CDレビュー: ヤなことそっとミュート / BUBBLE | アイドルKSDDへの道(仮)

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心に茨を持つ山梨県民こと「やまなしくん」のブログ。基本UKロックが好きですが、最近はもっぱらオルタナティブなアイドルさん方を愛好しています。

最近のアイドルシーンを俯瞰して思うことは、「ロックを演るアイドル」というのが、もう当たり前になった、ということ。実にたくさんのインディーズアイドルが、「激しいロック」に合わせて、踊り歌っている。しかし、その大半が「ハードロック風味の歌謡曲」といった趣きで、イマイチ面白みを感じられなかったりもする。

そんな中で2016年6月にデビューした「ヤなことそっとミュート」(略称ヤナミュー)は、「激しいロックを演るアイドル」の中でも、他のグループと比べて明らかに異質なサウンドを鳴らしている。90年代のUSオルタナティヴロックやハードコアを思わせる、歪んだエレキギターの音色に、繊細さと激しさを並立させた曲構成。それもそのはず、彼女たちのキャリアは、既存のロックバンドの曲をカバーすることから始めたのだから。(デビュー作『8CM EP』に収められた「カナデルハ」「Done」はBACKDATE NOVEMBER、「see inside」「燃えるパシフロラ」はSay Hello to Sunshineのカバー曲である。) その本格的すぎるバンドサウンドは、ダイナソーJr.やアット・ザ・ドライヴイン等が引き合いに出されることが多いが、ジャンルとしては「90年代エモ・リバイバル」が基本となっているようである。

「エモ」はロックの中でも比較的マイナーなジャンルだし、「女性ヴォーカルのエモ」なんて世界初…かどうかは知らないが、相当に珍しいことであることは確かだろう。さらに彼女たちはアイドルであるから、そんなサウンドに合わせて、歌って踊るのである。ヤバい。ヤバすぎる。まさに唯一無二。日本のアイドルカルチャーでしか生まれ得ない表現だ。筆者は何度かヤナミューのライブを目撃したが、デビューして1年に満たないにも関わらず、完成されたフォーメーションダンスや安定感のある歌声を聴かせてくれて、激しく魅力を感じずにはいれられなかった。

ヤナミューの真価はライブでこそ発揮される…ことは確かなのだが、単純にこのアルバムをエモやグランジの系譜に属するオルタナティヴロックとして聴いても、むちゃくちゃにカッコイイことは、声を大にして主張しておきたい。「Lily」の胸に突き刺さるメロディと焦燥、「orange」の叙情性と疾走感の完璧な融合、「ホロスコープ」の静と動のダイナミックな対比…等は、楽曲そのものがエモい魅力に満ちていることを証明している。歌唱も水準以上の出来で、特にメンバーの「なでしこ」の突き抜けるようなハイトーンの歌声には惹きつけられる。

今のアイドルシーンの中で、BiSHが「楽器を持たないパンクバンド」ならば、さながらヤナミューは「楽器を持たないエモバンド」だろう。デビュー当時から既に大きな注目を集め、人気も順調に上昇しているようだ。洋楽ロックファンはもちろん、邦楽ロックファンにこそ聴いてもらいたい、可能性に満ちた佳作だ。