩く。
少し足取りは軽くなっただろうか。
少し先におっきな水たまりを見つけた。
そこに飛び込んでやろう、どうせクツは汚れてるんだし。まあいいや。よーし!といった感じで、早歩きになる。
駆け足になる。
『とうっ!』
と小さく叫んで、ぼくが寝っ転がったくらいの幅がある水たまりの真ん中に向けて飛び込んだ。
真ん中に着地して、バシャーっと水たまりが跳ね上がる。
ぼくは水たまりの真ん中にたたずんだ。
そして波がおさまるのをジーッと見た。
あるものを見つめたからである。
波がおさまるにつれて、色がハッキリとしてきて、それにつれてぼくの心もワクワクした。
あかるくなっていくようなきがした。
自然とほほえんでみた。
明日は頑張ってタクトに謝ろうと思えた。
笑顔を浮かべ、水たまりの真ん中で、
ぼくは空を見上げた。
太陽が少しまぶしい。
けれどしっかりみつめた。
大きな輝く虹を。